第5話 「ザ・~クナイ?」
岸辺露伴に「ザ・ラン」というエピソードがある。
このエピソードは、昨年末に実写版として放送された。
筋肉に憑りつかれた橋本陽馬という男の物語であるが、次のようなシーンがある。
ここで注目したいのが、「以前と違くないか?」とい露伴のセリフである。
そもそも「~くない」がつくのは「近い」のような形容詞である。
(例:「近い」→ 「近くない」)
一方、「違う」は動詞であるので、否定形は「~わない」になる。
(例:「違う」→ 「違わない」/「笑う」 → 「笑わない」)。
この「違う」はほかの動詞と違って形容詞のような使われ方をする。
たとえば、「ちげーよ」も形容詞的な使われ方である。
形容詞の「ちけーよ(近い)」の音変化をもとに、「ちげーよ」の音変化を考えてみよう。
このように、「ちげーよ(違う)」は「違いよ」という不自然な形からできた不自然な音変化ということがわかる。
実は、このような「品詞の混同」は英語にも見られる。
それは形容詞が副詞として使われる「形容詞の副詞化」である。
もちろん、hardのように形容詞と副詞が同じ形をもつ語もある。
hardly という副詞があるが、「ほとんど~ない」という否定の意味であり、副詞のhard とは意味がまったく異なってしまう。
今回問題にしているのは、lyがつく副詞形があるにもかかわらず、形容詞が使われる例である。
このように形容詞を副詞のように使うのは「無教養」とか「礼を欠く」と拒絶するネイティブも多いため、英語学習者が気楽に使える用法ではないといえるだろう。
では、なぜ副詞があるのに「あえて」形容詞を使うのだろうか?
その理由は「言いやすさ」や「響きのカッコよさ」にあるらしい。
なお、形容詞を名詞のように使ったキャッチコピーを考えたのは、あのスティーブ・ジョブズである。
ジョブズは「我々が言わんとしていることを考えれば,Think differentで文法的に問題はない」とまで言っている。
品詞に収まりきらない意味があるということか…
興味深いテーマであるが、現段階では説明することができない。
今後の課題としよう。