エンタメ業界の構造課題を解く。ファンエコノミーが未来を変える。
こんにちは。Gaudiy代表の石川(@yuya_gaudiy)といいます。
2018年5月に創業したGaudiyは、「ファンと共に、時代を進める。」というミッションのもと、Sony Musicさんや集英社さん、アニプレックスさんなどの大手エンタメ企業とともにエンタメ業界のDXを進めています。
日本は、国民の誰もが自認する「エンタメ大国」です。プレイステーション、ファミコン、スーパーマリオ、ポケモン、ワンピース etc…、海外でも絶大な人気を誇るIP(知的財産権を有するコンテンツ)やエンタメ体験を数え切れないほど産み出してきました。
2020年に公開された劇場版「鬼滅の刃」 無限列車編は、世界の興行収入が500億円を突破、世界45カ国以上で上映されるなど、いまだにその勢いとファンの熱量は衰えません。
このような "ファンの熱狂" を生んでいる日本が誇るエンタメは、「カラオケ」や「マンガ」が世界の共通言語になったり、米バイデン大統領が選挙本部をあつ森で設営したり、ポケモンGOの影響でアメリカの州法が変わったりなど、政治にも大きく影響するほどの産業であり日本が誇る文化だと思います。
一方、僕たちはいちスタートアップとして日本のエンタメ業界のDXを推進してきたなかで、課題の解像度が高まるとともに危機感も抱いています。
そこで今回は、業界の「外」にいるからこそ見えてきた課題を深掘りし、その解決提案までできたらと思い、noteを書きました。お伝えしたいことが多すぎて8,000字を超えてしまいましたが笑、よければ関心のある部分だけでもぜひご参考ください!(これでもだいぶ削りました🙇♂️)
1. エンタメ業界が抱える課題とは
近年、エンタメ市場は、急速な変化を遂げてきました。
ひと昔前までは、本屋やコンビニで漫画や雑誌を買ったり、レンタルショップでCDやDVDを借りたりして、エンタメコンテンツを消費していたと思います。ところが今は、漫画アプリやYouTubeで好きなコンテンツを無料で見ることができますし、NetflixやSpotifyなどに月1000円程度のお金を払いさえすれば、ドラマや映画、アニメが見放題。そして音楽も聴き放題です。
つまり、様々なコンテンツプラットフォームの誕生によって、以前は「買う」か「借りる」かでしか楽しめなかったエンタメコンテンツに、より多くの人がアクセスできるようになり、その種類も多様化しました。
だからこそ、エンタメ業界はますます盛り上がっているように思えますが、実はそこには根深い課題があります。その課題とは「コンテンツプラットフォームへの依存」「エンタメ企業内部のテクノロジー遅延」「クリエイターの低賃金労働」です。
その一部は、世界共通のものではありますが、今回は特に日本国内にフォーカスして課題を深掘りしてみたいと思います。
1-a. プラットフォームの依存問題
ひとつめは、エンタメの業界構造における課題です。
現在のエンタメ業界は、コンテンツを制作する企業が人々にそれを届ける際に、YouTubeやSpotify、Kindle、Apple Storeといった外部のコンテンツプラットフォームに頼らざるを得ない構造になっています。
Apple対Epic Gamesの裁判は記憶に新しいと思いますが、ここで問題なのは「プラットフォームに支払う手数料の高さ」だけではありません。外部のプラットフォームに依存することで、ユーザーとの直接接点を奪われてしまい、マーケティングで重要な顧客基盤の形成やビックデータの蓄積ができないことが大きな問題としてあります。
つまり今のエンタメ業界は、魅力的なIPコンテンツが集まれば集まるほど、プラットフォーマーが強くなっていく構造です。ユーザー目線でみると、プラットフォームを通じておもしろいコンテンツに効率よく出会えるという利便性はありますが、コンテンツホルダーにとっては様々な問題があります。
たとえば、プラットフォーマーが提供するフォーマット上でしかコンテンツの表現ができず体験やビジネスモデルが制約されたり、ユーザーのデータを取得できないために、データを活用した良いキャンペーン施策やコンテンツ改善に活かすことも困難になってしまいます。
またプラットフォーマーの手数料は高いため、エンタメコンテンツを制作するクリエイターや事業者を圧迫しています。ただ業界のほとんどの人は、そういうものだと一種の洗脳をされているような状態です。
それゆえ、外部のプラットフォームからコンテンツを消費し続けることは、魅力的なコンテンツを生み出す財務体力をコンテンツホルダーから奪ってしまい、ユーザーにとっても望ましくない結果に至る可能性があります。
自分たちの行動次第で、コンテンツを疲弊させることも、応援することもできるという事実をまずは知っていただきたいです。
1-b. エンタメ企業内部のテクノロジー遅延問題
ふたつめに、エンタメ企業内でテクノロジー活用が遅れていることがあります。
PCやスマホ、タブレット端末などで日常的にエンタメを体験できることから、エンタメ業界はテック寄りだと思われがちですが、実際にはいまだ多くのエンタメ企業がテクノロジーを事業にうまく取り込めずにいます。
前述したように、デバイスであればAppleやGoogle、コンテンツプラットフォームであればYouTubeやSpotifyといったように、僕らが普段触れているエンタメのほとんどは、何かしらの他社媒体を通じて人々に届いています。
こうした構造から、エンタメ企業はコンテンツをつくる技術については長けているものの、コンテンツを届けるという領域においては、いまだに旧来と大きく変わらないままです。(以下noteがわかりやすいです。)
では現在、どうやってコンテンツを届けているかというと、外部プラットフォームを使って配信するか、ベンダー(開発会社)に委託するかの2択になっています。外部のコンテンツプラットフォームにまつわる問題は先述したとおりですが、ベンダーへの委託にも様々な問題があります。
なぜなら、ベンダーはコスト低く・高い値段で売ることを生業にしているため、拡張性をあまり考慮せず、プラットフォームを育てるノウハウも持っていません。そして開発費用がブラックボックスになっていることも多いです。実際、高額な見積もりの妥当性を精査できないままに受け入れてしまう企業が多くいることも知りました。
それに加えて、エンタメ産業で働く人は「自分の城」を作りたがる傾向にあると感じています。作りたいと思うものは自分の手で作りたいというクリエイター気質な方が多いので、同じ会社にも関わらず、ECや分析ツールなど同じようなシステムが無数に作られてしまっているケースもあります。(もちろん、このこだわりは良いことでもあります。)
こうした状況から、テクノロジーをうまく扱えない組織になってしまっており、外部プラットフォームやベンダー依存からいまだ抜け出せていません。
誤解のないように強調したいのは、これはあくまでコンテンツのデリバリーにおけるテクノロジー活用であり、コンテンツ制作におけるノウハウや技術は本当に素晴らしいです。
1-c. クリエイターの低賃金問題
さいごに、日本のクリエイターが低賃金で働いているという問題があります。
例えば、上の記事にあるように、中国のアニメーターは日本の3倍高い賃金で働いており、日本のアニメスタジオが中国企業の下請けになるケースがあるといいます。信じられないですが事実です。
先日、PlayStationの生みの親である久夛良木さんとお話しする機会があり、この話題に関しても議論しましたが、いまは中国のコンテンツのクオリティがものすごく高いと。たとえばオンラインゲームの「原神」やアイドルオーディション番組など、その質は日本や他国と比べてもトップクラスです。
これは中国のエンタメ市況が活気づいていることや、技術が模倣されやすくなったという背景もありますが、日本の映画・アニメ業界で採用されている「製作委員会」方式など構造上の問題もあります。
クリエイターに還元するスキームがなく、低賃金でやりがい搾取のような状況に陥っていることは、日本のエンタメ業界の大きな課題だと思います。
2. 解決に向けてエンタメ企業がすべきことは?
このような課題に対して、エンタメ企業はどのような策を講じるべきでしょうか? 個人的には以下の3点が重要だと考えています。
まず、コンテンツホルダーの強みは、IPを多種多様なコンテンツに展開し、供給できることにあります。つまり、IPを活用したコンテンツ制作と配信プラットフォームを同時に有することが解決策のひとつです。
これをうまく実現しているのが、Netflixとディズニープラスです。いずれも大切な顧客基盤を維持しながら、データとプラットフォームを活用することでより良いコンテンツづくりとデリバリーを実現し、大きな事業成長を遂げています。
引用元:Disney+公式サイト
ただ、これは理想の形ではありますが、すべての企業がそれを真似するのは現実的ではないと思います。ではどうすべきか? 少なくとも、コアなユーザー(ファン)の顧客基盤だけでも自社プラットフォームで維持することが大事になると考えます。
なのですべてを自社で賄うのではなく、マスへのアクセスは外部プラットフォームを活用しつつ、コアファンに向けては自社でプラットフォームをつくる。その使い分けが大事です。
次に、そのような自社プラットフォームを社内で運用できるような組織を構築することが挙げられます。わかりやすく言えば、それを推進できるデジタル人材の採用やカルチャー形成になります。外部のベンダーに任せる体制ではなく、自社で運用できるように組織を変革していく。または、その変革を伴走できるパートナーを見つけることが大切です。
さいごに、新しいIPビジネスへの拡張とファンやクリエイターへの還元スキームを構築するということ。具体的には、IPから派生した新しい収益構造の創出や、クリエイターやファンのモチベーションを高めるようなインセンティブ設計などが考えられます。
実際に、こうした仕組みはNFT、ブロックチェーンなどの登場によって実現可能なものになっており、解決策として実用化されつつあります。
以上のような観点をふまえて、Gaudiyが実際に取り組んでいるアプローチについて以下にご紹介したいと思います。
3. エンタメの課題解決に向けたGaudiyのアプローチ
3-a. Gaudiy Fanlink(ガウディ ファンリンク)
Gaudiy Fanlinkとは、ファンの熱量を最大化する、Web3時代のファンプラットフォームです。
IPを軸にしたバーティカルなコミュニティサービスを、エンタメ企業に提供しています。外部プラットフォームに依存せずに、自社IPのプラットフォームにコアファンを集め、そこから様々な体験を供給できる仕組みになります。
これは顧客基盤の形成やデータの蓄積というメリットがあるほか、ファンにとっても同じ好きを共有できる人だけに限定された心理的安全性の高い場所になっているため、ファンの活動をより促進しやすくなります。
ちなみにGaudiyでは、PWA(Progressive Web Application)という技術を採用することで、AppleやGoogleなどに依存しない体験をつくっています。
たとえば、本日のプレスリリースで発表した「TOKYO IDOL FESTIVAL(以下、TIF)」のコミュニティサービスでは、グループごとのチャット機能やライブ視聴、NFTを活用したライブサイン会など、様々な体験ができます。
また現在開催中の体験型ミュージアム「約束のネバーランド」では、会場にあるQRコードを読み取ることで、コミュニティサービス内で限定NFTトレカがもらえる、といった体験も提供しています。
このように、IP軸でファンをひとつの場所に集めることで、ファンの活動をより活性化し、自社にデータ蓄積や顧客基盤を形成できる手段をエンタメ企業に提供しています。
「Gaudiyがプラットフォーマーにとって代わるのでは?」と思われるかもしれませんが、IPを有する企業と共同でコミュニティサービスを開発し、そのなかの仕組みを共同で特許申請するなど、Gaudiyに依存しない技術やプラットフォームの仕組みを構築しています。Gaudiyが開発・提供しているのは、あくまでIPホルダーが有するファンプラットフォームです。
3-b. DID(分散型ID)によるアプローチ
IP軸でのバーティカルなファンプラットフォームを持つことが理想とはいえ、ソーシャルゲームなど外部のプラットフォームを使わないと実現できない体験もあります。
そこに関しては、他社のプラットフォームと自社プラットフォームを連携させるため、DID(分散型ID)というブロックチェーン技術を用いたIDシステムを構築しています。また、このDIDは、自社内で複数サービスがある場合にも活用できます。
これによって、よりサービス・ID連携が便利になったり、プラットフォームに依存しないIDシステムを構築することができると考えています。
一例としては、Gaudiyが提供する「22/7(ナナブンノニジュウニ)」というデジタル声優アイドルグループのコミュニティサービスがあります。
このコミュニティと同じIPのリズムゲームアプリをDIDで連携させることによって、コミュニティからの外部課金や横断データをもとにしたサービス改善ができるようになり、お互いにwin-winな状況をつくることができます。
さらに言うと、この仕組みとNFTがあれば、仮にいずれかのプラットフォームがなくなったとしても、ゲーム内アイテムをコミュニティに移すなどしてデジタルコンテンツを引き継ぐことなども可能です。
それと同じ方法で、以下の記事にあるような電子書籍がなくなってしまうなどの課題も解決できます。
3-c. NFTによるアプローチ
NFTはデジタルコンテンツに活用するだけでなく、クリエイターに還元する新しいスキームの構築にも使われています。
詳しくは以下のnoteに書いたのでぜひご参考いただけたらと思いますが、NFTにはデジタルコンテンツの「所有」と「移転」ができ、移転におけるルールメイキングができる、という特徴があります。
このNFTを活用することで、セカンダリー市場におけるクリエイターへの還元も実現することが可能です。たとえば、コミックスマート社と取り組んでいる電子書籍のプロジェクトでは、二次流通においても販売収益の一部が権利保有者(出版社、作者)に還元されるスキームを構築しています。
またTIFのオンラインチケットでも、同様のスキームを活用しています。NFTチケットであれば、外部のチケット販売プラットフォームに取り扱ってもらい、その収益の一部を還元するスキームを作ることができます。
イメージとしては、チケットぴあにNFTのオンラインチケットを渡して、その販売数に応じて一部収益が還元されるような形です。
このようにGaudiyでは、ファンプラットフォーム、DID、NFTという3つのアプローチから、エンタメ業界の課題解決に取り組んでいます。
4. ファンエコノミーから広がるエンタメの未来
さらに、Gaudiyが描いているのは「ファンエコノミー」というエンタメの未来です。
ファンエコノミーを形成する要素は、IPのもつ事業ポテンシャルと、ファンの自律的な行動によって生まれる経済の拡張性にあります。
ファンのIPに対する「貢献したい」「応援したい」というモチベーションは、様々な活動を促進させます。それゆえに、IPコンテンツの消費だけに留まらず、日常生活も含めた消費活動を促進させていくことも可能です。
たとえば、このファンのモチベーションを金融事業に活用している例として「YOSHIKIカード」があります。このポイントを貯めると、YOSHIKIさんの生演奏が聴けるなどの様々な特典があることから、ファンの日常生活における消費までもが促進されています。
また、ファンが自律的に動けるような仕組みを提供することで、より経済を拡張していくことが可能です。
最近、YouTubeの「切り抜き動画」でさまざまなコンテンツが生まれているように、ファンのクリエイティブな活動を認めることによってIP単体では生まれなかったような経済活動に展開される可能性があります。
以下のnoteで書いたBTS経済圏はまさしくその事例で、ファンが自らファンドを創設したり、研究論文を書いたり、アルゴリズムをハックしたりなど、多岐にわたる活動が生まれており、それがIPの価値を押し上げています。
実際に、Gaudiyが取り組んでいるマンガAI翻訳のスタートアップMantra社との共同プロジェクトでは、マンガ翻訳の最後の仕上げを海外のファンに担っていただき、その活動に対する報酬や一部収益をトークンで還元する仕組みを構築しています。
さらに、こうしたファンとクリエイターの共創を促進するファンエコノミーは「トークンの上場」によってさらに加速させることができます。
イメージとしては、スタートアップのストックオプション制度に近いです。ファンの人が活動すればするほど、IP自体の価値が上がり、そのIPのトークンを保有するファンの人にも大きく還元される。そんな世界です。
ただ株式上場がそうであるように、上場には一定の審査基準があります。この基準を超えるには、IPコンテンツ単体のGMV(流通取引総額)だけでは難しいですが、不動産や保険、金融機関など、ファンの日常生活に関わるインフラサービスにまでエコノミーを拡張していくことで可能になります。
たとえばNFTゲームの「Axie Infinity」では、ゲーム内のトークンが上場されていますが、ゲームして稼ぐことでフィリピンの人々の生活を支えているといいます。
またGaudiyでは、ファンエコノミーを構築するために、慶應大・坂井教授とともに「Gaudiy-Sakai方式」というNFTのオークション方式を共同研究したり、ファンの活動に応じてトークンの売買価格を決定する「Trust Economy Bonding Curves」の研究論文を発表するなどの学術的な取り組みも行っています。
このような取り組みを通じて、ファンが貢献・応援・創作などの活動から報酬を得て、生活の支えや新たな職を生むようなファンエコノミーの構築をめざしていますし、それがエンタメの未来を変えていくと思っています。
5. さいごに
今回のnoteでは、エンタメのDXを進める中で感じた業界構造にまつわる課題と、その解決策についてご紹介しました。
僕たちが提供するファンコミュニティサービスには、韓国やフィリピン、スペイン、フランス、アメリカなど海外ユーザーの方々もいます。
またエンタメ業界の構造は、世界共通の課題でもあります。このようなビジネスモデルは世界を見渡してもまだないので、ファンエコノミーの世界観を作り上げていき、日本発で世界を変えていきたいです。
Gaudiyでは壮大なビジョンに向けて、共に挑戦する仲間を全方位で募集しています。難度は高いですが、ワクワクする未来を創る事業をしていますので、少しでも気になった方はぜひお気軽にお話しできればと思います!