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はじめてのM&A

はじめに

はじめまして。グリットパートナーズの三宅と申します。本記事では、「事業会社によるM&A」をテーマに取り上げます。特に、事業会社として初めてM&Aを検討する経営者や担当者の方々を想定し、基本的な考え方や検討事項をまとめました。


弊社の立ち位置

しばしばM&A仲介会社の方々から「ファンドさん」と呼ばれることがありますが、弊社グリットパートナーズは事業会社です。グリットパートナーズ自体は私が100%株主であり、マジョリティ投資を行っている投資先は、弊社および経営陣が100%保有しています。

  • LP投資家から有期の資金を預かって投資しているわけではありません。

  • PEファンドやVCからの出資も受けていません。

一方で、私をはじめ投資ファンド・金融機関出身の経営陣や従業員が多いため、外部からファンドのように見える部分もあるかもしれません。ですが本質的には、あくまで事業会社として長期的な視点で事業投資を続けたいという思想が根底にあります。


PEファンドの投資

従来のPEファンドの投資は、LP投資家から調達した(いわゆる高いリターンを求められる)エクイティとLBOローンを組み合わせ、比較的安定したキャッシュフローにレバレッジをかけて3〜5年程度の投資期間で高いエクイティリターンを上げるという手法が基本です。

かつては、この構造だけでも十分にリターンが出ていましたが、PEファンドが産業として成熟するにつれ、確実性の高いバリューアップが求められるようになりました。具体的には、

  • 質の高い経営陣・従業員の採用力

  • 特定産業への深い知見

  • DX化、ロールアップなどの戦略実行力

といった要素が重要視されています。もちろんロールアップや継続ファンドと呼ばれるスキームなど例外的な事例もありますが、PEファンドは投資期間に期限があるため、個別の案件ごとに評価を行わざるを得ないという特徴があります。


事業会社の投資

一方、特に上場企業などの事業会社は継続企業(going concern)が前提であり、長期的な視点に立った経営が求められます。

検討事項は多岐にわたり、良いM&Aを実現するには苦労はあるものの、既存事業を基盤にしているからこそM&Aをより有効に活用できるのもまた事実です。以下では、自己勘定投資やFA(ファイナンシャル・アドバイザリー)として大手上場会社からオーナー企業まで幅広く支援してきた経験を踏まえ、M&Aの入口(初期段階)で議論すべきポイントを5つに整理してご紹介します。


M&A検討時に押さえておきたい5つのポイント

1. 事業計画と個別M&A案件の位置づけ

初期段階から個々の案件を深掘りしすぎると、会社全体の方向性と合わない、あるいは社内リソースとのバランスを欠くといった理由で失敗するケースが多く見受けられます。
第一原則は、「M&Aは事業計画を達成するための手段」と捉えることです。
その際に、大上段の部分で腹落ちできるかが重要です。

もっとも、中には事業計画のテーマとは関係なくても魅力的な案件が出てくる場合があります。その際には、事業計画そのものを見直すくらいの気概が必要です。そうでないと、経営テーマから、投資先の部分だけ浮いてしまったりすれてしまい経営の労力が倍増し、失敗するリスクが増加します。

2. 投資対象の事業・キャッシュフローの安定性

弊社が自己投資を行う場合でもFAとしてサービスを提供する場合でも、事業やキャッシュフローの安定性が見込めない案件は基本的に推奨しません
過去の実績数値が良いに越したことはありませんが、過去の数値が未来のCF(キャッシュフロー)を保証するわけではありません。事業モデルとして成立しているか、CFの源泉となる契約や取引先の安定性などを含め、慎重に深掘りする必要があります。

これは非常に重要なテーマなので、機会があれば別途詳しく解説したいと思います。

3. 算盤で計算できるシナジーと軋轢

投資対象がグループに入ることで、自社あるいは対象会社にとってトップラインやコスト面でどの程度シナジーが見込めるかを、いわゆる“封筒の裏”に書けるレベルで試算してみることが重要です。

  • (例)クロスセル
    *考えるのは楽しいですが、突き詰めないと罠も多いテーマです。

  • (例)調達コストの削減

  • (例)人件費や地代の削減(統合による効率化)
    *一見簡単そうでも実務では大変です。

同時に、企業文化の不一致経営管理の負担増などのマイナス要素も考慮に入れておく必要があります。

4. 自社で同じ事業を作る時との比較
(コストアプローチ vs. マルチプル)

同業へ投資する際に特に留意したいのが、「自社で同様の事業をゼロから作った場合」との比較です。何年かけ、どれだけの投資コストが必要か(その難易度はどの程度か)を把握したうえで、投資対象のEV(株価+Net Debt)に見合うかを検証します。

  • 回収期間(税金・CAPEXを除外すればEV/EBITDAの逆数に近い)が通常の設備投資・広告投資・人材投資と比べて妥当か

  • その投資額・期間について直感的に納得できるか(Gut Feeling)

ここで違和感があるのに、検証しきれず進めてしまうのは危険信号です。

(例)店舗ビジネスの場合
通常の新規出店で3~4年程度で投資回収できるモデルを前提にしている際、M&Aの相場がEV/EBITDAで7~8倍だった場合にどう考えるか。もし通常出店で代替できる程度の価値しかないなら、それに準じたマルチプルに収めるべきです。*数値は適当です。

一方で、時間を買う価値、出店する価値(簡単には出店できないエリアを確保できる)や業態としてのブランド価値など、差分を正当化できる要因がある場合は、高い評価をしてでもM&Aを推進する合理性が生まれます。

このあたりを可能な限り深堀して、数値に落とし込むことが重要です。

5. 投資実行からPMIまでの工程管理ができる体制か

株式取得に必要な資金さえ確保できれば形式的には買収可能ですが、#1~4に加えて会計・税務・法務など多角的な視点を有機的につなげる責任者(神経をつなぐ人)と、そのプロジェクトに「魂を入れる、だるまに目を入れる存在」がいなければ、全てが絵に描いた餅になってしまいます。

「だるまに目をいれる存在」は、オーナー企業であればオーナー社長自身、一定規模の事業会社であれば事業担当役員や事業部長になると思います。
こればかりは基本的には外注できません。

「だるまに目を入れる人」と「神経をつなぐ人」の両輪が機能してこそ、投資実行からPMI(Post Merger Integration)までのプロセスを成功に導くことができるのです。


弊社のソリューション

弊社グリットパートナーズでは、FA業務によるプロセス全体のサポートはもちろん、共同投資による投資実務の補填など、多角的な支援・協働が可能です。M&Aに関して少しでもご検討やお困りのことがございましたら、ぜひX(旧Twitter)のDMまたはinfo@grit-p.comまでお気軽にご連絡ください。


以上、事業会社がM&Aを検討するうえでの基本的な視点を5つ挙げさせていただきました。M&Aは事業を拡大・再構築する有効な手段ですが、自社の方向性やリソースを踏まえた戦略的な検討が何よりも重要です。今後の皆さまのご参考になれば幸いです。

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