解題【ほぼ百字小説】31~40


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まだまだやります。


 といってもまだ30番代ですね。このころは、まだ短編一本分にもならないなあ、短編一本ぐらいの分量になればいいんだがなあ、とか思いながら書いてたと思います。単純計算して4編で400字詰め原稿用紙一枚、雑誌に載ってる短編は短くて30枚くらいからですから120篇、余白をとるとしても100篇か、まだまだだなあ、でもそれはちょっと無理かもなあ、とか。それがなぜ今まで続いてるのか。たぶん、このあたりから日記化というか、これを書くことが日常化していったんだと思います。では、小説を書く、という行為と日常との関係は、とか、まあそのへんのことも追々考えていきたいと思います。

【ほぼ百字小説】(31) ぱらりるらりぱらりと降り出しに鳴るのは物干しの半透明波型プラスチックの屋根。すぐに台所の換気扇の上に張り出した小さなトタンがとんたとんたたとんと続くのもいつもと同じだが、今朝の雨はその後が違っている。

 オノマトペもの、というか、リズムネタですね。「ぱらりるらりぱらり」とか「とんたとんたたとん」とか、こういう擬音を書くのは好きです。実際、よく使ってる。よく知らないんですが、これは小説ではあんまりやってはいけないことみたいになってるみたいです。なぜかよくわかりません。宮沢賢治とか、よくやってるし、文章でリズムを出すにはかなり有効な方法だと思うんですけどね。まあそんな作法みたいなのはどうでもいい。私の場合は、落語の影響、というかそれを使うのが当たり前で、なぜ当たり前かといえば、おもしろいからです。子供の頃から落語が好きで、落語の中にはおもしろい擬音がたくさん出てきます。「がらがっちゃどんがらがっちゃ、ぷっぷー」とか「べりばりぼりばり」とか。こういうのは、聞いたらすぐに真似してましたから、普通に身体の一部になってる感じです。だからこれもそんな感じで、聞こえるままに書きました。

 あ、これは本当のことです。だから、実話ものでもあるか。雨が降るとこんな音が聞こえる。まあ、この波型プラスチックのほうが、関空が水没して強風が吹いた日に吹き飛ばされてしまいましたが。それも【ほぼ百字小説】にしました。トタンは今も同じように鳴ってます。なかなかいい音です。

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【ほぼ百字小説】(32) 崖下に抜け穴があったのは夢で見た通り。なんと抜け穴なのに自転車で走れる、これで距離を稼げるぞ、とそんな場合ではないのに少し嬉しくなったのも夢の通り。ではこうなった理由も夢の通りか。そこが思い出せない。

 抜け穴ものですね。「真田の抜け穴」です。15番とペアになってます。

【ほぼ百字小説】(15) いざというときのために抜け穴を確認しに来たのだが、公園の隅にある入口には長い行列ができていて、順番はなかなか回ってきそうにない。前はこんなことなかったのにな。どうやら皆、そろそろだと思っているらしい。

 これですね。まあ夢の続きみたいなもんです。崖になってるのは、上町台地の下だから。あのあたりは大阪には珍しく高低差があって、風景がおもしろくて好きなんです。上方落語の舞台としてもよく出てくるし。四天王寺とか一心寺とか安居神社、下寺町。他にもいろいろ出てきます。そういえば、通天閣が出てくる落語はないか。あってもよさそうなもんですが。スパワールドが出てくる新作落語は自分で書きましたが。

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【ほぼ百字小説】(33) 千年ほど前、この坂の下は海で、風の強い日にはここまで波の飛沫がとどいたものだ。隣で亀が言う。まあ亀が座って喋っていることに比べれば、海岸線の後退くらい誤差の範囲内、とは思うが、本当に万年生きるんだな。

  これもやっぱり大阪ものですね。抜け穴と同じ上町台地です。前にも書いたと思いますが、大阪はもともとは中洲だったので、ほとんど高低差がないんですが、この上町台地は海に突き出た岬だったので、ちょっとだけ高くなってます。これを書いたときにイメージしてたのは、上町台地のてっぺんにある四天王寺の西門から西へと下っていく逢坂の途中あたり。通天閣とかスパワールドが見えます。新世界と言われているあたりですね。古地図を見ると、そのあたりは昔は浅い海とか湿地だったようでだったようです。四天王寺の手前の交差点のあたりが夕陽丘で、その名のとおり夕日が海に沈んでいくのが見える。それを見て西方浄土を想うというのが、日想観ですね。坂の途中にあるのが一心寺、そこからすこし下ったところにあるのが安居神社で、どちらも上方落語の「天神山」に出てきます。四天王寺も「天王寺参り」とか「鷺とり」に出てくる。落語の聖地巡礼ができる一画です。私も、「ウニバーサル・スタジオ」にそのまま出してます。あと、「きつねのつき」に出てくる台地も、これですね。千年前は海、そして千年とくれば、亀は万年、とまあそういうサゲにしました。


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【ほぼ百字小説】(34) 近所の廃工場の前に金属の枠があって、普段は濁った水が溜まっている。覗くと金魚らしき赤い影が動く。晴れた日が続くと、からからに乾いて底が剥き出し。なのに、雨が降って水が溜まると、また赤い影が動いている。

 怪談ですね。短い話の基本の型のひとつが怪談だと思ってます。だからこの【ほぼ百字小説】にも、怪談は多いです。まあ私が怪談だと考える怪談ですが。まず、何か謎がある、そして、この謎は解かれてもいいし解かれなくてもいい。そういうのも自由度が高くてやりやすい。私の好みとしては解かれないほうですね。前に書いたサゲの分類で行くと、「変」か「あわせ」。

 まあだいたい理屈にあわないほうが怖いですね。それに、怖いのか怖くないのかわからないくらいのほうが、怖い。これはまあいちおうよくあるようなタイプの不思議ですが、金魚の幽霊、というのがちょっとひねったところか。白昼堂々と出るんだけど、出ても幽霊っぽくなくて、でも普通の生きた金魚ではあるはずがない、という程度で止めてます。

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