最近のお気に入り:2021年リリース③
3月〜4月リリースの作品で割とリピートしてるアルバムたちの感想だよ。
Lana Del Rey / Chemtrails Over The Country Club (2021)
今年に入ってからやっとラナ様の前作をちゃんと聴いてその良さにやられていたのでとても楽しみにしていたニューリリース。今作は音数が少ないフォークアルバムで前作と比較するとまぁぶっちゃけ地味ではある。でもその分、さらに深化が進んだラナ様の剥き出しの歌声を堪能できるので、個人的にはアリ寄りのアリです。M1「White Dress」の甘美で強烈なラナ様の歌唱にまずやられ、M2タイトル曲のノスタルジックな雰囲気に酔いしれていると思いきやChemtrails(陰謀論のこと)という単語を使ってることでわかるようにそんな自分(またはアメリカ)を冷めた目で見る二面性にまたやられる。いやーこれだけでもすごいね。しかも7月にはまたニューリリースでしょ?恐れ入りますね。
ミツメ/ VI (2021)
ミツメの6枚目のアルバム。なので「VI」。コロナ禍での制作ということでリモートでデモ作りをしながら一曲一曲を磨き上げたとのこと。全体的にこれまでと同様、肩肘張らない自然体な感触は残しつつも、より力強さを感じる内容だなと思った。まず、ギターが印象的で、一本はエヴァーグリーンな音色を、もう一本は少しノイジーで奇妙な音色を奏でながら、それぞれが有機的に絡み合うのがたまらない。また、ボトムとなるベースとドラムがこれまで以上にタイトになっていて、その辺が全体的に力強く感じた理由かなと。そして、前作「Ghost(2019)」では結構シンセが多用されていたのが、今回は原点回帰なのか、バンドサウンドに立ち返っているところがまた良い。元々ミニマルで宅録的なバンドだったところから徐々に肉体性を獲得しつつも色々と実験して、そして今作で非常にバランスの良いところに落ち着いた・・・個人的にはそんな感じで捉えていて、かなり好感を持っています。
serpentwithfeet / DEACON (2021)
sepentwithfeetの二作目は前作以上に生きとし生けるもの全ての愛を尊重するような聖なる雰囲気を漂わせている。1stの時もそうだったけど、この人のR&Bはゴスペル要素が強いのが特徴で、それが神聖な印象に繋がっている。一方で、人間が本質的に持つ官能性も十分に現れているところがこの人のボーカリゼーションの凄いところだなと思う。最後のM11「Fellowship」はアルバムの中でも最もリズムが強調された非常に開放感ある一曲で相当なキラーチューン。
Floating Points, Pharoah Sanders & The London Symphony Orchestra / Promises (2021)
近年のエレクトロニックミュージック界でもホットな存在であるFloating Pointsと、齢80歳のスピリチュアルジャズの大御所Pharoah Sandersが手を組んでアルバムを出すと聴いた時は胸が躍ると同時に、エネルギー溢れる内容をイメージしたんだけど全然違った。Floating Pointsによる繊細な電子音、Pharoah Sandersによる思慮深いサックス、ロンドン交響楽団による美しくも儚い、優雅なオーケストラ・・・・うーん相当にヤバイ。各曲はシームレスに繋がり、アルバムトータルとして聴くと非常に起伏に富んだ内容となっていて、特にM6あたりのオーケストラの盛り上がりはマジで凄い。また、M7の繊細な宇宙のような電子音と少しだけ荒ぶるサックスの絡み合いも信じられないくらい良い。いや、ぶっ飛ばされました。
Armand Hammer & The Alchemist / Haram (2021)
アブストラクトヒップホップを最近よく聴いてると別の記事でまとめたんだけど、そこでも言及したElucidとBilly Woodsによるデュオ、Armand Hammerが昨年に続き今年もアルバムをリリース。しかもプロデュースがThe Alchemist!この人の仕事量も半端ない。
まず、目につくのはジャケのグロさですね。気軽にSNSにあげられないんですけど‥術後の検体か何かですか?
肝心の内容はというと、不穏な雰囲気と張り詰める緊張感が、まさにArmand Hammer。東海岸アンダーグラウンドヒップホップを引っ張る彼らの貫禄を十分に感じることができる。また、The Alchemistが今作でも良い働きをしていて、派手さはなくとも、ジャズとソウルへの敬意、サイケデリックでスモーキーな音像、要所を締める上質なベースラインとキック‥などなど、一流プロデューサーとしての手腕を遺憾なく発揮している。いや、総じて素晴らしいですね。ちなみにアルバムタイトルのHaramはアラビア語で「禁じられたもの」の意味らしい。
BROCKHAMPTON / ROADRUNNER: NEW LIGHT, NEW MACHINE (2021)
Kevin Abstractを中心とするBROCKHAMPTONの6枚目。彼らはヒップホップグループなんだけど、もはやヒップホップの枠にとどまらないグループになったなと思う。最初の印象としては「良くも悪くもポップだな〜」てなところで、先行曲であるDanny BrownとのM1「BUZZCUT」を聴いてバキバキ、キレキレのヒップホップアルバムを期待してたから、特に後半のポップソングに肩透かしを食らった部分は否めなかったんだけど、いやいや、リピートしてると後半もなかなか好きになってきた。そもそも、MVも全部自分たちで撮るしプロモーションも自分たちでやるし、ワンダイレクション以来のボーイバンドと自称しているくらいだし、そりゃヒップホップ的な枠組みで彼らを捉えようなんておこがましいな、そりゃ行き着く先は「ポップ」であることだよななんて思うようになったら、全部の曲がスッと入るようになった。最後のM13もカニエばりになかなかにエモいし、M11「Don't Shoot Up The Party」の乱痴気騒ぎなんてコロナ禍の僕たちの歌だよ。
Lost Girls / Menneskekollektivet (2021)
In the beginning, there is no word, and no 'I'
In the beginning, there is sound
In the beginning, we create with our mouths
(中略)
Sound is more familiar than subjects, and time, and time
We are, and sound hugs our bodies
「最初は言葉もなく、私もない、ただ音がある」の歌詞で始まるのが非常に印象的で、そんなことを言われるとただただこの異常に快楽性の高い音楽に身も心も捧げたくなる。そもそもこのノルウェーからの決定的な一枚はミニマルで禁欲的なテクノのリズム、妖艶でアンビエントなサウンドスケープ、徐々にアゲていく展開、とまさに自分好みのサウンドで、Jenny Hvalのストーリーテリングや、か細く美しい歌声とも最高にマッチしている。ノルウェーをはじめとする北欧って北欧神話で有名ですが、大体神様っていうのは自然のメタファーで人類では太刀打ちできない大いなる力を表現しているものじゃないですか。そして、神様はいつだって、多幸感に溢れるポジティブな一面と、天災のように命の危機に関わるネガティブな一面を内包するじゃないですか。なので、個人的に北欧の音楽には、そんなポジティブなバイブスとネガティブなバイブスを感じるんですね。このアルバムもまさにそんな一枚で、快楽性は高いと言ったけど決して享楽的な音楽ではなく、その相反する性質に余計にグッとくるんですよね。これは個人的に特に評価高い。ちなみに、Menneskekollektivetはノルウェー語で「人間の集合体」を意味するらしい。なんかエヴァの人類補完計画を思い出してしまった。
Leon Vynehall / Rare, Forever (2021)
前作「Nothing Is Still」が飛び抜けた傑作だったLeon Vynehallの新作です。正直4月のリリースで一番楽しみにしてた。Leon VynehallはUKの電子音楽家でFour TetやFloating Pointsらと比較されるようなアーティストで、元々はディープハウス界隈で2014年にデビューアルバムをリリースして注目され、2018年リリースの3rd「Nothing Is Still」ではジャズ、ノイズ、ドローンを中心とした禍々しい音楽を奏でることで、各媒体からも大絶賛された。自分もその迫力に完全にやられてしまい、以来彼の作品は絶対に逃すまいと目を光らせていたところである。
今作は前作の経験を活かしつつ、ビート回帰な趣向が見られ、全体的に外向きな雰囲気になっている。もちろんブツブツしたノイズや不穏なジャズ的なトラックはあり、初期のディープハウスと前作の実験的な内容を実にうまく融合していると言えると思う。暴力的なノイズと攻撃的なビート、静謐なアンビエントな音像のバランスが抜群で、やはり抗えない魅力で溢れてる。また、最後のドローン/アンビエントな二曲がやっぱり良いね。いや、首を長くして待ってた甲斐がありました。
Silent Killa Joint & dhrma / DAWN (2021)
Silent Killa Joint(SKJ)は淡路島出身の関西を中心に活動するラッパーでdhrmaは加古川出身のビートメイカー。まず自分が気に入ったのはジャジーでスモーキーなトラック。J Dilla、Madlibを代表とするLAビートミュージックや、デトロイトテクノ(M5とかMoodymannサンプルしてるね)に影響されたそのハイセンスなビートの数々はもう「誰得ですか?俺得です!」の領域。超絶気持ちいい。
そしてSKJのラップは初期のS.L.A.C.K.をどことなく思い起こさせるような切れ味の鋭さを感じた。これはラップに限らない話だが、日本語ってちょっと間違えるとのっぺり聞こえちゃうじゃないですか?そんな野暮ったさがSKJのラップからは感じない。なのに日本語でのラップを大事にしている‥そんなところがかなり好きです。
そんな両者の良さが完璧に調和しているのがこの「DAWN」で、いやぁ素晴らしいタッグによる素晴らしいアルバムですよこれは。
5lack / Title (2021)
成熟&成熟&成熟。板橋の高田兄弟・弟によるニューリリースはなかなか圧巻の内容である。兄であるPUNPEEが持ち前のポップさ、キャッチーさに磨きをかけていく一方、弟は己のヒップホップ道をただひたすら突き詰めていくみたいな。全体的にBPMを落とした落ち着いたトラックだけど、5lackの声がとてつもない説得力を持って響くので、もうヤバいしか言葉が出てこないぞ。例えば、M1は彼のマイクを握る想いがビンビン伝わる最高のオープニングトラック。一転、M2ではカニエを思わせるゴスペル調のトラックでガッツリ歌うという、表現の幅の広さを見せつける。客演として出てくるM4のIssugi、M10の兄貴、M13のkzmもそれぞれの個性が出てて良き。
以上、2021年リリースアルバムの感想第3弾でした。5月もなかなか良きニューリリースが多くて今年も本当に楽しいですね。ちなみにこれまでの記事も以下のマガジンにまとめました。これで年末、年間ベストのために頑張って振り返らなくてすみます(たぶんね)。
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