松風ゆや

呼吸するように本を読み、美術館に生息。

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最近の記事

企画展「久米正雄の出現」講演メモ

金沢市の徳田秋聲記念館で、企画展「久米正雄の出現」が開催されている。 久米の名前を冠した展示というだけで嬉しい。 参加してきた記念講演がとても素晴らしく、あっという間の2時間。今回は内容メモをまとめてみる。 ◆企画展記念講演「煙管の音―久米正雄と秋聲」 ◆講師:日本大学教授 山岸郁子氏 1.現代日本文学巡礼 現代日本文学巡礼は、改造社の現代日本文学全集の宣伝のために久米が監督して撮影されたもの。作家の日常を切り取った作品で、木登りや煙草を吸う芥川龍之介の映像が知られてい

    • 久米正雄作品を読む-破船

      久米正雄全集読破チャレンジ中。 いよいよ失恋事件を描いた『破船』を読むことにした。 『破船』は失恋の4年後になる1922年1月から『主婦之友』に連載された長編小説である。(掲載紙は「嘆きの市」と同じ雑誌) あらすじ:括弧内はモデルの人物 小野(久米正雄)は師事していた勝見先生(夏目漱石)の臨終の報を受けて駆けつける。勝見先生死去後の葬式や残された子供の相手などで家に出入りするようになった小野(久米)は、長女の冬子に恋をするようになる。勝見の妻磬子に冬子への求婚を相談すると、

      • 久米正雄作品を読む-良友悪友

        久米正雄全集読破チャレンジ中。 久米が遊蕩生活を送っていた頃の話が「良友悪友」に描かれている。 1919年1月に実際にあった出来事をモデルにした短編小説で、1919年10月に「文章世界」に掲載された。(「和霊」に書かれたのと同じ頃の話で、久米が流行性感冒にかかった前月の出来事になる) あらすじ: 私は三土会(文士の集まり)で、最近の生活ぶりについて非難を受ける。帰る気をなくして赤坂の待合に行くと、里見弴、吉井勇、田中純の悪友らがいて飲みなおす。三土会で会った友人らを思い出し

        • 久米正雄作品を読む-和霊

          久米正雄全集読破チャレンジ中。 長編2作の次は短編を読むことにした。その中で、1919年の冬(2月~)に久米が流行性感冒(スペイン風邪)にかかった時の話が書かれた「和霊」と、菊池寛の「神の如く弱し」を比較してみようと思う。   「神の如く弱し」は1920年1月号『中央公論』に掲載された作品。現在では『マスク―スペイン風邪をめぐる小説集』(文春文庫,2020年)で読める。 神の如く弱し あらすじ:雄吉(菊池)は、親友の河野(久米)が失恋の後、遊蕩生活に入り疎遠になっていくこ

          久米正雄作品を読む-空華・嘆きの市

          久米正雄全集読破チャレンジ中。 『蛍草』を読み終えたところで、次は失恋もの以外にしようと選んだのが、全集第6巻収録の『空華』と『嘆きの市』。 『空華』は1919年9月~1920年12月に『婦人公論』に連載、『嘆きの市』は1923年1月~12月に『主婦之友』に連載された作品。 空華 あらすじ:外島家の長女・定子は知的障害があり、選挙に敗れて再起を図る弁護士・江上との結婚が決まる。妹の麗子は持参金目当ての結婚であることに反感を持つが、義兄となった江上に好意を寄せるようになる。

          久米正雄作品を読む-空華・嘆きの市

          久米正雄作品を読む-蛍草

          最初に選んだのは、1918年3月~9月に『時事新報』に連載された新聞小説である『蛍草』。 それでは、と表紙を開いて、でもこれ失恋しちゃう話……悲しい……となって本を閉じる、を何度か繰り返す。久米に感情移入している自分が怖い。 でも安心。失恋してしまうところから話は始まる。 あらすじ:医学士の野村が留学から帰国したところ、親友の星野と婚約者の澄子が迎えの中にいない。野村の留学中に澄子が心変わりしており、野村は研究でも星野に敗れてしまう。 主人公・野村は澄子への失恋だけでなく

          久米正雄作品を読む-蛍草

          久米正雄作品を読む-久米正雄作品集

          全集の前に、手元にあるのが『久米正雄作品集』(岩波書店,2019年)。 小説、随筆と俳句が掲載されていて、どれも親しみやすくおもしろい。久米作品をもっと読みたくなったきっかけになった本。 小説7編のうち、「父の死」「手品師」「競漕」「流行火事」は第4次新思潮に掲載され、「受験生の手記」「金魚」「桟道」は1918年以降に発表された小説。(なお夏目漱石の娘に失恋したのが1917年) 「父の死」父を亡くした久米自身の経験を元にした小説。 校長だった父が御真影の焼失の責任を取って

          久米正雄作品を読む-久米正雄作品集

          久米正雄作品が読みたい

          読みたい本がある。 本屋で買えないのは知っていた。 けれども古書店にも青空文庫にもない。図書館でも借りられない。文学史に名前が載るような作家の本を読むことがこんなに難しいなんて、近代文学にはまるまで知らなかったのだ。 近代文学にはまってしまった 近代の人気作家・久米正雄の本が読みたい、となったとき。 現在手に入る本は、岩波書店の『久米正雄作品集』(2019年) 文学史をまともに勉強してこなかったので、事前に久米正雄について知っていたのは ・芥川龍之介や菊池寛らと新思潮

          久米正雄作品が読みたい