言語探偵T 第10話
慣用問題 (前編)
英語を話したり書いたりしていると、ネイティブに「意味はわかるけど変」と指摘されることがある。
この「意味はわかるけど変」という感覚はどこからくるのだろうか?
1.違和感の謎
「結婚してください」を英語にする場合、複数の言い方が考えられる。
しかし、この中で自然な言い方は I want to marry you.のみである。
(『英語教師のための第二言語習得論入門』 白井恭弘 著より)
つまり、「文法的に正しくても不自然」な表現があるということである。
その理由の1つとして、「頻度」があげられる。
このように、「あまり使われない表現には違和感が出る」ようになる。
この点をさらに追及するために、「fill in/out 問題」を考えてみよう。
inとoutは反対の意味を表す。
このように、I’m in (私もやります/私も入れて)と I’m out (私はやめとく)は逆の意味になる。
しかし、fill in と fill outはともに「用紙に記入する」という意味を表す。
(『句動詞の底力』 クリストファ・バーナード 著より)
なぜ、反対の意味を表すinとoutを使っているのに同じ意味になるのだろうか?それは、「書き込む」という状況を異なったイメージで捉えているからである。
言い換えれば、inとoutのどちらを使ってもいいのである。
ただ、その地域で「たまたま」inが選ばれ、それが定着すると、outを使うことに「違和感」が出るようになる。
そして、その「違和感」は「定着したイメージ」とは違うイメージを用いることに対する「抵抗感」ともいえる。
この点に関して、面白いコメントが寄せられた。
ドルダン(仮名)先生は長く日本に住んでいるアメリカ人の方であるが、「自分のイメージではinだが、実際にアメリカでinが使われているかはわからない」といっている。
このドルダン先生のコメントからどういうことが考えられるだろうか?
コアイメージと「慣用(定着)」はどのような関係にあるのだろうか?