日向坂に負けた日

アイドル、とりわけ女性アイドルには全くと言っていいほど興味がないので、日向坂46のメンバーにスターウォーズ好きがいるなどということも露ほども知らなかった。

2019年12月24日のことだ。テレビで「スターウォーズマニア」を特集する番組がやっていた。そんなもん俺のところに来い。ウチには実物大のC-3POとR2-D2がいるんだぞ。その上わざわざチュニジアくんだりまで行ってんだ。などという他ファンに対する醜い嫉妬は欠片も感じていない。が。感じていないが、だ。
ゲストとしてスタジオに日向坂46にしてスターウォーズファンでもあるという加藤史帆さんと佐々木久美さんがいらしていることに若干ピクリとした。してしまった。
しかもだ。なんとお二人はスターウォーズの主役であるレイ役デイジー・リドリーに直接インタビューをしてきたのだそうだ。ピクッピクッ。
俺は元より日本のタレントがハリウッドスターにインタビューしてワケわからん番組特製グッズをプレゼントしたり、国内だからウケてるギャグをやったりする流れが大嫌いなのだ。ハリウッドスターに独占インタビューしていいのはLiLiCoだけだ。

「I have a bad feeling about this...嫌な予感がする……」奇しくもスターウォーズの名台詞が口をついて出ていた。偏見は極力排していきたい気持ちはあるのだが……アイドル、アイドルという人達はどうにも……彼女たちは「プロのアイドル」である。つまり「アイドルでいることのプロ」なのだ。どんな大物が目の前に居てもカメラの前では「アイドル」でいることを貫ける。アイドルとしての振る舞いを、貫ける。それが心配なのだ。今日本社会が女性アイドルに求めるのはもっぱら明るくてちょっとお馬鹿なお転婆みたいなところだろう。フォースの暗黒面が自分の心を支配していくのがわかる。
そんな典型的なアイドルのテンションでデイジー・リドリーに絡まれたら俺もジェダイを全滅させかねない。

さてインタビュー映像が流れ出した。
うん……うん……

…………二人ともすごく緊張しているのが分かる。興奮した子どもの瞳をしている。本当に好きなんだ。スターウォーズが。新作の意気込みや見所、レイ役に決まった時の心境など質問も基本に忠実だ。

そして衝撃の瞬間が訪れた。

最後の質問なのですが、と加藤史帆さんが切り出しこう聞いたのだ。
「デイジーさんはどういう時にフォースを感じますか?」
真剣な眼差しで、そう聞いた。

ハッとなった。フォースライトニングが体に直撃した。それは本物の人の質問だった。「フォース」がただの「力」ではないことを理解していないと出てこない質問ー。フォースはただ物を動かしたり人を操る「特殊能力」ではない。万物に満ち、流れ、全ての人間に宿る「運命」そのものである。だからこう聞いた。「フォースが"使えたら"どうするか」ではなくー。

目から鱗だった。俺に聞けるか?それが。デイジー・リドリーを前にして。出てこないだろうな。役作りとか撮影秘話とかそんなことばかりに気を取られてしまうだろう俺は。ニッチをつく質問は出来ても、スターウォーズにおいて一番重要なその問いは出てこないのだろう。

デイジー・リドリーはこう答えた。
「キャストやスタッフ、世界中のファン、まさしく今の私達みたいに誰かと接する時、繋がっている時フォースに導かれていると感じるよ。」
いや100点。受け答えも。

感動した。マジで。
彼女たちはアイドルである前に1人のスターウォーズファンだった。プロ意識を忘れることなく、かつスターウォーズファンであることに徹していた。

二人はインタビューが終わって部屋を出た直後に大泣きし始めた。いやさらに感動ポイント加算。インタビュー中じゃなくて。ちゃんとやりきってから、ファンが聞きたいことを聞いてから。やっと、レイに会えたことに感動して泣き始めた。いや、いい映像これ。若干もらい泣きしているこの時点で。

かくして俺のクリスマスイブは終わった。
クリスマス当日を迎える直前、俺は謝っていた。
加藤史帆さん、佐々木久美さん、すいません。キャラ付けで「スターウォーズ好き」を自称してるんだろ、とか思って。下衆の勘繰りとはこのことでした。これからもスターウォーズを愛してください。
そしてマスターヨーダ。私はとんだ思い上がりをしておりました。チュニジアに行こうが、どれだけグッズを集めようがフォースは万物に、平等に宿っております。「好き」という気持ちに偽物も本物もございません。上も下もございません。反省しております。

では、全ての人類にフォースの加護と導きがありますように。

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