最近のお気に入り:アブストラクト・エクスペリメンタルヒップホップ
今回はアブストラクト・エクスペリメンタルヒップホップアルバムたちの感想をば。ちょうど昨年末あたりからこの辺をよく聴いていて、調べてみると至る所でアーティスト同志が繋がっておりかなり興味深かった。今までこの辺ってEarl Sweatshirt「Some Rap Songs(2018)」くらいしか聴いてなかったけど、色々な地殻変動が起きていて、その一つの象徴としてEarlの作品があったのだなと気づけたのが本当に良かった(今更)。どれも型にはまらない自由な構成、様々なジャンルを参照した刺激的な音の数々、かと思えば捉え所がなくフワフワと逃げられるような感覚がとても面白い。J Dilla、MadlibのDNAを引き継いだ最新の音楽はこいつらだ!(※シーンと関係なさそうなものも混ざっています)
ちなみに、日本語の記事だと以下がとても参考になりました。
Armand Hammer / Shrines (2020)
ニューヨークを拠点とするBilly WoodsとElucidによるデュオ。今回の記事でこの二人の名前が至るところに出てきます。また、今回取り上げている他のアーティストとしてはMoor Mother、R.A.P. Ferreira(Milo)やEarl Sweatshirtが客演として出てくる。トラックは不穏で抽象的、そして攻撃的だ。語気強めのラップも含め、このシーンからリリースされている他のアルバムと比較しても、かなり怒りのパラメーターが溜まっているように聴こえる。歌詞がわからないのが悔しいな‥。
Navy Blue / Song of Sage: Post Panic! (2020)
Earl SweatshirtのSome Rap Songsにも参加していたNavy BlueはLAを拠点としておりプロ・スケートボーダーでもあったという(何その才能の塊)。後述するMIKEとも旧知の中で、二人してEarlにファンですと駆け寄ったとかなんとか。で、この作品に参加しているのはArmand HammerのBilly Woods。もうね、全てのトラックが「Donuts」みたいに有機的に絡み合い溶けていくようで素晴らしいです。Navyの物憂げなラップもジワっと心に染み渡ります。
Milo / Who Told You To Think??!!?!?!?! (2017)
R.A.P. Ferreiraが以前に使っていたのオルターエゴであるMiloのこの作品もとても良かった。ここにもArmand HammerのElucidが参加している。Madlibからの影響が大きいであろうジャジーなトラックに時折聴こえるフィールドレコーディングの音やピアノのメランコリックな音がエモさを掻き立て、また、今回紹介する他のアルバムと比較すると一曲一曲のキャラが立っているため割と聴きやすいように感じた。Miloのフローも、ゆっくりだったり、音節を際立たせるようにしたり、緩急自在で豊か。M2が特に好き。
Moor Mother & Billy Woods / Brass (2020)
Moor Motherといえばド級のエクスペリメンタルアーティストで、ele-kingに絶賛されまくっているイメージだが、そんな彼女とともにラップを乗せているのがこれまたArmand HammerのBilly Woods(Elucidも参加してる)。また、最後の曲ではNavy Blueも参加している。繋がるね〜。
さて、昨年末にリリースされたこのアルバムは、フリージャズ、ノイズのコラージュにより全体的におどろおどろしい呪術的な雰囲気のトラックで占められている。そして、Moor MotherとBilly Woodsのポエトリーリーディング的なラップは真に迫る迫力があり、不気味な世界観をさらに増強している。いや、なかなかこわいぞ・・。M1「Furies」ではSons of Kemetをサンプリングしており「そこも繋がるのか!」という驚きも。
MIKE / tears of joy (2019)
ニューヨークを拠点に活動するMIKEは、もともとEarl Sweatshirtのファンで、Earlの方もMIKEの楽曲をBandcampで購入したことから、今ではかなり仲が良いらしい。そしてNavy Blueとの繋がりが強い。アブストラクトヒップホップに括られるくらいだから、不明瞭な輪郭のコラージュ的な曲が続くのはその通りなんだが、ウワモノがフワフワしている一方、意外とビートはしっかりしている。そして、確かに断片的なサンプルの集まりなんだけど、J DillaがDonutsで見せたようなブツ切り感は少なく、トラックは流れるように次々と変化していき、そこにMIKEの低音ラップが乗っかることで、痛々しくも美しい音世界を堪能できる。
Medhane / Cold Water (2020)
この人もニューヨーク・ブルックリン。最近出てきた人だけど非常に多作で2019年11月に「Own Pace」、2020年2月に「Full Circle」、そして2020年5月にこの作品をリリースしてきた。曲目を見てみると、昨年のアルバムが素晴らしかったkeiyaA、またこのシーンの中心人物の一人Navy Blueも参加している。序盤はBPMが抑え気味でツンのめるようなリズムの曲が多く気怠い雰囲気を漂わせているが徐々にエンジンがかかってくる。M12、M13のビート感強めで叙情が滲み出ている二曲は個人的ハイライト。チルくてエモいピアノが印象的なM8もなかなか好き。今回のリストの中で一番好きかもしれない。
Earl Sweatshirt / I Don't Like Shit, I Don't Go Outside: An Album by Earl Sweatshirt (2015)
1st「Doris(2013)」と3rd「Some Rap Songs(2018)」のちょうど中間みたいな作品で、Odd Futuerからは離れ始めたのか、客演が豪華だった前作とは異なり、セルフプロデュースがほとんど。自身の中にある孤独や混沌を吐き出したようなダークさと分裂気味なトラックが凄まじい。この後さらにアブストラクトヒップホップを深化させていくわけだが、この作品があって、傑作3rdに繋がっていくことはよく分かりました。
Standing On The Corner / Standing On The Corner (2017)
NYブルックリンのジャズ・ヒップホップバンドのデビュー作。Post Genre Crewなんて呼ばれるくらいジャンル分けに悩む折衷的でアブストラクトな音で、中毒性が高い。このアルバムはヒップホップではないけども、Solange「When I Get Home(2019)」やEarl Sweatshirt「Some Rap Songs(2018)」にも参加していたり、Slauson Maloneが元メンバーだったり、上述したMIKEのアルバムにもガッツリ関わっていたり、SOTCがこの辺りのシーンの中核を担っているといっても過言ではない。どの曲も輪郭がフワフワしていて、DeerhunterとかKing Kruleなんかを思い出した。
Dos Monos / Dos Siki (2020)
ちょっとSOTCやEarl周辺から離れて、米レーベルDeathbomb Arcと契約した日本人ヒップホップトリオとして注目を浴びたDos Monosによる2020年リリースのEP。エクスペリメンタルヒップホップと言えば彼らの存在は外せない。即興ジャズ的だけど抑えるべきところは抑えているリズミカルでアヴァンギャルドなトラックが何よりも魅力的。前作「Dos City」はループするビートを軸に楽曲が構成されていたように思うけど、Dos Sikiはその構造からも脱却してしまっている。正直展開のスピードがエゲツないので未だに全容を把握できていない。プログレや電子音楽的な雰囲気も醸し出していて何が何やらという感じなんだけど、なんとも言えぬカッコ良さ。荘子it、Tai Tan、没の3人の独特のフローが織りなすマイクリレーも最高。ちなみにDeathbomb Arcといえば、JPEGMAFIAやclipping.の作品をリリースしていることで有名です。
Death Grips / The Money Store (2012)
エクスペリメンタルヒップホップバンド、デスグリパイセンのアルバムは本当にぶっ飛んでる。昔、彼らのアルバムを聴いた時は全然ピンとこなかったんだが、自分の経験値が増えリスナーレベルがアップ?したからか、最近改めて聴いたらぶっ飛ばされた。あまりにアヴァンギャルドで暴力的。でも結構フックがあってキャッチーなのが人気の秘訣だろう。曲によってはヒップホップなのかもわからなくなるくらいだ。なお、ジャケットが相当に悪趣味だが、これは同性愛差別や女性蔑視への抗議なんだとか。正直しばらく存在を忘れてたけど、間違いなく10年代において重要なヒップホップグループだと思う。
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