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不安と後悔のミルフィーユが大好きな私たちへ

こんにちは。色んなことがありますが、みなさんお元気ですか。
私は最近「老い」と「死」について目を逸らせなくなってきております。

なぜかというと

◼️そもそも脳溢血で半身にちょっと麻痺のある義父が北海道旅行中に転倒し、左肩をきれいにポッキリ骨折。
◼️義母が下腹部のじわじわとした痛みを訴え婦人科と内科で検査を受け、あまりに不安だったのか私に「再びこの地を踏めるのか、寂寞な気持ちです」と検査前にLINEが来て動揺。原因不明で続く病院通い。(「寂寞(せきばく)が読めなかった)
◼️福岡の母がくも膜下出血で倒れ、一族に衝撃。

という、高齢の親あるあるがドカンと押し寄せた2〜3月でした。

そしてその波状攻撃は終わる気配を見せないどころか、どっちかというと大波になって続いていくものみたいです。

その波一つ一つに途方もなく不安になり動揺するけれど、丁寧に対処する以外にないということも知っています。目を逸らさず、医療の助けをしっかり受けられるようサポートする以外にできることはないのです。

でも我が家の子供たちが特段病院に行くことなく毎日元気に過ごせている様と、72〜80歳の双方両親がかなり頻繁に病院のお世話にならなければならない様子を見ていると、
やはり人間の体の限界というか、磨耗して故障してリカバリーが追いつかない「老い」の波を避けることも逃げることも難しいのだとわかります。

そういえば去年の冬帰った以来の福岡。ジェスのおばちゃんの日記に書いた全ても、押し出されるように「そっち側」に向かう私たちの一場面でした。


5歳の子供のすべすべの手と、中年の私のそこそこ歳を重ねた手と、80歳の義父義母のしぼんでいく手・・・。

私たちはどうやっても、「死」や「老い」からは逃げられません。

くも膜下出血で母が倒れたこともあり、(大事には至らず退院できたのですが)できるだけ早く顔を見に帰りたくて、姉家族と一緒のタイミングを作り三連休を利用しての福岡行き。

そんな経緯があるから、楽しい旅行というよりは、「久しぶりに会う両親が予想以上に弱ってたらどうしよう」という厚めの雨雲のような不安を胸に広げての帰省でした。

そんな気持ちで乗る福岡行きの飛行機だったのですが、そこで読んでいたのはビル・ブライソン著「人体大全」。

人体の不思議を真っ向から解説してくれている巨大(それでもダイジェスト)な本です。

いつも寝る前に少しずつ少しずつ読み進み、眠りにつくということを繰り返しているから、いつでもどこまで読んだかわからないし、いつでもどこから読んでも新鮮であるという素晴らしい本。

ほら どの章も楽しそう。でも章立てだけで23章。

でも「老い」と「死」について、少し落ち込んでいる気持ちで開く「人体大全」は、これまでの読み味とは違う光をまとっていました。

とにかくびっくりするんです。
「人間の体は、基本まだ全然わからないことだらけだし、わかった部分も奇跡に満ちている」ということがこれでもかこれでもかと出てくる。
え、そうなの?!と思うことのオンパレード。

「汗をかくことは、ヒトであることの欠かせない一部となっている。(中略)チンパンジーはわたしたちの約半分しか汗腺を持っていないので、ヒトほどすばやく熱を放散できない。(中略)「体毛のほとんどを失い、エクリン腺から汗をかいて体の余分な熱を放散する能力を得たおかげで、ヒトの最も温度に敏感な器官である脳の飛躍的な拡大が可能になった」。つまり、汗はあなたを賢くするのに役立ったのだと教授は言う。」

まじか。汗が。そうなのか。

「わたしたちは自分の身体構造に多大な要求をしている。骨格は、硬いうえにしなやかでなくてはならない。しっかり立つだけでなく、曲げたりひねったりする必要もあるからだ。(中略)立ち上がると、膝は決まった位置に固定されるが、座ったり、ひざまずいたり、動き回ったりするにはすぐさまそれを解除して、最大百四十度まで曲がる必要がある。しかも、そのすべてをほどよく優雅に滑らかに、毎日何十年にもわたってやらなくてはならないのだ。これまでに見たことのあるロボットのほとんどが、どれほどぎこちなく不自然な動きをしていたかを思い出してほしい。(中略)自分たちはなんて洗練された創造物なのだろうと実感できるはずだ。」

確かに私、たいていのロボより滑らかに動ける!(いまのところ)

「骨は鉄筋コンクリートより強いのに、全力疾走しても平気なくらい軽い」体の骨を全部合わせても重さはおよそ九キロにすぎないが、そのほとんどは一トンの圧力に耐えられる。「骨は、傷跡が残らない体内の唯一の組織でもある」「もし脚を折ったとしても、治ったあとどこが折れたのかはわからないだろう。そこに実用上の利点はない。骨はただ、完璧でいたいらしいんだ」。さらに驚くべきことに、骨は再生して隙間を埋める。「脚から最大三十センチの骨を取り出しても、外部フレームと伸長具のようなものをつければ、骨は再生する。体内に、そんなことをするものはほかにない」

骨を意識するなんて折れた時か顔のサイズが気になった時だけだった。ごめん、骨!

飛行機が西に進むごとに、私の中の曇天のような不安の広がりが、キラキラしながら砕けていくのがわかりました。ほら、魔法使いの杖の先からでるようなキラキラに。

誰だって、美貌を持たないことを残念に思ったり、メンタルが不安定だったり、体が弱いことを悔しく思ったりすると思うのです。完璧な心身が世界のどこかにあって、それを持たない自分に哀しさを感じた経験があると思うのです。

そりゃあね。比較すればね。世界には「いいなあ」と思う人が絶対います。もっと健康で幸せで長生きできる人生がよかったと、人生のどこででも思わないはずがない。

でもでも。

生きて生まれて育ってることがまずとんでもない奇跡だと、この目がこの足が動くことが、脳が動いて意識があることが素晴らしいのだとあらゆる角度で言ってくれている・・・。

人体という近しい存在を語りながら、そこに宇宙を内包できるほどの世界を持っていることをお前は知れ!!と訴え続けている本がある。

人間として生まれて、70歳過ぎまでなんだかんだ仕事も持って家庭も持って生きてこられた両親は、奇跡に奇跡を重ねた存在なだけでした。

飛行機の中、iPadに文字を打ち込む自分の手を見ます。

「両手ほど、それがよくわかる場所はほかにない。それぞれの手には、二十七本の骨と、十七の筋肉(加えて、前腕にあるが手を制御している十八の筋肉)、二本の太い動脈、三本の主要な神経(その一本である尺骨神経は、肘の先をぶつけるとビリビリする神経)、さらに四十五本のそれぞれに名前を持つ神経、百二十三本の名前を持つ靱帯があり、そのすべてが正確に、優雅に、あらゆる動きを調節しなくてはならない。十九世紀のスコットランドの偉大な外科医で解剖学者だったサー・チャールズ・ベルは、人体で最も完璧な創造物は手であり、それは目よりもすばらしいと考えた。」

手、めっちゃ褒められてる。手の中の構造の素晴らしさを思えば、その上の皮膚が少しシミがあったりシワがあったりすることなんて、本質とは全然関係なくない・・・!?

年を重ねるにつれ、増えていく訃報の数々、悲報の数々。わかっていても悲しくて辛くて、逃げ出したい場面ばかりです。

でもその一つ一つの苦しみにフォーカスする溜息まじりのレンズを、ドでかい電子顕微鏡に取り替えて、「どうせならもっともっともっと奥まで見てみようよ」体の奥まで構造の先まで意識を持っていく力がこの本にはありました。

「もちろん筋肉は、感謝もされないまま常にいくつもの方法で役に立ってくれている。唇をすぼめたり、まばたきをしたり、消化管へと食物を移動させたり……。立ち上がるだけでも、百の筋肉を使う。」

「心臓には、よそ見をしている暇はない。体内で最もひたむきな器官なのだ。ただひとつの仕事に専念し、それをみごとにこなしている。つまり、拍動すること。一秒に一回よりわずかに多く、一日に約十万回、生涯に三十五億回も、規則的に律動し、血液を体じゅうに送り出している。しかも、それはかなりの圧力を伴う。大動脈が切断されれば、血液が三メートルの高さまで噴出するほどの力強い動きだ。 ここまでのたゆまぬ仕事ぶりを見せながら、ほとんどの心臓がかなり長持ちするのは奇跡ではないだろうか。」


私たちは不安に向かって進む足を止められません。
何か悪いことがあった時「あの時こうしていれば」と後悔することが、実は好きなんじゃないかなと思うくらい、どんなことにも詮無い思考を巡らせてしまいます。

押し寄せる未来への不安と、その後にくる「もっとこうすればよかった」という後悔。これらはミルフィーユのように重なり合って、進んでいく先に厚い壁を作ります。

でも本を読んでる間に、ipadをスワイプする手から伝わってくるのです。

不安なのも、後悔するのも、生が愛しいからだと。

自分の命と親しい人の命が愛しいから、重いミルフィーユで巻いてしまうのだと。


幸いなことにくも膜下出血の後遺症もなく「前より元気になって追い立てられてるよ〜」と父に言われる実家の母と、いちご狩りに行き、海の中道で遊び、レンタサイクルで 二人乗り自転車を漕いで、

「お母さんまだ自転車に乗れるんだ!?」「あったりまえよぉ」と笑って、

今目の前で生きている身体と、会えた嬉しさでにじむ目と、そういうの全部を思いっきり抱きしめて帰ってきました。

あと何度こんな瞬間を持てるだろう?残された機会を数えつつも、前に進むのです。私は不思議な偶然の果てに作られて、いまの時代の一部を歩いてる、ただそれだけだし、それだけで十分幸福です。

現実は何一つ変わらないのに、感じ方や見え方を変えてくれるから、読書は素晴らしい。また不安に飲まれそうな時に、新鮮な気持ちで手に取ろうと思います。

「あなたをつくる元素たちの非凡なところは、ただ一点、あなたをつくっているというその事実にある。それこそが、生命の奇跡だ。」
—『人体大全―なぜ生まれ、死ぬその日まで無意識に動き続けられるのか―』ビル・ブライソン著

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