[短篇抽象小説]半熟
1:化け物
ごぷ、ぼと、はたはた。
そこでようやくあいつの視線を感じた。
次に炭のような焦げ臭い匂いが鼻を突き刺して、次第に熱
か痛みかわからない剝き出しの肉をえぐるような感覚すら
してくる。
声を出してもじっとしても動いても苦しくて、ユラユラ歩
きながら終わりを探しているような。
あぁ。耳鳴りがやまない。
痛そう。何故かそんな風に俯瞰しているのは何故だろうか。
ろうな。だからわかってほしい痛みとわかれない他人が互
い違に争うことを自分は嗤える。
また、あいつは来た。客観的に僕を僕が見ていて不気味だ。
細く、しかしながら適度に角ばった男性とも女性とも取れる
5本の指。動きは可憐に僕の内蔵へぶちぶち入ってくる。
臓器に人差し指が刺さってぐちゅ、っと音が鳴った。
「う、」
ぐちゃ、ごぷ、ぽと。
びちゃ。
これじゃない、そういってそれは去った。形が人なだけ、そ
れだけの化け物だった。
また、それがやってくることが分かっているから傷口を抑え
ながら床にのたうち回り、それから天井を見つめた。
内臓を吐きそうになりながら多分ただしい所へ戻した。ぐちゃ
ぐちゃになった僕の内側はまだ血という全身を巡る液体を吐き
出しきれずにいる。
可哀想だ、いくら何でも残酷すぎるだろう。
ソレ、が?いいや紛れもなく僕が、だ。
僕が誰かを愛するとその誰かは化け物になってしまう。
2:弱い
愛は求めるのが先か、求められるのが先か。
信じるのが先か、疑うのが先か。
そういうのが粘着質を持って、呼吸を邪魔するように纏わりついてくる。
恋も愛もたわいなく汚くて気持ち悪くてやっぱり心地よい。
僕はどうしようもなくクソで最悪の生き物だ。
愛した人が化け物に、になってしまう。
化け物にしか
見えなくなってしまう。
ただ誰かに愛されてみたかった、そのありきたりな感情を何処に置いてきたのかを考えているけれど答えは案外この世界のどこにも無いのかもしれない。
神様が笑いながらそれは「きまぐれ」だよなんて言うような気もするんだけれど。どうだろう。
幸福量の安定と無償の愛の供給、それに不安にならない方がおかしいと思うよ。
例えば車の急ブレーキ音を聞くとその先に人がいたのかもしれないと背筋が凍る。どこかで鳴り叫ぶクラクションは自分に向けられたものかと弾かれたように振り向く。
そうやって不確定な理不尽とか不幸とかの気配をなぞるように生きている。恐れおののきながら今もこうして息をしている。
それでも弱さを盾にした人間は強すぎると思うから、もっと息を潜める。
幸せ自慢にも不幸自慢にも誰かは不満を叫んでいるのを毎日のように見ているよ。傷口に塩が熔けた熱湯を浴びせたように痛む感覚がする。本当に人の醜さは見ていられない。
人は弱すぎて強すぎるって話だけど。
君はどう思う?
どちらでもない、そう。
そうか。
人間って中途半端で、愚かだ。
でもそれがいいのかもしれない。
それを肯定しないとやってけないのかもしれない。
この宇宙自体曖昧で存在も丁か半かどちらかは分からなくて、二元論では無いとしたら納得出来る。
生卵としっかりと火を通した硬い卵、それらより半熟の卵が一番おいしいと思うしなぁ僕は。
それに意図して人は半熟を創る。
火加減は曖昧で不安定で、それで良くって。
…あ
どんな風に創ろうと思ったのか知らないけれど、
神様って、そうなのかもしれない。
3 そうしたら
次に好きになったのが君で、君は人間のままだった。
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