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怖いよりも愛しいほうが強いのでスタイルを変えられない話

こんにちは。色々思うことがあって、noteで定額有料記事というのを始めたくて申し込みをしたところです。
申請が通るまで一週間くらいかかると言うことで、それまで無料の文章をどかどか書いていこうと思います。申請通らなかったら、もうそのままどかどか書くことにします。
まあいいからみんな読んでよ。Twitterにいつもいるけど、書かないでいることもたくさんあるんだよ。

うろうろしながら漫画を書くリスクとは

私はネームをうろうろしながら書くので、街中のいろんな「机のあるところ」に出没します。というか、机なんかあったら贅沢なもので、椅子しかなくても出没します。
どこかのオフィスのロビー、天気の良い日の公園のベンチ、マルイの小洒落た椅子、友人が呼んでくれたカラオケボックスでネームを書いてる時なんて、机も椅子もあるし最高。私が歌う曲は誰かが勝手に入れてくれて、「え、これ歌うの?!」とペンとマイクを握りかえ、歌ったらまたネームに戻るような、そんな器用な創作活動をしています。

いつからか、無印良品のノートからiPadになったけど、どこか不定の場所でネームを書くと言うスタイルは変わらぬままです。

どこでも書けるんです。集中さえすれば。いや、集中するためにうろうろしていると言える。全然終わらないからうろうろしてるんだもん。

自分の中に、カフェなら2時間を超える客にはなってはいけない、というルールと、混んだらすぐどこかに去る、というルール。いいお客さんでいたいんです。

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その日もiPadを開いてネームを書いていました。ネームとは漫画の下絵の下絵のようなもので、私は結構下絵そのままみたいにちゃんと絵を入れます。

こんな感じで、知ってる人が見ればそれは「漫画」であり「ちはやふる」であるとわかる感じです。

でもそんな、すぐわかるような人が近くにいるなんて思わないわけです。ほんとにみじんも想定せずに大きなカウンターテーブルにドーンと置いて書いてます。だってそういう人たくさんいるもん。

なんならズームで会議してる人もいるし、仰天するほど美麗ななんらかのポスターになるでしょこれ?!というようなダークファンタジーのモンスター描いてる人もいる。

いやじゅうぶんすぎるほど人のお仕事って見えとうばい。

そんなガードの低い私たち(あえて「たち」という。私だけじゃない)のなかで、安心して私もガードを下げて漫画を描いていましたら。

先日
「ちはやふるの先生ですか・・・」と声をかけてくるサラリーマンさんがいました。

その時人類は思い出した。奴らに支配されていた恐怖を。

これは「進撃の巨人」の有名なセリフですが、なんで忘れてられたの?ねえ人類・・・。

「え…え…、はい、そうです…」

返事をしましたが、心臓は高鳴ります。

「そうなんですね…。僕、読んでます」

顔が見られませんが、黒っぽいスーツの細身の男性です。顔が見られませんが、私の目は泳いでます。男性は静かに隣の席に座りました。

・・・座るの!?

カウンターの真隣に座り、何やらノートを出す男性。お仕事?お仕事するの?そして、明らかに64色揃っているカラーペンをテーブルに出します。え?あなたも何か絵を描くお仕事?

でも何も手を動かさない男性。

わからない…。

わからないけど、ここで席を立ったら人類の負けな気がする。

いや、人類、逃げたほうがいいよ!!と漫画読んでるみんな思う展開だと後からなら思うんですが、そういう時すごく主人公気質(違)が出てしまって、

私全然気にしてないですよ、仕事続けますよ。

というオーラを出してネームに取り掛かる自分がいました。

もうねえ、すごい。

その日も全然集中できなくて、すでにカフェを2軒移り歩いていて、全然ダメだーと思ってうんうん悩んで9割Twitterをしていたのに、

そこから全然スマホを触ることなく、ぶっ通しで3時間。

3時間ずっと隣にサラリーマンさんいるんですよ。開いたノートも64色のペンも触らないでそばにいらっしゃるんですよ。もう集中するしかないじゃないですか。

なんと

ネームが終わった・・・!史上最速3時間で!

勝った!人類は勝った!何かに勝ったーーーーーーーー!

もうなんていうか、その爽快感。追い詰められた状況が、私から雑念(スマホ遊び)を奪い去り、「仕事一生懸命してるんだから話しかけないで」オーラがそのまま仕事をやり遂げさせた瞬間でした。

自分のルール、2時間以上カフェにいてはいけない、というのを破ってしまってカフェには本当に申し訳なかったのですが、ある種私の史上最速ネームを書かせてくれたサラリーマンさんに対し、何かものすごく清々しい気持ちになったので

「さあ、どうします。何か書きますよ」

と話しかけてる自分がいました。


サラリーマンさんは、64色のカラーペンをすっと私に差し出し、

「理音ちゃんをお願いします」

理音ちゃん。あなたの推しは、理音ちゃん。

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三時間も理音ちゃんを待っていたのかと思うと楽しくなってきてしまって、開いたそのノートに書こうとしたら、

「あ、こっちにお願いします」

サイン用の色紙が、サラリーマンさんの紙袋から出てくる。

なんで持ってるの?

もう何もかも謎なんですが、ネームが上がった開放感でもう全部面白くなってしまって、ニコニコしながら理音ちゃんを書きました。カラーで。


ディフェンス能力を全部お母さんのお腹の中においてきたので、いつもこんな感じでいろんな目に遭いますが、

そんなふうに三時間そばで仕事してる私を見守るサラリーマンさん(サラリーマンかどうかも謎だよ!三時間日中そんな過ごし方できるの?)も、

なんていうかもう、怖いより愛しいんですよ。

だからこれからも不思議なことが起こるんだと思います。

あの理音ちゃん、元気かなあ。大事にされてるといいなあ。


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