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ニューエイジ・アンビエントを聴く③

2022年最初のnoteです。今回は2021年のベストアルバムから漏れてしまったアンビエント系アルバムの感想。
そもそも今回のアルバムが年間ベストから漏れた理由としては「聴く時期が遅かった」、「聴きこみが足りなかった」、「そもそも知らなかった」などになるんだけど、改めてしっかり聴いてみると本当に素晴らしい、今選び直したら年間ベストに入れたいと思わせるようなアルバムがたくさんあったんですね。特にこのジャンルについては、昨年の中盤〜終盤にやっと自分の中でアンテナが立ったということもあって、見落としていたアルバムが大量だったので、今回、2021年のアルバムだけで感想を残しておきます。

Grouper / Shade (2021)

年間ベストに入れようか迷ったけど、聴き込みが不足していると思ったので入れなかったのがGrouperの新作で、15年間に渡ってレコーディングされた曲によるアンソロジー的なアルバム。

フォーク・ドローン・アンビエントというよりは、ドローン・アンビエント・フォークといった方がいいかもしれない。当然歌はぼやけており、その内容は一聴する限りでは聴き取れないくらいだけど、ギターがこれまでの作品(他にA I Aシリーズしか聴いてませんが・・・)と比較して最も輪郭を持って鳴っていて、これはこれで美しい・・というかこれまでで一番、ポジティブなバイブスを纏っているように感じる。空気中に漂うチリたちが陽光に照らされたらキラキラと輝いて見えるように、このアルバムは不安や恐れといった負の感情を溶かし、正の感情に転換してくれるような、そんな音楽だなと思う。

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Perila / How Much Time it is Between You and Me ? (2021)

ロシア育ち、ベルリン拠点のアンビエントアーティストPerilaのアルバム。Huerco S.、Ulla、EXAEL、Special Guest DJらのコミュニティで活動をしているそう。

フィールドレコーディング中心の楽曲は、パンデミック下に唯一旅行したフランスのインターネットもつながらない、山に囲まれた片田舎で録音されたようで、彼女曰く本レコーディングで「自己への没入体験」を得たらしい。終始不気味に揺れ動いているドローンサウンドに加え、フィールドレコーディングによるASMR的な物音、どこか官能的なスポークンワード等により、なかなか陶酔感に溢れた一枚になっている。

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LI YILEI / 之/ OF (2021)

中国出身、ロンドン拠点に活動する女性アーティストLi Yileiによるアンビエント作品。ロンドンから帰国した隔離期間中の経験等を作品に反映させているらしく、誰も逃れられないこのコロナ禍の日常における一瞬一瞬を切り取ったような珠玉の12曲が並ぶ。

冥丁のアルバムもリリースするMétron Recordsからのリリースで、アルバムアートワークに宋の時代に描かれた鳥と花の絵画を用いているとおり、オリエンタルなムードを感じる瞬間が度々ある。が、このアルバムは冥丁や、例えば同じ中国出身のYu Suのアルバムほどオリエンタルな感覚が強調されているわけではなく、フィールドレコーディングやその他の電子音の中に実に自然に溶け込んでいると思う。アンビエントとエレクトロニカの中間のような繊細で美しい曲の数々を聴いていると、色々な感情や光景が浮かんでは消えていき、これぞ人生って感じがするな。

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Eliane Radigue / Occam Ocean vol.3 (2021)

Eliane Radigueすら本作で知ったアンビエント初心者です。1932年生まれのフランスの電子音楽家はミュージックコンクレート/ドローン界隈では超レジェンドだそう。このアルバムは2019年イタリア・ボローニャの修道院で録音された即興アンビエントで、瞑想的でどこか仏教チックな雰囲気を醸し出している。ググってみるとEliane Radigueは1970年代にチベット仏教に傾倒していた時期があったという。なるほど。

この弦楽器の増幅と減退をひたすら繰り返す持続音を聴いてるだけで心が整い、頭が整理され、マインドフルネスへと誘われる。Pauline Oliveros「Deep Listenning」と同じような感覚を覚える音楽だ。

Eliane Radigueもきちんと追った方がいいんだろうな〜。でも過去作とかみてみると2時間越えとかザラにあるので、最近30−40分くらいのアルバムが肌感覚にあっている今、果たしてフィットするだろうかとちょっと尻込み・・・。

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Claire Rousay / A Softer Focus (2021)

アンビエント界隈では2021年はClaire Rousayの年だったらしい。色々な人の年間ベストを見るまで全く認識していませんでした。Claire Rousayの背景は(なんなら本作のレビューも)こちらの記事が詳しいんですけど(これだけ読めば十分なレベルです。すごい・・)、元々即興演奏をするドラマーだったみたい。それがどうしてフィールドレコーディングを多様するようになったのか、それも記事に詳しく説明があるんだけど、自分でもきちんと音を聴いて追ってみたいと思った。

フィールドレコーディングの傑作というと、最近だとKMRU「Peel」が頭に浮かんだけど、あちらが非常に整った環境音なら、Claire Rousayのそれはトリートメントされていない雑多な環境音の集合体という感じ。日常の風景が浮かんでくる環境音と繊細なドローンのレイヤーだけでも良いのに、それだけでなくピアノ、楽器やボーカルも含めて全ての音を不自然なく繋ぎ合わせてくるのがほんとズルい。いやーめちゃくちゃ良いね。この人、これからもフォローし続けます。

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Claire Rousay & More Eaze / An Afternoon Whine (2021)

連チャンでClaire Rousay。と、マルチインストゥルメンタリストMore Eazeのコラボ作品。いきなりトイレを流す音や手を洗う音といったとても生活感のあるフィールドレコーディングから始まるが、そんなありとあらゆる生活音にプラスしてピアノ、ギター、バイオリン等の音がコラージュ的に組み立てられ、ドローンの上でキラリと舞っている。さらにM4ではまさかのオートチューンを用いたアコースティックなフォークソングまで披露しており(もちろんバックでは環境音が鳴っており一筋縄ではいかない)、既存の枠組みに囚われない自由な気質が表れている。

自分はこのアルバムを聴いて「日常の喜びに溢れた、なんと素敵な音楽だろう」なんて思った。全体的に親密さに溢れ、パーソナルな雰囲気が漂っている。多分二人の関係性は本当に良好で、本当に楽しんで作ったんだろうなと思わず頬が緩んでしまった。

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Jon Hopkins / Music For Psychedelic Therapy (2021)

Jon Hopkins先生がこんなフルアンビエント作品をリリースしてくるとはね。アルバムタイトル通り、このアルバムはうつ病等の心理セラピーにLSD等の幻覚剤を用いる、幻覚セラピー(Psychedelic Therapy)のための実用的な音楽を目指して作成されたようだ。

幻覚剤の効果を高めるための音楽ということだろうか。実際に、内容としてはかなりトリッピーなアンビエント作品になっていて、気持ちいいことこの上ない。ちょっと通して聴くには飽きてくる時もあるけど、クオリティは高いよ。

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Picnic / Picnic (2021)

見よ、このピンボケしたアートワークを。ダブアンビエントとはまさにこんな感じの音楽だ。ズブズブ、モヤモヤ、モコモコ・・・そんな言葉を並べたくなるような不明瞭な音像の上で、ブツブツと途切れるような細かいノイズが散りばめられる。まさにWest Mineral周辺の流れに乗るアンビエントだけど(実際にHuerco S.やDJ Paradise (uon)によるリミックスも収録)、Picnicはオーストラリア発である。今やアンビエントダブは世界中に拡散しているのだ。もはや飽和気味?かもしれないが、この沼のようなサウンドからは自分はまだまだ逃れられそうにない。奈落の底まで沈んでいこう

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Space Afrika / Honest Labour (2021)

様々な年間ベストでよく見かけたマンチェスターのデュオによるサウンドコラージュアンビエント。自分が詳しくないだけだけど、こういう感じのコラージュ×アンビエント的な音楽はあまり聴いたことがなかったので、めちゃめちゃ新鮮だった。

元々Basic Channelを元祖とするダブテクノ的な楽曲を制作していたとのことで、その流れからかダークで朧げなダブアンビエント的な音像(大好物のやつです)がベースにありつつ、そこにプラスする形で日常会話やフィールドレコーディング、その他様々な音がコラージュ的に繋ぎ合わされ楽曲に溶け込んでいる。

ただ、これをアンビエントに括っていいのかはよくわからない。Grouperのような歌ものもあるし、ビートやラップが入っている曲もある。それでも自分はこのアルバムを環境音楽の括りで聴いている。アンビエントって自分の中で日常と夢の境界みたいな位置付けに置くことが多くて、この音楽もただ聴いていて気持ちいいというだけでなく、無意識に現実の厳しさや怒りを刷り込ませてくるような感じがして、非常に刺激的で面白いなと思った。そういう意味ではLI YILEI、Clair Rousay、Perilaをはじめ、ここに取り上げた作品は全てそんな感じかもしれない。

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Nala Sinephro / Space 1.8 (2021)

最後に番外編として、ロンドンベースのカリブ系ベルギー人によるWarpレコードからのデビュー作。アンビエントの記事で取り上げたけど、基本はジャズです。でも優雅なニューエイジとの邂逅が楽しめる。

本人の演奏はモジュラーシンセとペダル・ハープで、そこに新世代UKジャズシーンの重要人物たち(サックス奏者の重要人物Nubya Garcia、同じく重要グループEzra Collectiveのサックス奏者James Mollison、シャバカのSons of KemetのドラマーEddie Hickなど)がこぞって参加しているという体制。全体的に柔らかで温もりが感じられるサウンドスケープで、非常にリラックスして録音されたんじゃないかな。そんな柔らかい音像にサックス、ドラム、ピアノ、ハープ等が彩りを与えていて、シルクのように上質な時間を提供してくれる一方で、時には激しいエネルギーに満ちた瞬間も聴かせてくれる。

それにしても、最近こういうジャズアンビエント的なサウンドを結構耳にするような気がする。自分が聴いた去年のアルバムであれば、Pharoah SandersとFloating Pointsの「Promises」、Cassandra Jenkinsの「An Overview〜」、Sam Gendel & Sam Wikesの「Music For〜」にもそんな要素があるかもしれない。いずれも年間ベストに入れたアルバムだけど、本作もリアルタイムで聴いてたら年間ベストリストに選んでただろうな。

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