父と縄跳び。
父のふざけている姿を私は見たことがない。
普段は物静かで必要なこと以外はあまり話さないけど、無口なわけでもなく穏やかにそこにいる。
頭が良くて、物知りで、なんでも直せて、一緒にどんなスポーツも付き合ってくれたし、はたまた家事もなんでも出来る。
優しい人だけど、面白い発言をしたり面白いことを自らして笑わせようとするような人ではない
父が自らバラエティ番組を見ている姿も見たことがない。
それが家族の前での姿であったのか、友人の前ではどうであるか、若い頃はどうであったかはわからない。
だが私にとって父はずっとそんなイメージだった。
ただ数えられる程だけ、父の姿を見て爆笑したことがある。
小学6年生の時、友人と近所を散歩していたら、家の前に父がいた。
何をしているのかと目を凝らして見ると、ぴょんぴょんと何度も繰り返し跳んでいた。
父は縄跳びをしていたのだ。
だが、何かがおかしい。
体を小さく折り曲げて丸まりながら、とても高く飛び跳ねている。
さらによくよく見ると、縄が地面に当たっている様子もない。
友人と父のその姿を見ていた私は、意味を理解し唖然とした。
父は私が小学校低学年の時に使っていた縄跳びを、そのまま使っていたのである。
父の身長には明らかに足りていないであろう長さの縄跳びで、彼は必死に跳んでいたのだ。
173cmの父と130cm前後の身長だった私が使っていた縄跳びは、明らかにミスマッチだ。
それに気付いた私は笑いを止めることが出来なかった。
さらに友人にそんな父の姿を見られたという小っ恥ずかしさもあって、その場をすぐに後にした。
おそらくそんな滑稽な姿であると知らずに、真剣に縄跳びに挑んでいた父が、なぜ長い方の縄跳びもあったはずなのに短い方を選んだのかは、
いまだに謎である。