小説【あべこべ2】
「やめろ!!!!」
気づくと叫んでいた。
ドンと言う衝撃音と共に男の肩が少し揺れ、顔がカメラ目線に切り替わった。
何をやってんだよ…なんで停めないんだよ!なんで笑ってんだよ!!
気づくと俺は、罵詈雑言のコメントを打ち込んでいた。
「いやぁ~アンタらもお人好しだね~700万も借金させられ、挙句に騙されて自殺した女の子にみんな優しいね~」
男は、ヘラヘラしながらコメントを読みながらタバコに火を着け紫煙を空中に巻いた。
「お前ら知ってる?年間何人この国で自殺してるか?約2万人」
そう言いながら男は、柵を越えるとそっと縁から下を覗き込んだ。
「毎年2万人がこんな最後を迎えるんだ、どう思う?」
顔を歪ませながら男は、再度ヘラヘラしながらカメラ目線で問うてきた。
「なに?お前にそんなことを言う権利はない?酷いなぁ~聞くのに権利なんて必要かい?」
男は、返されるコメントにヘラヘラと笑いながら応える。
ふざけんな…
《何がそんなに楽しいんだよ!なんでそんなにヘラヘラ笑ってられんだよ!》
気づくと思うがままにコメントに打っていた。
どうせ読まれないとわかっていても書かないと気がすまなかった。
書いても気が済むわけでは、無い。
だけど、こんな風にヘラヘラしてる奴をどうしても許せなかった。
「楽しいか?いんや、楽しいわけじゃないな、滑稽だなって思ってさ」
男が俺のコメントを読んだ。
《滑稽ってなんだよ、何が滑稽なんだよ!?》
「ん?お前らだよ、こっちのコメント欄もそうだけど、あっちのコメント欄も、みんな、彼女に同情するだけ、やめろって止めるだけ、どうせ今日のことだって話の種にするか、トラウマの種にするか、その程度だろ?逆にこの中で本当に通報したヤツいるか?それを止めれなかった俺一人にみんなして《お前が悪い、なんで止めなかった!》笑えるだろ?自分は、何もしないで見てるだけ癖にな」
男は、呆れた顔でそういい、コメント欄では、罵詈雑言の嵐が支配していた。
「止めなかった言い訳?笑わせんなよ。俺だって彼女の背景の画面見てここまで特定してきたんだぜ?たまたま知ってるから来れただけの話だけど、何?お前の事を特定してやる、出た出たなんか知らないけど弔い合戦したがるやつ。別に構わないけど本当に戦うべきなのは、俺か?」
その問いに誰も応えない。
ただ男に対する罵詈雑言だけがコメント欄を支配していた。
本当に戦うべきなのは…
俺は、男のその言葉に何も返せないでいた。
《俺達が本当に戦うべきの相手って誰だよ》
気づくと俺はそんなコメントを残し、それを見つけたのか男の目の色が変わった。
「本当に戦うべきなの?そりゃ正義だよ」
男は、そう言うとゆっくりと画面を睨みつけた。
「正義、今お前達が振りかざしているものは、本当に正義か?正しい事か?」
誰も男の言葉に耳を貸そうとしない、少なくともコメントを打ってる奴等は何も聞こうとしていない。
そうか、これか…こいつの言ってる正義って。
俺は、妙にそれを納得たまま何も言えずにいた。
「まぁ集団でそれもこんな風に同じ仲間が居る奴等にはわからんだろうさ、生きていれば、死ななくてもやり直せる。いくらそんな言葉を吐こうとも本人がそれを見て感じなきゃ何も変わらない。また同じことを繰り返し最後は、成功させるだけだ、気づけよ、親切、優しさ、そんな言葉が時には、人を殺すんだよ。悪意の言葉なら悪意で返せばいい、だが暖かい言葉を無下にできる人間は、そう多くない、特に傷ついた人間なら尚更だ」
尚も男は、弁論を続けた。しかしその表情には、笑みはない。
あるのは、何かも貫きそうなぐらいの強い瞳だった。
「なんてな、俺の言ってることが理解出来るやつなんてこんな配信見てないよな」
男は、そう言いながらヘラヘラした笑い声を上げながら紫煙を空中へ吐き散らかした。
「まぁ精々、俺もこうならない様に気をつけるわ」
そう言いながらカメラを下に向けた。
突然の男の行動に咄嗟に画面から目を背けてしまった。
コメント欄だけは微かに追うことが出来たからそのは変化に気づけた。
罵詈雑言のコメントがピタリと止んだのだ。
次に流れた言葉に虚を突かれた。
《生きてる?》
えっ?そのコメントに恐る恐る画面を見るとそこには、マットの上に仰向けで寝ているクロコとそれを救急隊員達が運び出そうとしている映像が映されていた。
「悪いが俺は生きていたらいい事あるなんて言うつもは、サラサラない。こんなクソで最悪で救いようの無い世界で生きているなら死んだ方がマシだと思う」
画面がくるりと変わりをマンションの夜景を映し出した。
「だが、誰かに従うのも好きじゃない。彼女は、俺を憎み、また死のうとするだろうよ。だから今俺に向けて《なんで止めなかった》って言ったヤツら、止めてみろよ今度は、お前らが」
そう言いながら男の顔のドアップが映し出された。
その顔は、ヘラヘラとした笑顔をしながらカメラに向かい男は、煙を吹きかけた。
「それと、夢想ゲートの美弥麻くん、頑張ってね。精々この動画が拡散されないといいね」
そうして男のライブ配信は、終わった。
これが俺がジョーカーを見た最初の動画だった。
終