言語探偵T 第12話
慣用問題 (後編)
「phoneの前置詞問題」に対して、いくつかのコメントが寄せられた。
3.at night の謎
「電話で」を表す英語の前置詞に関しては、以下の3つのポイントから考察を進めてみよう。
1. on the phoneとover the phoneの両方が使える
→ 「電話で」という状況はonとoverの2つの前置詞で捉えられる。
「両方OK」という場合は、「電話で話す」という状況を「ざっくり」捉えているといえる。
2.over the phoneしか使えない場合がある
→ on the phoneとover the phoneではニュアンスが違う。
「電話で」という状況をより「詳細に」捉えた場合は、onとoverの「使い分け」が必要となる。
3.on the phoneが圧倒的に使われる
→ on the phoneが「慣用句化」している。
「電話で話す」という状況は日常的に「よくある状況」なので、onが定着した表現として多くの人に使われているといえる。(『ネイティブが使う英語・避ける英語』 佐久間治 著より)
以上のことから、「使い分けはあるが、日常的によくある状況では慣用句的なものを使ってざっくりという」といえる。
なぜなら、よく使うものは「自動的に」使える方が「便利」だからである。
この点をさらに考えるために、「at night 問題」を考えてみよう。
なぜ、night には at が使われるのか? (他の時間帯は in: in the {morning /afternoon /evening} )
まず、atは「点」と捉えられるものに使われる。
(『中学英語の前置詞を10時間で復習する本』 稲田一 著より)
つまり、night は「一時点」として捉えられていることになる。
しかし、「夜中」という期間を表す場合は in the night も使われる。
(『今までにない前置詞講義』 西村喜久・C. Barnard 著より)
つまり、「at も in も使われるが、at night が定着している」といえる。
そして、「夜に」という状況をざっくりいうなら at night が使われるが、夜中ということをより「明確」にする場合は in the night で使い分けることになる。
なお、nightが「点」として捉えられる理由として、歴史的(文化的)な背景があるという説明もある。(『英語のしくみと教え方』 白畑知彦・中川右也 著より)
ただ、実際に上のような歴史的な背景をすべてのネイティブが知っているとは考えにくい。むしろ、「at night が慣用句的によく使われる」から使っているだけと考えたほうが自然であろう。
この点に関して、面白い指摘がある。
日本の中高生も at night はよく使われるから問題なく使えるのである。
この場合も「in the morning のように in the night にならないの?」といったことを考えず、よく使われる at night をただ使っていると考えられる。
ネイティブは前置詞のコアイメージを感覚としてもっていて、微妙な使い分けもできる。でも、慣用的によく使われるものはコアイメージを意識しないで「自動的」に使っているといえそうだ。
結局のところ、「なぜその前置詞が使われているのか」という説明は「後付け」でしかないともいえる。
「点で捉えているから at が使われる」のではなく、「at が使われているということは点で捉えている」という後付けの説明になってしまうということである。
コアイメージから「予測」できるのは、基本的な例に限られるのだろうか?
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