ポケモンスリープ始めた瞬間パリ五輪
こんにちは。連日どこかで日本の史上最高気温更新しているというか、日本の暑い地域が30人31脚をして一斉にどこか遠くの高みを目指して走っているような、そんな盛夏です。お変わりありませんか。
私はうっかりスケジュールを間違えて、7月の締切がなかった(お休みだった)のを忘れて1話仕上げてしまったので、逆に8月の締切がお休みになるというタナボタの夏休みを過ごしています。
ハッ としました。
ハッ。オリンピックがやってくるじゃないですか。
オリンピックが多少なりとも好きな方なら記憶に新しいと思いますが、2021年の東京オリンピックの時は悔しかった・・・・
いろんな制約が課されて、競技かるたの世界も大きな影響を受けて大変でしたが、オリンピックが大好きな分辛くこらえる時期でした。
せっかくなんの時差もないのに、チケットが当たっても観に行けない。聖火が置かれているというお台場も「近くに行くの禁止」というお達しが出て、集合禁止。誰かと家に集まって一緒に観戦することもできない。
家族だけで体育座りをして観戦したのが不思議な色で心の中に残っています。
コロナ禍の対策のないパリ五輪は、新しい挑戦満載で始まりました。
世界遺産で溢れた街中が同時にスポーツ競技場になっていることに驚き、その思い切りの良さと持てる財産を全て使おうという太っ腹さに、毎日七色に味の変わるきゅうりを齧っているかのような新鮮な思いをもらっています。
SNSが発達してスポーツの見方が変わりました。
たくさんの人と一緒に決定的場面や奇跡の瞬間を「わああ!」「ひゃああ!」と言いながら見ることができるようになりました。
緊張も落胆も喜びも表現して、細切れの言葉も一斉に発する波となって、だれかと踊っているかのような気持ちで呟くこともありました。
でも最近もうそれができない。
あなたとあなたと一緒にテレビを見ているような気持ちでつぶやけていたけど、もうそういう無邪気な見方ができない気持ちなのです。
だってオリンピックに興味がない人もいる。
どこかで戦争をしているのに平和の祭典を楽しむことなんかできないと思う人もいる。
自分の毎日で精一杯なのに深夜の視聴できるなんていい身分だねと思う人もいる。わかんないけど多分いる。
同じ思いでいない人も見ると思うと、自分の言葉が起こすごく小さい波紋もないほうがいいものに思えてしまうのです。
ロシアは戦争やドーピングの影響で選手団を出せていないのに、イスラエルは選手団を出せていることに、それはどうなんだと思う自分もいます。オリンピック開催地となったために負担を強いられる街の人や、環境の負荷に矛盾を多く孕んだ現実を感じたりもします。
煌びやかな面だけを楽しんでいいのか?
経済的に豊かな国だけが有利なスポーツ大会なのではないか?
でも、あの舞台に立つ選手みんなのうちだれも「楽々ここに来ました」という人はいないのです。
その人なりの地獄があって、絶望があって怪我があって不運があって、傷だらけになった体を「それでもやるんだ」って奮い立たせて挑んできた人ばかりなのです。
いろんな条件が奇跡のように重なってその国の代表になり、無事に試合を行える体調で、史上最高の自分に会うためにユニフォームを着て試合場に立つ選手がいる。
その背中を応援したいとどうしても思ってしまう。
私のオリンピックのヒーローはアテネ・中国五輪(2004・2008年)男子体操代表だった冨田洋之さんで、いまでも「もしもタイムスリップできるなら、北京五輪男子体操個人総合決勝のつり輪の前の冨田選手に、つり輪に気をつけてって声をかけに行きたい」と思うくらい。(つり輪で落下して4位で終わってしまったから)
その冨田さんは今も日本オリンピック委員会専任コーチで、今の日本代表の橋本選手・萱選手・谷村選手を育てている。冨田さん全然見えるところに出て来てはくれないけど、私くらいになると感じるんです。選手団のみなさんから冨田さんの指導という名のDNAを。
大好きな選手からの流れを感じられるのもとても嬉しく楽しく、長く見てきたご褒美のよう。
結果が出た後お昼の番組でまとめられて「こんな物語が!」と語られるのが常のメダリストたちの軌跡ですが、ライブ放送を見て感じる情報量はその比じゃありません。
スケートボードの金メダルを取った堀米雄斗選手のことも前回の五輪から見ていて、今回も予選から見ていました。
表情豊かな明るい雰囲気の選手が多いスケボー競技のなかで、修験者のような思い詰めた顔をずっとしている選手です。逆に異色ですごく目立つ。
どうやってスケボーを楽しんでいるんだろうと心配になる程なんですが、3回トリックを決められなかった後でラストのトリックを決めてくるそのすばらしい強心臓。なんなんや堀米さん!サラッとした顔してどこまでも金メダル欲しかったんかいな!(当然です)
「イヤホンしてたんですけど、音楽は聞いてなくて・・・」
優勝を決めた後のインタビューで絞り出される堀米選手の言葉を聞き、全然知らない堀米さんの内面がグッと近づきます。
同じタイプのイヤホンを私も持っていて、あのイヤホンがなんの音も出さずに耳にある状態がわかります。
あの華やかなコンコルド広場の会場で、眩しい太陽の下世界中から視線を向けられて、アメリカの選手はみんな何度も高得点トリックを決めていて、イヤホンは外せなくて、自分の番が来て、もうチャンスは一度しかなくて。
自分と向き合うしかないのです。
音の鳴らないイヤホンは、きっと優しい壁となって自分と向き合う空間を作ってくれていたことでしょう。
後ろ向きに降りる技は、乗る手すりもスケボー自体もよく見えず、感覚だけが頼りになると言います。陽気にならない分だけ、まわりからの見えない「支配」を断ち切れた末の、ビックトリック。
あんまり「きゃあああ」「ぐはあ」言うのはやめておこうと思っていたのに、あんまりビックリしてつぶやいてしまいました。
私の決意などかき氷のシロップドバドバかかった上の方くらい脆い。
オリンピックどころじゃない暑さだし、オリンピックどころじゃない世界だし。
でも人類を前に押すような挑戦をしている人たちがいる。
その一部、その結晶の部分を私たちに見せてくれていて、明確に明らかに夢を実現しようとしているその瞬間が時差7時間の世界からライブ放送されている。
スポーツなどまともにしたことがないような漫画家が、その魂の部分を教えてもらえるのはこういう挑戦のかけらひとつひとつなのです。
柔道52キロ級女子代表の阿部詩選手は2回戦で敗退してしまって、その号泣が話題となりました。
その時私は自分の漫画で描いた太一のモノローグ「泣くな。俺はまだ泣いていいほど懸けてない」という言葉を思い出していました。
阿部詩さんは泣いていいんですよ。誰になんと言われようと絶対泣いていい。小さい頃からどれほどストイックに食事制限も鍛錬も重ねた日々だったか。
泣いていいほど懸けてきているのだから。
あなたの一生懸命が、他の人の人生を豊かにすることがあるんだって、私は選手皆さんに感謝しながらずっと応援していきたい。
あなたの一生懸命はあなただけのものだけど、強い光は幾重にも反射して、誰かの締め切った部屋だって照らすんです。
テレビのスイッチを深夜に入れた瞬間に。
問題は、子供に誘われて今更始めたポケモンスリープがパリ五輪と全く相性が悪いと言うこと。全然寝てない人みたいに睡眠情報が取れない日々で、カビゴンが育ちません。
それでも今日も夜中に静かに「はんぎゃああ」って言ってると思います。
進化をしようとする全ての人に、アクシデントがありませんように!
ここから先は
末次由紀のひみつノート
漫画家のプライベートの大したことないひみつの話。何かあったらすぐ漫画を書いてしまうので、プライベートで描いた漫画なども載せていきます。
サポート嬉しいです!ちはやふる基金の運営と、月に3本くらいおやつの焼き芋に使わせて頂きます。