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解題【ほぼ百字小説】41~50

続きです。

 これで50です。まだまだ続けるつもりです。よろしくおつきあいをお願いします。なんとなく始めた【ほぼ百字小説】、このあたりまで書けて、もしかしたらこれは自分に合ってるはないか、とか思い出した頃です。でもまだ、原稿用紙に換算して、10枚ちょっとくらいか、とかそんな感じでもありました。4つで1枚ですからね。

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【ほぼ百字小説】(41) たとえば、長靴ね。水を通さないってことは、水を入れる器としても使えるでしょ。ものは同じ、矢印の向きだけ変わる。つまりこれからは、あんたたちが食われるの。今まで食われてたおれたちにね。同じさ。同じだろ。

 いちおうホラーかな。まあ食うものと食われるものの話ですね。食える、ということは、逆転させれば、こっちを食うこともたぶん可能、ということで、今のところ人間には天敵がいませんが、何かが人間の天敵の資格を得たら、みたいなこと。あと、下克上とか復讐のイメージも入れてますね。そういう爽快さも、書きながらちょっと感じてるかもしれない。復讐を果たした主人公が最後に言う台詞みたいな。

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【ほぼ百字小説】(42) 滑り台として使う斜面を得るため、山を造ろうとしたのです。しかしこの世界には上限があることがわかったので、掘り下げてみました。でもそちらにも限界があるようですねえ。次は、重力の操作による方法を試みます。

 宇宙SFというか、宇宙論SFかな。宇宙に行くSFじゃなくて、世界の構造とか宇宙の仕組みみたいなものに関するSF。神話とかは、そういうものに近いんじゃないかと思います。神話というのは、世界の成り立ちとか構造に関するお話が多いですね。私は子供の頃、そういうものをたぶんSFと同じように楽しんでて、北欧神話とか大好きでした。世界樹とか知恵の泉とか、出てくるものがいちいちかっこいいんですね。子供が考えた世界の構造なんかにもすごく惹かれる。滑り台とか出してきたのはそのへんの関連のような気がします。

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【ほぼ百字小説】(43) 高い煙突のある町に住んでいました。いろんな都合の悪いものを粉砕し、飛散させてしまうための町でした。まあいちばん都合の悪いのはその町ですから、最後には自分で自分を砕いて町は跡形もなくなりましたよ。私も。

 生きている工場、というイメージが好きです。いわゆる何々型ロボットというのではなくて、巨大な複合体が知性を持っているみたいなイメージ。「2001年宇宙の旅」のHAL9000とか、そんな感じかもしれません。知性があるから死を認識できる。本当に死ぬかどうかわかりませんが、死に相当するものはある。だから自殺もする。まあこれの場合は、命令されての自殺だから、自殺と呼べるかどうかわかりませんが。

 子供の頃、隣が銭湯だったので、煙突はよく眺めていました。毎日同じ時間になると煙が出るんですね。じっと見ているとこっちに倒れてきそうな気がすることに気がついて、そういう錯覚が起きるまでずっと見つめている、という遊びをよくやってた。そんな子供でした。煙突は小さな煙の粒として物を捨てているわけで、だからそうやって自分を砕いて捨てていって、最後に自分が全部なくなる、という騙し絵みたいなイメージを書きたかった。そういう巨大な建物が意思を持っていて、お話の語り手がじつはそれ、というがサゲだから、まあ分類でいくと、ドンデンかな。

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【ほぼ百字小説】(44) 消火器が白い泡を噴きながら倒れた。ごおごおと炎が迫る。消化器が黄色い液を吐きながら倒れた。てらてらと肉塊が迫る。小火器が粗悪な弾を撒きながら倒れた。ぎらぎらと抜き身が迫る。撤退だ撤退だ撤退だ撤退だ撤。

 これは単純に「しょうかき」という音が、「消火器」でも「消化器」でも「小火器」でもある、というそこから作っただけですね。「おしょくじけん」が「汚職事件」と「お食事券」になるようなやつ。あとはそこに、基本的に同じ形の文章、擬音、何かが迫ってくる、そして倒れる、というのをそれぞれの「しょうかき」に合わせてはめ込んで、戦闘というか倒れてるところからして負け戦だから途中でぶちっと通信が切れるみたいな感じにした、というそれだけ。そういう性質のものだから、朗読には字幕をつけないとわかりにくいでしょうね。

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【ほぼ百字小説】(45) 買ったばかりのソファの中には大抵誰かが入っていますから、ソファを傷つけることなく入っている誰かを出すことを考えなければなりません。もちろん、ソファだけではなくその誰かの心も傷つけないように気をつけて。

 これはもうそのまんま、江戸川乱歩の『人間椅子』。そのパロディというか、まあああいうことが普通に行われている世界でのソファの注意書き風にやってみました、みたいな感じ。サゲは、ソファを傷つけないようにするのと、その誰かの心も傷つけないように、ということで、これは「合わせ」かな。元ネタが朗読の定番みたいなテキスト、ということもあってか、朗読するとよくうけます。これとペアになるやつもいくつか書いてて、大抵は組み合わせて朗読してます。

【ほぼ百字小説】(510) 古いソファを捨てる。妻が実家から持ってきて長く使っていたものだが、もうすっかりくたびれている。しかし重い。なぜこんなに、と裏面の革の破れ目から覗くと内臓みたいなものが見えたが、見なかったことにしよう。

【ほぼ百字小説】(513) 捨てたはずのソファがまだある 、と思ったら、よく似たのを拾ったの、と妻。たしかに、裏面の革は破れてはいない。それにしてもこんなに重いものをどうやって。こうやって、と妻が言うと、ソファが四本足で歩き出す。

 人間椅子、じゃなくて、ソファ動物、か。前に書いたものを思い出してこんなのを書いたりする、というのも連続でやってるおもしろみのひとつ。

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