小説【糧】
俺は、何がしたい
何を考えている?
何が怖い
どこ見ている。
答えを探している?
どんな答えを探している?
何を見たい?
何を作りたい?
何をすれば満足する?
満足ってなんだ?
願いはなんだ?
あの日何を見て何を感じた?
あの時何をどう思った?
俺はなんの為にここにいる?
「あと何回素振りをすればお前は止まる?」
その言葉に思考が止まった。
「まだ、迷ってるのか?」
誰の声だろうか?
当たりを見渡すがそこには、誰もいない、何も無い。
石の壁の部屋が広がっているだけだ。
迷う。何を?
今更何を迷えるんだ?
迷ってどうなる?
迷ってももう何も変えられない、何も変わらない。
「本当に何も変わらないのか?」
何も変わらないだろ、だからこんな所でこんな事しか出来てないだろ?
「それは、何も変わらないからしてるのか?変わらないなら振る必要ないだろ?それはなんの為に振っているんだ?」
その言葉に促される様に手に握る木刀を見た。
刀は、この世界には、なかった。
だから、俺は、これを作ったんだ。
木だけどその形を作る事は、出来た。
だから作った。
「ほら、変わってるじゃないか」
こんな些細な事がなんだ。
これを刀の形だと知ってるのは、俺だけだ、それになんの意味がある?
「意味は、必要か?お前が知ってるだけでそれはこの世界に観測された、それは無かったモノがこの世に誕生した事をさすんだぞ?」
そうか、これは変化だ。
自分にとって大したことなくてもこれは変化なのだ。
「もう一度聞く、何を迷う」
何を迷う…何を躊躇う?
ふと拳を握りしめた。
そうか。
俺は、迷ってたんじゃない…逃げてるだけだ。
「逃げる?何から?」
自分の無力さから、あの時の様に見送ることしか出来ないあの時を繰り返すのが怖いだけだ。
でも、それだと何も変わらない。
どの道何も出来ないまま消えて自分の無力さに苦悶するだけだ。
そんな事ならいっそ何も感じたくない…
「本当にそう思うか?」
その言葉と共に目に浮かぶのは、楽しそうに笑う彼女と悲しそうに笑う彼女の顔だった。
「アイツが聞いたら今の言葉聞いたらなんと言うかな?」
きっと、何も言わない。
多分、無言で平手打ちを俺の頬にぶち込んでくるだけだ。
「もう一度死は、無駄か?消えたものは、本当に全て消えるのか?体が消え、記憶から消えたら何もかも無くなるのか?」
いや、それはきっと違う。
俺や色んな人間は、自分だけで構成されてるわけじゃない。
行動や考え方、見る事、感じる事、きっと色んな者から得ているんだ。
見える見えないの違いは、ある。
覚えている、覚えていないもある。
それでも、間違いなく、それは自分の中にあるんだ。
例え、忘れたとしても生きているんだ、この中で。
そうか、お前は…
「そうだお前は」
多々見維か
「ゼン・ヤマダルだ」
木刀を強く握り締め、最後に力を抜きながら一振をした。
空気を切ると共にその空間をただ真っ直ぐに見つめた。