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140字では語りつくせぬ映画愛 『チャーチル』と『ダンケルク』

『ウィンストン・チャーチル』観ましたか?沖津はどうしてもこの映画が観たくて半年の海外旅行の予定を延期しようか本気で悩んだほどで、結局日本では観なかったんですが、運よく行きの飛行機の中で観れました。結果的に日本公開より早く観ることごできてラッキーでした。


 原題は『Darkest Hour』(最も暗い時代)なんですが、あんまり当時の切迫した状況を感じませんでした。チャーチルが首相になり、国を団結させて「政治的」にドイツに対抗する様を思ったよりポップにテンポよく描いていた印象です。伝記映画というのは往々にして淡々と、テンポ重視で重くしすぎず話が進んでいく傾向にあると思います。なので普段であれば大してその辺に気にも留めず「普通に面白い映画でした。」というところなのですが、この作品はワケが違いました。『ダンケルク』が昨年公開されていたためです。


 『ダンケルク』と『Darkest Hour』はどちらも第二次世界大戦下のイギリスを描いています。『ダンケルク』は戦争の最前線、『Darkest Hour』は国家の中枢 が舞台になっています。『Darkest Hour』にもチャーチルがダンケルクに民間船を向かわせる作戦を発令する場面が登場します。まさしくその時ダンケルクでは『ダンケルク』で描かれた戦いが行われていたということになります。同時期の同国(ダンケルク自体はフランスだけど)を描いた二作品は極めて対照的な映画でした。『ダンケルク』では戦地しか映らず、政治家もイギリス本土も出てきません。反対に『Darkest Hour』では数秒しか戦地の様子は描かれず、常に政治がメインです。『ダンケルク』が徹底的に緊張感のある演出に覆われているのに対し、『Darkest Hour』は先述の通りポップさが目立ちます。極端に台詞の少ない『ダンケルク』、かたや言葉を武器とする政治家が主人公の『Darkest Hour』。ラストの見せ場はチャーチルの演説ですからまさしく言葉で戦ったと言えます。


 『ダンケルク』は「映画全体」というくくりで観ても珍しいほどに台詞が少ないです。主人公はほとんど声を発しません。そもそも群像劇という形を取ることであまり主人公の存在を意識させないんですね。いくつかの視点で刻一刻と変化する戦況を描き、すべてを把握している登場人物はいません。主人公に全く英雄的行動を取らせず、当時の「平均的な兵士」を象徴させることで彼の行動を通して「ダンケルクの戦い」の全体像を観客に示します。面白いのは「平均的な兵士」の目線で非常にミクロな状況を描いて戦地のリアルを感じさせる一方で、「皆が大体こうだった」という構図で以て「ダンケルクの戦い」を歴史の教科書の文章のごとく脚色なく観客に「理解させる」ことに成功していることです。他の登場人物についても大体同じことが言えます。ミクロな個人を描きつつ、その個人に「ダンケルクにいた全員」を背負わせる。リアルな緊張感を出しつつ、箇条書きにしているかの様なドライさで「ダンケルクで何が起きたか」を描いていく。面白さや内容についての賛否はさておき、この演出は鬼才クリストファー・ノーランの才能がいかんなく発揮されたものだと感じました。この淡白さは、実話を映画にする過程で発生する嘘や脚色を馴染ませ、全体をリアルという幕で覆うことに一役買っています。
『Darkest Hour』は圧倒的に特徴的な一人の人物の人となりを描写している(まさに前述の『ダンケルク』の演出とは真逆)ので、その点もより差異を感じました。伝記映画なので当たり前ですが。


 短い期間の中で、同じ時期の同じ国を描き、ここまで真逆に創られた映画が連続で公開されたことは観客にとって非常に興味深い現象でした。どうしたって『Darkest Hour』を観ている間『ダンケルク』に思いを馳せざるを得ず、政治家が自分達の面子のために争っているなかダンケルクでは数万の兵士が助けを待っている、といったことを意識せざるを得ませんでした。
 「安全圏にいる本土の人々」と「戦場の現実」を意識させようと、狙って『Darkest Hour』をあの雰囲気で創ったとは思いませんし、別に観ている我々も「所詮政治家には戦地のことなんざわかりゃしねえんだ。いつの時代だってな!」などと義憤じみた感情を抱くようなこともありません。ただ、この2つの映画の対照性に当時の現実を感じたのです。本土に生きる人々が戦地と全く同等の恐怖と緊張を感じることができるはずもなく、戦地にいる兵士が政治家の目線で語らい合うことができるはずもありません。ここに特に良い悪いはなく、当たり前のことです。それが現代の映画にきちんと表出したことが映画マニアにとって面白い現象でした。



今さっき『ボーダーライン ソルジャーズデイ』を観賞してきました。いやぁ〜よかった!次回は『ボーダーライン』のお話で決まりです。

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