解題【ほぼ百文字小説】51~60
というわけで、まだまだやります。よろしくおつきあいをお願いします。
【ほぼ百字小説】(51) 予言どおり、空港に巨大な蝶が舞い降りてきた。その美しい羽は何本もの滑走路を覆い尽くす大きさだ。いや、蛾だろ蛾。えっ、蝶でしょ。羽を広げたままだから、蛾だよ。じゃ、「美しい」は「毒々しい」に差し替えで。
これはもうそのまんま、あの怪獣ですね。子供の頃、この映画をテレビで観て、空港に降りてくるシーンにものすごい幸福感を覚えました。ほんとに夢のようだったなあ。たぶん今見たら印象がだいぶ違うんでしょうが、だからまた見直そうとはあんまり思いません。空港というものすごく人工的で巨大な空間に、怪獣という異質なものが整然と降りてくる、というのがとにかくすごかった。テレビの前でぐらぐらしました。モスラという、怪獣の中でもかなり特殊な存在だったから、そういうありえないようなシーンが成立したのでしょう。巨大な蛾が飛行場に降りてくる、というのは、イメージとしてもアイデアとしても素晴らしい。あの場にはたしか新聞記者なんかもいて、そこで行われたかもしれない会話みたいにして書きました。まあ蝶か蛾か、というだけで同じ姿をしてても受け取られ方が違う、というのは、まあ皮肉の定番みたいなもので、まあそれも小噺程度に入れてます。
【ほぼ百時小説】(52) 商店街で亀を見た。人間くらいの大きさの二本足で歩く亀だ。妻に教えてやろうと走って帰る。亀なんだよ。で、甲羅は触ったの? なんで? 長生きできるらしいよ。そうなのか。というか、みんな知ってることなのか。
亀ものです。こんな亀が出てくる『かめくん』という小説を書いてて、それと同じ世界での話ですね。その世界では、そういうものが存在することを知ってる人、知ってるけど見たことない人、いっしょに仕事してる人、なんとなく聞いたことがある程度の人、などがいて、まあそういう世界でのひとコマみたいな感じ。えっ、知ってるの? というズラしかただから、形としては「へん」かな。
【ほぼ百字小説】(53) なぜ、船内にブランコが必要なのか。それが宇宙船の駆動力に他ならないからなのです。つまり、飛行士に要求される正しい資質とは、なんの疑いも抱かずただひたすら漕ぎ続けられること。以上。質問は受け付けません。
「ザ・ライトスタッフ」ですね。いや、ちょっと違うけど。公報の人が、記者たちに発表するシーンみたいな感じで書きました。原理は理解できないけどこれをやればこうなる、ということだらけで、とくに電子機器になるとそっちのほうが多いですね。まあそういうのを極端にした感じでしょうか。原理はわからないけど操作法はわかっている。このブランコをいちばんうまく漕げるパイロットこそがベストパイロット、とか。サゲは、こういう会見でありそうなフレーズと、何の疑いもなく、というのと重ねてるので、「合わせ」ですね。
【ほぼ百字小説】(54) 水筒の中に何かがいる。口から覗いてみたら向こうもこっちを覗いていた。逆さにして振ってみたが水筒の内壁に手足を突っ張って出てこない。熱湯を入れても平気らしい。それならまあ、何も入ってないのと同じことか。
いやいや、同じじゃないだろ、というツッコミ待ち、というか、でも大雑把な人ってこんな感じですよね。私もだいぶ大雑把なほうなので、そんなふうに見えてるような気はします。神経を使う場所が違うだけなんですけどね、と大雑把と言われている人は言うでしょうけど。それはともかく、書いたのは、水筒は洗いにくい、ということですね。洗っても、洗えてるのかどうかわからないし。それで覗き込んでみると、何かがこっちを覗いてるみたいに見える。それは覗いてる自分の影が内側に映ってるだけなんですけどね。そういう、あるある、です。サゲはそんなアホな、という大雑把さだから、「へん」かな。
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