花嫁は鼻毛が出ていた。
先日長年の友人ゆみちゃんと久しぶりに会ったときに、ゆみちゃんの鼻毛が出ていることに、会って20秒くらいで気づいた。
あっ、ゆみちゃん鼻毛でてる
すぐ言おうと思ったのだけど、ゆみちゃんがいきなり大学時代の好きだった人にドトールで偶然会ったのだが、すんごいハゲていた。という話をはじめ、その話がぜんぜんとまらなくて、ノンストップ!どころの騒ぎじゃないくらいとまらなくて。鼻毛のはの字も発するスキマを与えてくれず、私は完全にいうタイミングを逃してしまった。
その後も
「ゆ、ゆみちゃん…?」と切り出そうとしたが、
その前にゆみちゃんは少し改まった顔で
「あのね、実は…結婚することになったよ!!(鼻毛出)」
と照れ臭そうに言った。
えーーーーーーー!!!
わー!おめでとう!!
え、あの西郷どん似の彼氏だよね??
おめでとうおめでとう!!
よかったねーーーー!!
ひとしきり2人で喜び合い祝福しあい、
2人の間には、めでたい空気がふわんふわん浮かんでおり、
ついでに2人とも飲んでもいないのに、トロントロンしており、
もう私も鼻毛のことなど忘れていた。
結婚が決まるまでのエピソードをひとしきりゆみちゃんから聞き、冷やかしたり羨ましがったり、そのへんの女子たちがするであろうリアクションをひとしきりし、
勢いづいてどデカいパンケーキを2人で頼み、その幸せな香りがさらに加わり、もう絶頂であった。
標高的には地上1階だったが
あやうく『やっほーーーー!!』
と叫びたくなるほど、心は山頂だった。
カフェラテもガブガブ飲み、お腹はダボダボだったが心はホカホカで、
自分まで幸せを分けてもらったような感覚になりながら家に帰った。
♦︎
そこまであたたかい気持ちになったのにも、いろいろ理由がある。
彼女は私たちの共通のなかまの中で、誰よりも結婚願望が強かったのにも関わらず、そして性格もとても優しく、私が嫁にもらいたいくらいの娘っ子だったのにも関わらず、なかなかいいご縁に恵まれず結婚できないと苦しんできたのを数年間みてきたからだった。
30代半ばにさしかかると、焦り出したゆみちゃんは、「もう誰でもいいから結婚したい」
と投げやりになり、大して好きでもない、とんこつラーメンとバイクが趣味という情報しかない謎のオッサンと夫婦(めおと)になろうとしていた時には、さすがのまわりも止めていた。
自分なんかは早々と出来ちゃった結婚なんかをしてしまい、子もポンポコ産んでしまい、
その彼女の気持ちを聞いてあげることはできても、ほんとうの苦しみをわかってあげることはできず、「結婚にこだわらなくてもさ…」とか「そのうちいいご縁が…」なんて言葉は間違っても彼女には言えなかった。
♦︎
「誰かに必要とされたいよ。こんなにいっぱい人がいるのに、誰からも選んでもらえないってさ、誰からも必要とされてないわけじゃん。それって自分なんかいなくてもいいんだな。ってたまに思っちゃってさ。」
と婚活惨敗中にゆみちゃんは言っていた。
(そんなことないよ ぜったい )
って思ったけど、言えなくて、
「そっかあ。」と言うのがせいいっぱいだった。
そんな苦しんできたゆみちゃんを
嫁におくれ!
という人がついに現れた。
ゆみちゃんの結婚までの物語を思いだし、結婚て、自分を肯定する意味もあるんだなァと思った。
♦︎
家に帰って、鼻水を噛もうとしたときに、
ゆみちゃんの鼻毛問題が走馬灯のように蘇ってきた、
ハッッ!!
ゆみちゃんに鼻毛出てるっていうのを忘れてしまった。
大事なことを伝え忘れ、帰ってきてしまった。
西郷どんとの結婚報告に浮かれ、
パンケーキを食べすぎて腹がはち切れそうなばかりか、鼻毛のお知らせまで忘れるなんて…
なんという失態だ…
どうしよう。今からL I N Eで言った方がよいかな。
今日はおつかれー!
ほんとうに楽しかった!
本当におめでとう!!!
そういえばさ鼻毛出てたよ?
もしくは
今日はありがとう!
すごく楽しかったよ!
また今度会おうね!
あ、ゆみちゃん鼻毛出てたよ!
いや〜〜〜流れが不自然。
なんでさっき言ってくれなかったのか
とかそういう問題になるかもしれないし。
だけど結婚なんて人生でいちばん幸せなタイミングに、鼻毛の件を告げるのはむずい。
花嫁と鼻毛はかなりミスマッチだし、
今幸せ絶頂な友人を傷つけることは避けたい。
しかし鼻毛は出ている。絶対に出ている。
今も彼女の鼻毛は出ているはずだ。
つーか西郷どん言えよーー!
気づいてるでしょ?彼氏なんだったら。
言ってあげてよ〜〜〜〜〜〜。
今頃ゆみちゃんは、コンビニの店員さんや、スーパーのレジのおばちゃんや、
私ではない違う友人などからも
(あっ、鼻毛出てる)と思われてるかもしれない。
私がどこかのタイミングで彼女に告げられたなら、それで済んだのに。
それなのに!!くぅぅぅぅ!!!!
鼻毛のことが言えないなんて友達失格ではないか。
ねぇそうだろ?
言いたいことが言えない関係なんて、そんなの友達じゃないってよくいうじゃんか。
ヨシ。言うぞ。
結婚するなんてそんなの関係ない。
結婚するからこそ言わなければならない。
♦︎
いろいろ考え、翌日、となりのじいちゃんから大量にもらったじゃがいもを持ってゆみちゃんに会いに行った。
ところが、なんと!
彼女の鼻毛はあとかたもなく消滅していた。
ドサッ(じゃがいも落とす)
私は力が抜けて、すべてゆみちゃんに暴露してしまった。
犯人は西郷どんだ。
西郷どんに昨夜言われたらしい。
さすが、それでこそダンナってもんよォ!
ゆみちゃんは
「そんなことで悩まないでよ」
と笑っていた。
あ、ゆみちゃんが笑ってる。
いやいつも笑っていたけど、
ほんとに笑っている気がしたよ
*note公開も認めてもらいました(ほんとにいいの?!花嫁なのに?)
おしまい
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