逃亡劇
「太陽の光を反射させ、それを自らの光だと嘘をつき、美しく輝くあの大きな星は俺の思想そのものを象徴しているかのようだった。」
俺は逃げている。お前らの目から逃げている。
お前らはそれぞれ、独自の自然を持ち、その自然を通して俺を見ている。そうして俺をその自然に拘束している。
俺は考える。お前らを騙す嘘を考える。
星の光を奪う。電球の仕組みを奪う。鳥の羽を奪う。飛行機の原理を奪う。浮浪の感覚を奪う。偉人の言葉を奪う。
俺の目でじっと見つめ、全てを奪う。
俺はそれらをぐちゃぐちゃにし、大きな粘土の塊にする。
俺は作る。粘土の塊で何かを作る。
初冬に訪れた小さな丘の上にぽつりと佇んでいた、あの孤独な枯れ木をなぞるように作る。
お前らは見る。一本の大きくて、変な形をした樹を見る。
お前らの鏡にその樹が浮かび上がってくる。次第に、その樹はお前らの心に棲みつく。
お前以外は勘違いをする。新しいものだと、見たことがないと。
そして、彼らはそれを個性だと呼ぶ。
俺は気づいている。俺を見ているお前の目に気づいている。
俺は逃げている。お前の目から逃げている。
それ則ち、逃亡劇とは創作における仮初の個性を追求する過程を表したものである。
逃亡劇 / 初音ミク