140字では語りつくせぬ映画愛 『ヴェノム』下半期ワースト
正直に言って、冒頭3分の時点で「あ、これはヤバいかもしれない」と思いました。
宇宙空間で未知の物質(ないしは生物)を採集した宇宙船がその物質のせいで墜落したり乗組員が全滅するアヴァンタイトル、というのはこれはもうここ10年で3桁は観たんじゃないかという始まり方なわけですが、見事にそれを何のひねりも加えず、何の特徴も見せずやってしまったのです。
いやいいんです、使い古されたやり方やベタな展開というのは。むしろ好きなんです。サスペンス映画の冒頭が「雨の事件現場」ってだけで興奮できるタイプです。
『ヴェノム』冒頭の問題点は全く観客を「これからどうなるんや」とドキドキさせてないことです。船内の描写があるわけでもなく、じゃあ「この船の中で一体何が起きてるんだ?」という疑問を投げ掛けているかというとさほど緊迫した演出ができてるわけでもない。異様に平坦に「情報」だけが脳に入ってくるような感じでした。
この映画全編通してこんな感じなんですよね。「この場面で観客のこういう感情を喚起してこう盛り上げたい」、けどそれがあまりに一方的でガンガン作り手と受け手の温度差ができてくというか。
たぶん展開が雑だったんだと思います。
主人公に寄生したヴェノムが急に正義に目覚める理由も全く見えて来ないし、物語の最終局面で訪れる地球の危機も展開や登場人物の行動で客に分からせるのではなくいきなりヴェノムが説明しだしたりして……
なんか作ってるやつらに「主役が悪だとダメだからここからいい奴になります!」「この映画の後半は地球の危機を救うことにします!」と直接宣言されてるような不快感が映画全編を覆っていました。
そのくせ前半は妙にダラダラと粘っこく話が展開して……完全に時間配分ミスってるんですよね。どう考えてもあと30分は早くヴェノムが主人公に寄生して暴れ回れたと思うんです。そうすればもっと丁寧に主人公とヴェノムの絆も描けただろうし、観客を退屈させなかったと思うんですけど。
たしかに今でも面白いとされてる作品って結構焦らしたりするんですよね。『ジュラシックパーク』しかり『ジョーズ』しかり『エイリアン』しかり。本格的にトラブルに突入するまで、説明パートにしっかり時間取るんです。だけどあくまでその過程に意味があったり後から効いてきたり、何より「物語として面白い」状態を維持してるんですよ。『ヴェノム』は形式ばかりそれにとらわれて「前半退屈、後半急展開すぎ」という最悪の帰着を見ちゃってましたね。
じゃあバトルはどうかっていうとラストバトルは微妙なんですが(それも致命的かもしれないけど)中盤主人公が人間状態のまま腕に佃煮を纏わせて戦うところはよかったですね。
↑佃煮に寄生された人
佃煮を可動性の高いアームとして敵をバッタバッタと倒していくんだけど、結構カッコよかったです。たぶんこのヒーローは1対多数で「蹴散らす」戦いかたが向いてると思います。故にラストバトルは佃煮を全く活かすことなくこれまた異様に退屈な出来になってました。
ま、そんな感じで一緒に観た3人で「わざわざ公開初日に観にくるもんじゃなかった」なんてあーだこーだいいながら劇場から出てきたら『ヴェノム』のポスターのキャッチコピーが「最悪」って文言で、もう心から「いや最悪ってそういう意味かい」と思いましたって話でした。
↑いやその通りだよ