健康法としての合氣道

※2023年11月に私の教室の会員向けに書いたコラムです。内容はあくまでも私個人の意見です。

「健康法としての合氣道」

月が変わるたびに「もう◯月かぁ〜」とちょっと焦りをおぼえる氣がします。今年もあと2ヶ月ですね。月にとらわれることなく、いつでもその時の最高最善の状態で、やるべきことに向かうのみ。とはいえ、「早いなぁ〜」なんて思ってしまうのもまた事実です。皆さんはどんな心持ちで11月を迎えたでしょうか?

今回は「健康法」という観点で、心身統一合氣道を考えてみたいと思います。私の周りの人達や会員さんの中でも、健康面での不調を抱えている、という話が少し増えたかな、という感じがしています。健康とは、病とは、そんなことが今回のテーマです。

突然ですが、「健康」って何でしょうか?WHOの定義では「健康とは、肉体的、精神的及び社会的に完全に良好な状態であり、単に疾病又は病弱の存在しないことではない。」 だそうです。「完全に良好」というと、疑問を感じてしまいます。そんな人いる?ってなりますよね。ただ、「単に疾病又は病弱の存在しないことではない」というのは、私には納得でした。
例えば「風邪をひく」こと。身体がウィルスのような異物に対抗するために、発熱や咳やくしゃみなどの症状を発することが「風邪」ですよね。身体がこうした機能を発現するということは、正常な機能を有していることの証です。つまり、健康だからこそ風邪の症状が出る、という見方も出来るわけです。しかしついつい我々は、現れた症状にとらわれて、この症状をなくそうとだけしてしまいます。症状が消えると「健康」、そんな風に考えがちですよね。しかし上記の身体の機能を考えれば、症状を発することは「健康の証」でもあるわけです。人間本来の生命力が発動しているからこそ症状が現れる、そういうこともありますよね。症状がある、これを消さないと健康になれない、という考え方は、私はしていません。

この考え方は、痛みや発疹など、身体に現れるもの全般に共通しています。身体が何かを発するのには、その原因となるものがあるはずです。現れたサインにより、身体は何を伝えようとしているのか?そんな視点を持つことで、病や症状に対して焦りやパニックではなく、落ち着いて自分の本来の思考をもって対処出来るようになります。

天地に与えられた人間本来の生命力の発動として、病や症状が発している。何がそれを呼び起こしたのか?それを単なる物理的・肉体的な現象のみではなく、「精神的」「社会的」なものも含めて考え、見直してみる。それだけでも、症状に対する向き合い方は変わります。体調不良を抱えた時には、一度こんな風に見直してみることをお勧めします。

これは、病、症状、痛み、発疹、等々、放っておけばいいよ、なんて言っているわけではありません。こうした何かの兆しが現れた時に、どこへ立ち返るべきなのか?その答えが、我々が学んでいる「心身統一」、つまり「天地と一体」という状態ではないか、と私は考えています。人間本来の生命力が最高に発動している状態、それが「心身統一」であり、心身統一合氣道を学ぶ目的です。例えば、スマホの見過ぎでストレートネックになり、肩こりや頭痛を発症していたとします。肩に湿布したり、頭痛薬を飲んだりして、痛みがとれたら、それで健康になったと言えるでしょうか?スマホ依存の生活習慣を見直し、正しい姿勢を知って身につけること、それによって症状が出なくなる。これが本当の対処法ですよね。同じことが、多くの病や症状にも言えるのではないでしょうか。何かの不調が現れた時は、それは本来あるべき姿からズレてきている、というサインです。その時に、どこに戻るべきなのか?自分のどこに不自然な心身の使い方があるのか?そんな視点を持って稽古に取り組むと、色々な発見があるのが心身統一合氣道なんです。

ここで、先ほどのWHOの健康の定義に基づいて、心身統一合氣道との関係を整理してみます。

⚫︎肉体的な健康
心身統一合氣道の特徴の一つは、「リラックスの武道」ということです。余計な力を使わず、身体に余計な負荷をかけることなく、楽に行える動きを「正しい」としています。これは筋肉を使わない、という意味ではなく、全身をバランス良く使う、ということで、実際には全身の筋肉をバランス良く動かしています。試合を行わないので、各自の目的やペースに則って稽古できるのも特徴で、無理のない適度な運動と言えるでしょう。もちろん、たくさん動きたい人は、素早く大きな動きをたくさんすることも出来ます。
正しい姿勢を身につけることにより、日常においても無理のない身体の使い方が出来るようになることも、大きな特徴と言えるでしょう。この他にも、呼吸法や後方転倒運動など、身体に良いことが満載です。

⚫︎精神的な健康
心には心の、身体には身体の法則があり、車の両輪のようにどちらも大切なもの。これが心身統一合氣道の考え方です。心の状態を人間本来の良い状態に保つこと、これも心身統一合氣道の得意分野です。我々は日常において、外界からの様々な影響(ストレス)を受けて、その対処をいつもしています。「心を静める」、このことを稽古している方と、そんなこと知らない方では、同じストレスに晒されてもその影響の受け方は雲泥の差があるでしょう。「臍下の一点」ひとつ知っているだけで、精神面の安定度が大きく変わります。

⚫︎社会的な健康
心身統一合氣道は、相手を理解し、相手を導くことを、その根本原理としています。「心身統一合氣道の五原則」がそれです。相手との関係性を良好に保つために必要な要素が、合氣道の稽古の中に存在しています。技がうまくいかない時、自分の心の状態はどうなっていたか?相手との関わりはどうなっていたか?そんなことの中に、人間関係の基礎となるものが含まれていたりもします。
そして、合氣道は一人では出来ません。道場教室には、そんな学びを一緒にする仲間が集まっています。利害関係も上下関係もない、プライベートで共通の趣味を持つ皆さんが集まって、「氣が出る」ことに取り組んでいる場です。そんなコミュニティって、特に大人にはなかなか探せないような氣がします。。

と、こんな風に完全に手前味噌、贔屓の引き倒しではありますが、しかし客観的にみても、心身統一合氣道はWHOの言うところの「健康の定義」を満たすために存在しているような、大変意義深い武道です。道場教室には、「健康になりに来ている」と言っても過言ではありませんね。

もちろん、動けないような重病やキツい感染症、本当に運安静にしなければならないような状態は除きますが、これらを踏まえると、少々の体調不良やちょっと氣持ちが乗らないとか、氣分が落ちている、なんていう時には、むしろ稽古をしましょう!って言いたいのが私の本音です。色々バタバタしてる、頭が混乱している、落ち着かない、気持ちが沈んでいる、なんていう時は、そんな時こそ稽古をして、心身を整えましょう!って言いたいんです。自身が整わない状態のまま、引きこもったり考え込んだりしても、良い結果には繋がりません。まず「氣を出す」、そして本来の状態を取り戻すこと、そういう自分であることこそ、そんな時にやらなければならないことのはずです。

心身統一合氣道は、最良の健康法でもあります。少しの不調がある、うまくいかないことがある、そんな時にこそ稽古に取り組んでみて欲しいんです。安静にしていればそのうち良くなる…。そんなことよりも、調子を取り戻すために良い方法はあります。稽古をすると元氣が出る!健康になれる!そういう教室にしていきます!

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