『数式組版』を組む技術:単位em
本稿において,“本書”とは木枝祐介著『数式組版』ラムダノート(2018)のことである.
>>> https://www.lambdanote.com/collections/mathtypo
また,本書はLuaLaTeXを用いて組まれた.したがって本稿ではLuaLaTeXの使用を前提としている.
本書が組まれた当時はTeX Live 2017が用いられたが,多くのコードはそれより後のTeX Live 2019まで共通して使用可能である.
本稿では,バージョンに強く依存する場合を除いて,各バージョンは明記されないことがある.
emの定義
単位emの定義は次の通りである.
フォントの使用サイズ(上下方向の距離)が12ポイントの時の「1em」は一辺が12ポイントの正方形のことで、活字時代の呼び名「全角」のことです。
(小林章『欧文書体』美術出版(2005)より)
エムとは日本の全角に相当する。
(高岡重蔵『欧文活字』烏有書林(2010)より)
また,高岡は次のように続けている.
昔,ある欧文活字のmMが偶然にも全角であったことがあったので,全角のことをエムと呼ぶようになった。しかし現在では実際に全角になっておらず,大体7/8くらいである。全角をエムと呼ぶのは実際には不合理であるが,長い間の慣習で全角のことをエムと呼んでいる。
『欧文活字』は幾度かの復刻を重ねているが,初出は1948年であり,今から数えて71年前の指摘である.
emはもちろん欧文活字に対して定義される単位であるが,上の定義によって和文にも通用する単位となる.
注意すべきは,文字「m」や「M」に依存するような単位ではないということである.
(La)TeXにおける単位emの扱い
さて,(La)TeXにおいてもemという単位は存在する.
長さの単位として`1em`などと直接使用することが可能な単位である.
この単位はフォントの定義に直結している.
例として,`ec-lmr10.tfm`をみてみる.
つぎは,`ec-lmr10.tfm`をたとえば`tftopl`などで得られる結果の一部である.
(FAMILY LMROMAN10)
...
(DESIGNSIZE R 10.0)
...
(FONTDIMEN
(SLANT R 0.0)
(SPACE R 0.333333)
(STRETCH R 0.166667)
(SHRINK R 0.111112)
(XHEIGHT R 0.43055)
(QUAD R 1.0)
(EXTRASPACE R 0.111112)
...
`DESIGNSIZE`が`10.0`と定義されている.
これは,TeXにおいて,拡大率が指定されないときのフォントサイズを表わしている.
すなわち,このtfmをもつフォントはデフォルトでは10ptのフォントとして扱われる.
この`DESIGNSIZE`の値に対して`QUAD`が`1.0`と定義されていることによって,1emが等倍率の10ptと定義されている.
和文との整合
本書は和欧混植の書籍である.
したがって,和文が主体である.
このことは,1emという大きさが,和文のいわゆる「全角」と一致していることを自然に要求する.
『数式組版』を組む技術:基本版面(2)(https://note.com/yuw/n/nef472ce6c5cc)でもふれたように,本書では和文と欧文の書体比率を調整している.
そこで,`\quad`や`\qquad`といった「1全角」や「2全角」を次のように再定義することによって,和文に対する「全角」であることを改めて定義している.
なお「1全角」や「2全角」のスペースを要求する箇所は,一般に絶対量である必要があるため,スター付きで定義している.
\def\quad{\hspace*{1em}}
\def\qquad{\hspace*{2em}}