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ローアングルの俗聖一茶〜*落書きnote
こんにちは。お立ち寄りいただきありがとうございます。
下級武士や庶民などを描き続けた時代小説の名手、藤沢周平(1927〜1997)は、文学に暗いおいらでも読む。
藤沢は「暗殺の年輪」で直木賞を受け、代表作といえる「たそがれ清兵衛」や「蝉しぐれ」はよく知られている。
「父は万事、普通が一番という生きざまでした」と娘のエッセイスト遠藤展子が述べているが、おいらはそのへんに親しみを覚える。
映画やテレビなど映像化された藤沢作品は多いが、2017年秋に公開予定だった俳人小林一茶の生涯を描く映画「一茶」は、撮影を完了しながら、製作会社の破産などで公開できない事態に陥ったのは残念なことだ。
この映画は吉村芳之監督(2017年死去)のもと人気俳優のリリー・フランキー、佐々木希らが出演した。藤沢ファンのおいらは公開を楽しみにしていたが未だに実現していない。
藤沢が描く一茶は、単なる風流人ではない。
古来、歌聖は西行、俳聖は芭蕉という。ならば一茶(1763〜1827)は何と呼ぶ?
おいらは一茶を俗聖と呼びたい。俗語を自在に使いこなし、逆境の中で、誰にでもわかる俳句をつくった、というほどの意味だ。
一茶を扱った作品には藤沢の「一茶」のほか、田辺聖子(1928〜2019)の「ひねくれ一茶」、井上ひさし(1934〜2010)の「小林一茶」などが知られている。
実生活の一茶が俗にまみれていたというのは、俳諧の世界ではよく知られていたことだ。
江戸で俳諧師として名が売れても、住む家はなく、弟子たちの家で飯を食わせてもらう生活が続く。「秋寒や行先々は人の家」という一茶が詠んだ句は、その頃のものだ。
信州へ帰郷しても、義弟と遺産分配をめぐって悪どい手口で財産を半分取り上げる。もらった後妻とは荒淫の限りをつくす。
一般的に一茶は「痩蛙まけるな一茶是にあり」とか「やれ打つな蠅が手を擦り足をする」という優しい句で知られる。
もう一つ、忘れてならないものは、底辺に生きる人々への寄り添い方だ。
「木がらしや地びたに暮るゝ辻うたひ」。「地びた」というローアングルで町行く人々を見上げているのだ。
生涯に約二万句詠んだ一茶だが、それは、「何でも句にしてやろう精神」のなせる業だったに違いない。
俗にあって、俗を、五七五の詩に高め、命を吹き込んだ功績は大きい。
現代は人間の温もりを率直に表せない時代だ。一茶の句に一貫して感じるのは現代が失った人間の体温である。
さて、あすは晴れるのか?曇るのか?
*フォト ▽初冬の飛鳥路
*俳句巡礼 ひとかどの女の如し山眠る(守屋 明俊)
季語は「山眠る」で冬。「ひとかどの男」ではない。「ひとかどの女」である。どんな女だろう。成熟した女と解することもできる。あなたの心のままに、自由に解釈すればいいと思うが。
【守屋明俊=もりや・あきとし】長野県伊那高遠生まれ、明治大学卒、「未来図」編集顧問、1950年(昭和25年)~。
【俳句手控え】「山」は四季を通じ身近にある。それ自体は季語ではないが、上記のように「山眠る」は冬の季語だ。
「山笑う」は春、「山したたる」は夏、「山よそおう」は秋の季語だ。山にも季節の特色を表した表現がある。