
#463 専門性を閉じ込めていないか!?専門性は、外に開いてこそ価値がある理由
「専門性」と聞くと、何か一つの領域を下に深く掘り下げていくようなイメージを持たれる方が多いのではないでしょうか。
私もシステムエンジニアとして自分のキャリアをスタートさせた時には、外から認知されやすい「技術力の証明となるもの」を身につけよう!と考えました。今の会社への入社が決まってから、年に2回開催されているIPAの情報処理試験を毎回受験して、「基本情報処理試験」→「応用情報処理試験」→「高度情報処理試験(データベーススペシャリスト、プロジェクトマネージャ、セキュリティスペシャリストなど)」と勉強し、数年で関連の資格を一気に取りました。
もちろん実績も重要です。仕事を始めてからは、システムの設計書を作ったり、SQLを書いたり、プログラムの試験項目を作って試験して、アプリケーションのリリース作業をしたりと、とにかく多くマシンを触り、システムの動きというのを理解しようと努めていました。
入社数年が経ってからは、ITシステムがどのように動くものか、基盤も含めて仕掛けが自分でも理解できるようになってきました。お客さんのざっくりとした要望をいかにシステムとして実装できるかを設計書に落としこんだり、それに必要な開発のリソース(金・人・技術など)を管理する仕事にシフトしてきました。そんなこんなで15年近くの時間が経ち、現在は業務アプリケーション開発チームのマネージャーとして仕事をしています。
このように、20代後半くらいまでは、「IT・デジタル」の領域で「理論と実績」の両面で専門性を深く掘り下げていくことに集中していたのですが、30代に入ってからは「専門性を外に開く」ことを意識的に取り組んでいます。
今日は、私なりに考えている「専門性を外に開く」ことが大切な理由をご紹介します!
専門性のニーズは、いつも外からやってくる
キャリアの最初のフェーズでは、特定の業界の中で「使いモノ」になれるよう、専門性の習得が必須です。すでに何かの事業に取り組んでいる組織やチームに参画し、組織として受けた仕事を成し遂げるための戦力になることが必要だからです。「広く浅く」の状態では、その技量を買いたいという人はいませんから、まずは「自分はここに旗を立てる!」と決めて、そこを掘り下げていくプロセスからスタートします。
ある程度自分に専門性がついてくると、多くの人にとってのキャリア戦略は大きく2つに分かれてきます。1つは、「ニッチな領域に特定して専門性のエッジを効かせる戦略」です。
例えば「IT・デジタル」と言ってもそのカバー領域はとんでもなく広範ですから、そこでトップの専門家と認知されるのは至難の技です。だから例えば、「○○業界の〇〇システムの有識者」というような形で、世の中全体から見ると、かなりニッチな領域にフォーカスを絞り、そこで専門家として認知されることを目指す道があります。
もう1つの方向性が、「磨いた専門性を外に持っていく戦略」です。同じIT業界の中で「絶対的な」専門家ポジションを目指すのは、かなり険しい道のりです。「上には上がいる」ですし、あらゆる業界に重鎮のような存在がいますよね。そこで、「絶対的な」専門家ポジションではなく、「相対的な」専門家ポジションを目指す方向性が出てきます。つまり、特定の業界の中だけでは、マニア級にまで何かを極めないといけないのだけど、マニア級にまでならなくても、そのスキルが希少な場所で勝負する、という選択肢です。
私自身も経験がありますが、「自分では普通にやっていること」が「普通」ではない世界って意外とたくさんあるんですよね。特に、会社員や公務員であれば、組織の外に目を向けてみないと分からない。私はIT企業に勤めていて、当たり前のようにデジタルツールを使った業務プロセスが導入されていますが、そうではない世界もまだまだ少なくありません。
先日、こちらの記事で「代替の効かない価値」について考えてみましたが、別に「デジタル」の領域で一番にならなくても、学校という分野では「デジタルの知見」は相対的に希少です。「グローバル」の領域で一番にならなくても、学校という分野では「東南アジアでの10年のリアルなグローバルビジネスの経験」というのは相対的に希少になります。
「デジタル」や「グローバルビジネス」という自分の半径5メートル以内の世界では当たり前の専門性でも、それを希少だと認識し「価値」だと感じてくれる人は、いつも業界の外にいるのです。
専門性を外に開くための「プロトコル変換」
専門性を特定の分野の中で認知してもらうことと、外の世界で認知してもらうことは、全くアプローチが異なる点は注意が必要です。
つまり、ある業界の中に向けて専門性を深掘りしていても、それがその分野の外の人から勝手に見つけてくれる、ということはないということです。
分かりやすい一つの例が、「専門用語」です。
専門用語は、特定の業界の中で前提知識がある程度共有された関係者の中では通用しますし、概念が共有されたコミュニケーションの中においては、物事を端的に表すのに役立ちます。
一方で、業界の外の人からすれば、「専門用語」はただの呪文です。どれだけ専門性を業界内で極めたとしても、外部の人からすれば、その価値はそのままでは伝わらないということになります。
そこで重要なのが、業界の中で深めていることを、外の人にも「価値」だと伝わるためのプロトコル変換になります。つまり、英語と日本語を変換するかの如く、業界の中の人と話すときと、業界の外の人に話すときに使う言語・表現を全く別のものにしないといけないんですね。
ある程度業界内での専門性が高まってくると、実は業界内での専門的なコミュニケーションよりも、業界外に向けたオープンなコミュニケーションの方が難易度が上がってきます。
これができるようになるためには、普段から業界外・ライフスタイルも異なる人に対して自分の取り組みを伝える練習が必要なのですが、意外と多くの人がそのような機会を持てていないのではないでしょうか。
「発信」は、専門性を外に開くのに必須の手法
本当はユニークな経験や高い専門性を持っているのに、自分の中に、あるいは特定の業界の中に閉じ込めている人が多いのは、勿体無いように感じます。
みんな、個別に時間を取ってじっくり話を聞いていくと、本当に面白い人ばかりなんですよね。でも、わざわざ時間を取って自分の話を聞いてくれる機会なんて、多忙な現役世代は基本的にないじゃないですか。だからこそ、自分は何に関心があるのか。何に専門性があるのかを、自ら業界外の人からも見える場所に置いてあげないといけません。それが「発信」です。
専門性のニーズはいつも外からやってくるのに、外から見えて、理解できる形になっていない。これがとても大きな機会損失だと思うのです。
以前記事にもまとめましたが、私たちが直面しているデジタル社会は、業界間の壁が溶けている「ヨコ割りの社会」です。
これは、産業構造の話だけではなくて、私たち個人のキャリア戦略においても当てはまると思うのです。つまり、自分の専門性を外に開き、別業界とクロスできると個人として提供できる価値も大きくなるということ。
私も現在、「IT企業でのシステムエンジニア・マネージャーとしての専門性」と「東南アジアでの10年間のビジネス経験」を教育や人材育成というフィールドで価値提供することに挑戦中です。
他にも、専門性の高い他分野の人たちとの共同プロジェクトなんかも考え始めていますので、もう少し具体化されてきたら皆さんにもご案内しようと思います!
いいなと思ったら応援しよう!
