最近のお気に入り:2021年リリース②
主に2月〜3月上旬くらいのリリースたちですね。以下にメモっときます。
Nick Cave & Warren Ellis / CARNAGE (2021)
突然リリースされてから、いきなり賞賛の声で溢れかえっていたニック・ケイブ大先生の最新作だが、その気持ちはわかる。重厚感と祝祭感に溢れ、天に昇るような気持ちにさせられる一枚。オーケストラをふんだんに活用しているあたりがインディーミュージシャンにできない、重鎮が振るうことができる武器の一つで、ストリングスの響きが厳かな雰囲気を作るのに貢献してる。3曲目までは不穏なバイブスが先行するが、4曲目の途中から一転、突然のポジティブなバイブスに切り替わり、以降は慈悲深いニック・ケイブ大先生の歌声に「ああああああ‥」ってなる。聴いてると自分も背筋を正される気分になるというか、最近トータルでは昔のヒップホップばかり聴いてるんだけどたまにはこういうのも聴かないとね。
Cultures of Soul / Saturday Night - South African Disco Pop Hits - 1981 to 1987 (2021)
アメリカ、ボストンのレーベルCultures of Soulが80年代の南アフリカのディスコミュージックに焦点を当てたコンピレーション。アメリカだとニューヨークとかでディスコ派生のダンスミュージックが隆起していった時代だと思うけど、南アフリカだって負けてない。なんとなく80sジャパニーズシティポップと並べてもしっくりきそうな、目眩くバブルガムポップ、ディスコポップな全10曲。踊れ!!!
Cassandra Jenkins / An Overview on Phenomenal Nature (2021)
女性シンガーソングライターの作品は本当にここ数年豊作が続く。ニューヨークはブルックリンベースのCassandra Jenkinsの2ndには、サックスの素晴らしいアクセント、アコースティックの豊かな響き、ニューエイジっぽい柔らかなサウンドスケープに彩られた珠玉のタイトルがずらりと並んでいる。Cassandra Jenkinsの歌声は囁きに近いが、それでもエモーショナルに聴こえるのは何故だろう。彼女自身は元々音楽家一家に生まれながらも、エディターとしてのキャリアを経てからミュージシャンとして活動しているようで、既に30代後半と遅咲きの印象を受けるが、その分音楽に深みがあるように感じる。本当に繊細で幽玄なアンビエントフォークアルバムだ。プロデューサーのJosh Kauffmanは、テイラーの「Folklore(2020)」にも参加しているMulti Instrumentalistで、旬な存在。個人的にはThe War on Drugs「A Deeper Understanding(2017)」に参加していたと知り、膝を打ったね。
Galcher Lustwerk / Information (Redacted) (2021)
ニューヨークアンダーグラウンドダンスシーンで活躍するGalcher LustwerkのGhostly Internationalレーベルからのリリースは、2019年のアルバムのインストバージョン。まあ、その元のアルバムを聴いてないんですが、これは良い。控えめでドリーミーなハウス・テクノを主体に構成される珠玉の75分。全編通じて陶酔感のあるシンセベールが印象的である一方、ローはダビーだったりハード目なテクノだったりブレイクビーツっぽかったりするし、最後の方にはドローン/アンビエントな曲もあり、実は結構多彩。
slowthai / TYRON (2021)
今をときめくUKラッパーのslowtaiのニューアルバムが結構良いです。7曲ずつ、ディスク1とディスク2に分かれているけど、トータル35分というコンパクトさ。トラップとグライムを通過したサウンドはかなりノレるし、フロウも気持ちがいい。アグレッシブなディスク1はSkeptaとの「CANCELLED」が、内情的なディスク2なら保険制度と格差についてラップしてる「nhs」がお気に入り。「feel away」のJames Blakeの存在感もさすがだった。
Cloud Nothings / The Shadow I Remember (2021)
これぞクラウドナッシングス!アルビニとのタッグは「Attack on Memory(2012)」以来。原点回帰のように疾走感にあふれた一枚だ。「Here and Nowhere Else(2014)」や「Life Without Sound(2017)」も大好きだが、今作はそれらと並びます。聴く前は「Wasted Days」みたいな長尺曲を期待してる自分もいたが、3分前後のロックンロールを矢継ぎ早に畳み掛けられたら、最近ロックをメインでは聴かなくなった自分でも昂る気持ちがグングンと湧き上がるのを感じる。結局、彼らの最大の長所はディラン・バルディのメロディセンスと、荒削りなオルタナギターサウンドにあるわけで、その二つが揃ったら最強ということを改めて大勢に知らしめるのであった。
Pino Palladino & Blake Mills / Notes With Attachments (2021)
先行曲がリリースされた時点で話題になっていたレジェンドベーシストであるPino Palladinoと昨年大活躍だったBlake Millsのアルバムは、なんか音作りのレベルが違うなーと素人ながら思う。じっくり堪能したいアルバム。ただ、正直高尚すぎて何を書いたらいいのか分からないのでBlake Mills大好きマンこと岡田拓郎の緻密な評文を貼っておく。
pool$ide / Hydrate (2021)
水の音に昔から弱い。最初にそのことを認識したのはたぶんFlying Lotusの「Los Angeles(2008)」 だと思う。たぶん。
pool$ideは神戸のトラックメーカーで、プロジェクトのコンセプトとしてがっつり「水」を掲げているらしい。このHydrate=水和物もコンセプト通り、至る所に水が溶け込んだエレクトロニックアルバムで、もうヒタヒタに浸れる。この「水」って文字通り「water」の方で、海とか川とかの自然の水というよりは水道や風呂の水のような身近にある水の音を連想したな。そもそも人間の60〜70%も水でできてるし。いや、素晴らしきビート、エレクトロニックミュージック。
TOMC / Liberty (2021)
このアルバムもそういう意味では水、というか生活音が本当に自然に溶けたエレクトロニックで気に入っている。ジャズやローファイビートミュージックにアンビエント要素が絡み、またピアノ、バイオリンといったクラシック成分も注入されていて、チルいんだけどただチルいだけじゃない、なんか心に引っかかる音楽だななんて思いながら結構リピートしてます。
宇多田ヒカル / One Last Kiss (2021)
プレミア公開で庵野監督による本曲のMVを見た瞬間ぶっ飛ばされましたね。そして、音源を聴いて二度ぶっ飛ばされるという。
いきなり「初めてのルーブルはなんてことはなかった」と始まる歌詞が強烈な印象を与えますよね。リリース直後はみんなルーブルの話をしていた。この曲も簡単に言ってしまえば別れを嘆くラブソングだと思うんだけど、多分シチュエーションとしては不倫を例としたかなり複雑な状況での愛について歌ってるように思うんですよね。そして、そこで歌われる愛は言葉尻だけ追っていたらわからない、一種の怨念のような重みをもった愛だ。聴いているとヒリヒリするし、なんかグサッと刺さる。
「One Last Kiss」にはSOPHEIやCharli XCXで有名なPC Musicの設立者でプロデューサーであるA.G.Cookが参加していることで話題になったけど、A.G.Cookらしさは良い意味で控えめになっているなという印象だ。あくまでミニマルなトラックをベースに、後半にかけて徐々にハイパーポップ風味が増してくるという、素晴らしいトラックだと思う。
そして、二曲目のBeautiful World (Da Capo Version)がこれまた素晴らしい。One Last Kissからシームレスに突入するアンビエントな入りがまず最高で、その後もオリジナルとは異なり抑制された展開から徐々に音数が増え解放されていくという、なんともカタルシスを感じる内容になっている。すごい・・。後半のリズムセクションの音色や組み方がどことなくJamie xxを彷彿とさせるあたりも好みすぎる。
今思えば10代の時から宇多田ヒカルの感性は半端なかったわけですが、その頃の歌はまだ無邪気だった。一方で、長期休暇を経て復帰した「Fantôme(2016)」以降の宇多田ヒカルは明らかに変わったと思う。活動休止中に母との離別、結婚、出産、離婚等、表出している情報だけでも、そりゃ大人になるよな・・と思うような経験を積み、良い意味で人間的な深みを増したんじゃないかな。そして、それがダイレクトに楽曲に反映されているように感じる。また、自分が歳取ったこともよく聴こえる要因の一つのようにも思う。まあ30年以上生きてれば多少は色々とあり、宇多田ヒカルの最近の楽曲を聴いてるとそんな過去の思い出がサーッと頭に流れてくるのよね。なんか色々と沁みるのよ。新しくリリースされる?アルバムが待ち遠しい。
ちょうどこの前IMAXでシン・エヴァンゲリオンを観たらさらにこれらの曲がさらに好きになった。もう宇多田の曲だけで十分価値があるので、これから映画を観る人はIMAX一択です。
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