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誰よりも遅いけど、誰よりも速くて優しい足

生まれつき足に障がいを持った友人がいた。

小学生の頃から知っている。

そいつが体育をしたり、運動会にでることが俺は嫌だった。

周りにバカにするやつらがいたから。

バカにする意味が分からなった。

だから喧嘩もした。なぜかそいつが止めてくれていた。

そいつとはずっと仲が良かった。

学校が変わってからも連絡をとっていた。

俺が彼女に浮気された上に、振られた日、泣きながらそいつに電話した。

しばらくして、そいつが家に来た。

そして言う。

「お前はかっこいいからもっと素敵な彼女ができるよ。大丈夫だよ。俺を見てみろ。彼女なんてできたことがないぞ。」

そいつは笑いながら言う。

楽しいときだけじゃなくて、辛い時も一緒にいてくれる。

俺が自分に自信を失って、路頭に迷っていたときも、すぐに駆けつけて一緒にいてくれた。

そいつと一緒に川沿いの歩道を歩くのが好きだった。

俺はいつも、そいつの歩くペースに合わせる。

ゆっくり、ゆっくり・・・左右に揺れながら・・・


ある日、そいつから連絡がきた。はじめて本気で好きな人ができたと。

俺は笑った。そいつも笑った。


ある日、そいつから連絡がきた。彼女ができたと。

俺は凄く喜んだ。そいつは照れていた。


ある日、そいつから連絡がきた。結婚するんだと。

よし、飲みに行こう。俺は誘った。


お祝いで飲みに行った日、友人代表スピーチを頼まれた。

そいつは言う。

「悪いね、スピーチお願いしちゃって。」

俺は笑った。そして、顔が少しこわばった。

それを見かねてそいつは言う。

「大丈夫だよ。小さい披露宴だから緊張しないと思うよ。ていうか俺、お前しか友だちいないし(^^)」

違う、そんなことじゃないよ。

親友の結婚式だから、きちんとしたスピーチがしたいんだよ。


挙式は身内のみだったから、俺は披露宴から参加した。

小さな会場だったけれど、全員が二人の幸せを願っているのが分かった。

温かい雰囲気だった。


そして友人代表スピーチ。

俺は前に出て、

そいつと新婦の前に立つ。


二人を見る。

二人も俺を見る。


二人があまりにも幸せそうで、それが凄く嬉しくて、目に涙が溢れてきた。

スピーチしようとするんだけど、そいつとの想い出が走馬灯のように甦る。


足が悪くて、うまく走れず、クラスのやんちゃなやつらからバカにされて、それでもあきらめないでゴールを目指していた姿。

ホントはみんなと一緒に遊びたいはずなのに、気を使って、本が好きだからと言って図書室にこもっていた姿。

そいつが時々、一人で悔し泣きをしていたこと。でも笑顔を作って、気にしてないふりをして、楽しそうに振る舞っていたこと。

一緒にいたらバカにされるよ、と言ってきたときにぶん殴ってしまったこと。

俺がつらいとき、くじけそうなとき、だれよりも遅いその足で、誰よりもはやく駆けつけてくれたこと。

小学生の時、二人でゆっくり最後尾を歩きながら動物園へ遠足に行ったこと。

「こんな俺にも彼女ができたよ」と凄く嬉しそうに話をしてくれた日のこと。


あんなに一生懸命スピーチの内容を考えてきたのに、あんなに一生懸命スピーチの練習をしてきたのに、涙があふれでて、何も言葉が出せない。そいつも泣いている。新婦は優しく、そいつの背中を撫でている。


人前なのに、漢二人で泣いてしまったな……


恥ずかしいな……


でも本当におめでとう……


初めて流した、頬を伝わる暖かい涙が俺とお前の絆の証。

コンプレックスだと言っていたその足は、誰よりもはやく、大切な人のもとに駆けつけることができる足だってことを、俺はよく知っている。

キラキラ輝く優しい時間が、これからもずっと、ずっと、この二人に続きますように。







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