最近の【ほぼ百字小説】2024年7月25日~8月4日
*有料設定ですが、全文無料で読めます。
【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。
7月25日(木)
【ほぼ百字小説】(5350) 燕っぽくない奇妙な飛びかたの燕がいるな、と見ていると地面に降りてきたそいつの嘴は黄色くて、そうか練習中の雛だったのか。飛ぶのに練習がいるんだな。そういえば、ふらふら頼りなく飛んでいる天使のケツは青い。
こないだ実際に見て、思ったこと。ちょうど今がその季節なんですね。燕ってあんまり羽ばたかないじゃないですか。それがぱたぱたぱたと目の前を横切って、そのまま道路に降りてきた。すぐそばに親が付いてました。飛ぶ練習、ってすごいですよね。よくそんなことできるもんだ。そして、嘴が黄色いとくればケツが青い。天使も飛ぶ練習くらいは必要でしょう。
【ほぼ百字小説】(5351) 灼熱の路地を歩きながら、ここは猫の多い路地だったな、と思う。いつも日向ぼっこしていたたくさんの猫たちは、今はどこでこの暑さをやり過ごしているのか。きっと彼らはうまくやっているだろう。猫の地図が欲しい。
毎日、ほぼ同じ道を歩いてるんですが、これだけ暑いともう景色がまるで違って見える。その中に猫がいつもいた一角があって、でもここまで暑いとさすがに猫の子一匹いない。それだけでずいぶん景色が違います。ほんと、どうしてるんでしょうね。
【ほぼ百字小説】(5352) 蕩け始めたのは、観測史上初の日が続いたその何日目か。まあ今までなかったことだから、今までなかったことが起きてもおかしくないが、しかし、人類が次の形態に移行する条件が、少し余計に加熱するだけだったとは。
まあ歩きながらそんな妄想をするくらい暑いですね。まだ梅雨が明けたところなのに、8月はどうなるんでしょうねえ。きっと暑い暑いネタが多くなるだろうなあ。ということで、暑さが続いて「生物都市」みたいなことになる話。こんな簡単だったのか。新しい世界が来る。
7月26日(金)
【ほぼ百字小説】(5353) 声をかけそうになったが、いや、あの人はもう死んだのだった、それにしてもそっくりだ、こんな昼間の雑踏の中で幽霊でもないよな、と向こうも同じことを思っているような、そんな顔つきでこっちを見つめてくるのだ。
あるあるだと思います、私くらいの年齢になるとね。六十を過ぎたあたりから、けっこう知り合いが無くなるようになりました。でも、なんか全然そういう実感がないんですよね。ひょこっと間違えて出て来そうで。間違えてくれないかな、とか。
【ほぼ百字小説】(5354) あの殺人事件のあった家、改装して塗り替えられた壁には、「入居者募集」の貼り紙が。家の前に立っていた人間ほどの大きさの信楽焼の狸はいなくなり、そのあたりによく群れていた猫たちも今ではまったく見かけない。
そのまんまです。まあそういうことがあったんです。ああ、あのテレビで見る鑑識の人みたいな人達が大勢いたのは、そういうことだったのか、とテレビで観て納得しました。何年前だったかな。あの狸も猫たちも、その前を通るたびに目を楽しませてくれてたんですけどね。
【ほぼ百字小説】(5355) 道の彼方を横切るたびに、長過ぎる、と思っていた。そもそもイタチはやたらと胴の長い動物だが、それにしても。動画を撮って、スローで再生すると、脚が六本だ。なるほど普通よりも長いわけだ、とその点だけは納得。
他の土地は知りませんが、大阪にはけっこうイタチがいます。長いですよね。ちょっとバランスが変なくらい長い。ツチノコは濡れたイタチ、という説がけっこう好きです。たしかに短い蛇、くらいには長い。そんな長いイタチの中でも、とくに長いイタチの話。
7月27日(土)
【ほぼ百字小説】(5356) 公園の砂場を掘っていて栓を見つけた。お風呂の栓みたいな鎖がついていて、引っ張ると抜けた。砂がゆっくり落ちていった。今日行くと、公園は立ち入り禁止になってて、擂鉢みたいな大きな穴が見えた。関係ないよね。
やっちまたったな、な話。あんまり考えずに何かをやって、あれ? もしかしてあれが、とか後で不安になる。ありますよね。もう忘れてしまったほうがいいですよね。忘れてしまったそんなことがいくつもあって、何かのきっかけで思い出すかも。
【ほぼ百字小説】(5357) いずれそうなるとは聞いていたが、いよいよそうなったらしい。それはいいとしても、なぜ自分だけがその方向転換から取り残されたのか。膨張から収縮に転じた宇宙の中で、なぜかひとり膨張を続けながら困惑している。
この宇宙が膨張を続けていることは、観測でわかってます。ビックバンからずっと膨張し続けているこれが、いつか収縮に転じるのではないか、というのは、昔から言われていて、まあ何かまったく別の要因がない限り、そうなるだろうと考えられます。で、そのとき、なぜか取り残される。宇宙の問題ですから、考えてどうこうできるようなことじゃない。たぶん宇宙より大きくなる。というか、宇宙が自分より小さくなるわけですが。
7月28日(日)
【ほぼ百字小説】(5358) 路地から見える台地が、なんだか少し違って見える。前より高くなった気がする。この暑さで成長しているのだろうか。あるいは、この暑さでこちらが干からびて縮んだのか。いずれにせよ、この暑さのせいには違いない。
とにかく暑い。暑い暑い言ってる。暑い暑い言いながら歩いてる。ということで、こんな感じ。もうなんでも暑さのせいにでもしないと元がとれない。元ってなんかわからんけど。
【ほぼ百字小説】(5359) 大阪環状線は、人間を満載した電車を円環運動させることにより、その内側にある種の渦を発生させるための装置であり、円環の中心には、向こう側へと抜ける穴が存在する。かつてそれは、真田の抜け穴と呼ばれていた。
環状線沿線に住んでます。毎日、環状線の高架の横を歩いたり高架をくぐったり。緩くカーブしているのがわかる。丸い線路というのは電磁的な装置みたいに見えるし、実際にそういうものとして機能するような気がする。かつてあった伝説の抜け穴をそれを使って再起動する、とか。
7月29日(月)
【ほぼ百字小説】(5360) 誘発される落雷によって、何かが立ち上がる。それを見せないための立ち入り禁止で、あれは何かを召喚するための儀式なのだ。いつからかそんな噂が。そういえばあのあたり一帯には、硫黄の匂いが立ち込めているとか。
時事もの、というか万博ものですね。あの大屋根、落雷すると危ないから雷雨のときは入れなくなるらしい。ちょっと冗談みたいな話ですが、冗談じゃないらしい。あたりがほんのりウンコ臭い、というのはたんなる噂ではないらしい。
【ほぼ百字小説】(5361) あの地面に並んでいるのは出る杭で、出る杭だから出るたび打たれるのだが、それでもやっぱりまた出てきて、そしてまた打たれる。繰り返されるうちにそれはもう儀式のようになっていて、今では打ちつ打たれつの関係。
まあ出る杭は打たれる、という言葉を転がしているうちに。あ、前のやつとは儀式つながりでもあるか。なんでもお約束になるとそんな感じになってしまうんじゃないかなあ、というあるある。
7月30日(火)
【ほぼ百字小説】(5362) 日陰の地面にぺたりと貼り付くように伏せている。そこが冷たくて気持ちいいのだろう。いつもはすぐ逃げるのに、今日は逃げない。快適な場所を死守する覚悟か。湯気の立つ地面に伏せていた冬の温泉街の猫を思い出す。
あったことそのまんま。猫はいいところを見つけますからね。そして、思い出した光景もそのまんま。別府の鉄輪(かんなわ)です。町中に地元の人が入る小さな温泉がたくさんあるんですが、その横の路地の湯気の中に猫がいる。なかなかいいもんです。
【ほぼ百字小説】(5363) 人造巨人が動かなくなってしまったので、原因の調査と修理のため内部に侵入すると、ああ来た来た、と老人たちに迎えられ、ではあとは若い人たちで、と老人たちはぞろぞろと出ていった。これって、人力だったんだな。
馬鹿SFみたいな、というか、馬鹿SFでしょうね。クライブ・バーカーの『丘に、町が』みたいな設定かな。大勢で動かす着ぐるみみたいな感じの巨大ロボなんでしょうね。いや、自分で書いといて、なんでしょうね、もないけど。
7月31日(水)
【ほぼ百字小説】(5364) さっきまでは子供の頃に好きだった毛が三本のオバケに似た白くて丸い入道雲だったが、今はなんだか物凄く、その奥にどす黒いものも沸き上がってきていて、まあオバケなんだから、あいつにもそんなときはあったろう。
雲がすごい季節です。この時期はしょっちゅう空を見ていて、いつも見とれてしまいます。西日を浴びてる入道雲なんか、もうほんとにすごいです。そんな雲を見て思ったこと。
8月1日(木)
【ほぼ百字小説】(5364) 近頃は皆、やたら腹を切りたがる。切れ、なんて言ってないのに、自分から待ってましたとばかりに切る。自分の中に何か立派なものがあって、切れば出てくるとでも思っているのかなあ。相応のものしか入ってないのに。
これは何なのかなあ。まあ責任の取りかた、みたいなことかな。なんというか、腹を切られても困りますよね。たぶん、腹を切っても大したことない世界なんでしょうね。自分で書いといて、よくわからないけど。
【ほぼ百字小説】(5365) ほどよい首を貰ったので、首提灯にした。光るのは目だけだからさほど明るくないが、今どきそこまで暗い道もないから大丈夫。それより、話し相手になってくれるのがありがたい。おかげで夜道のひとり歩きも怖くない。
切腹の次は首、と思って書いたわけじゃないんですが、なんとなくつながってしまった。「首提灯」というのは落語にあります。いいタイトルですね。サゲは、昼間に出てくる幽霊になんで夜出てこないのか尋ねたら、怖いから、という小噺があって、まあそのバリエーションみたいな感じかな。
【ほぼ百字小説】(5367) 首提灯を手に峠道。このあたりには出るらしい。そう聞いていた通り、次から次へと首無しライダーが来ては急停車し、首を検分しては走り去る。この首ではないらしい。しかし首が無いと首を振ることはできないんだな。
「首提灯」の反対語、ではないですが、まあそこからの連想で「首無しライダー」。ということで、対面させてみました。まあ首無しライダーに面はないですが。自分の首を探している、という設定にして、これじゃない、と走り去ることにしたんですが、そうなんですよ、首を振れない。首無しライダーと意思の疎通をはかるのは難しいですね。
8月3日(土)
【ほぼ百字小説】(5368) 舞台裏をさまよう夢を見ている。舞台の上にいるつもりが、いつのまにか裏側に来てしまったらしい。一刻も早く舞台に戻らねば、とは思うが、どう行けば舞台に出るのかわからない。もしかしてこの夢、覚めないのかな。
夢としては、けっこうあるあるなんじゃないかと思います。演劇とかやってる人間には、わりと定番の夢なのでは。私は何度か似たようなのを見たことがある。あと、自分の役も台詞も全然わからない夢。現実と夢、というのは、舞台と舞台裏に似ているような気がする。どっちがどっちなのかは知らんけど。
【ほぼ百字小説】(5369) 朝起きると部屋の床に蝉の抜け殻が。妻と娘に尋ねても知らないと言う。いろんな偶然が重なれば起きてもおかしくないことだが、やっぱり不思議。まあ蝉の抜け殻それ自体の不思議に比べれば、なんでもない不思議だが。
あったことそのまんま。部屋の真ん中に転がってました。まあ蝉の抜け殻って軽いし、服にくっついたりもするし、どこにでもあるから、考えられなくもないですね。無理やり推理すれば推理できる。日常の謎として、ちょうどいい具合の不思議だとは思いますが。
8月4日(日)
【ほぼ百字小説】(5370) 亀亀、亀亀亀亀亀。亀亀亀亀、亀亀亀亀亀亀亀。亀亀亀亀亀? 亀亀亀亀亀、亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀。亀! 亀亀亀亀亀。亀。亀亀亀亀亀亀亀。まあだいたいそんな感じの本です。二百匹百字亀大行進。
今月の末に出ることになっている百字劇場の新刊『かめたいむ』の宣伝のための百字。POPの文章を百字くらいで、と言われたので、それなら百字で、と思って書きました。朗読はちょっと大変そうだ。
【ほぼ百字小説】(5371) 今すぐあなたの脳に天使をインストールしてください。たった十五秒でインストールできる百字の天使を集めました。世界の見えかたが変わります。それがあなたにとって良いことなのかどうかは、神のみぞ知る、ですが。
そしてこれが、『交差点の天使』版のやつ。
これから先も続けるために、ちょっと気合を入れて宣伝しなきゃなあ、とか思ってます。ほんと、これが続けられたら、もうそれでいいんですよ。
これが宣伝になるかどうかはわかりませんが。
【ほぼ百字小説】(5372) 扇子を持ち歩いていて、店に着くとしばらくぱたぱたあおぐ。広げたそれが向日葵畑の柄であることに今さら気がつくが、前は違っていたような気もして、そしてあのときもやっぱり前は違っていたような気がしたような。
まあ暑さで頭がぼおっとしてるんでしょうね。それにしても日傘と扇子が手放せない夏です。もうなんにも考えられなくて、だからそのまんま書いてます。
【ほぼ百字小説】(5373) 鼠花火に蛇花火、くらいは知っているが、猫花火や亀花火は初めてで、へえ、そんなものが、とやってみるとなるほど猫だし亀だ。それにしてもなぜ今まで知らなかったのだろう、と首を傾げて手に持っているのは狸花火。
昨夜、大阪では淀川花火大会がありました。そしてそんなこととは関係なく、我々は天満天神繁昌亭で「ハナシヲノベル復活祭」をやってました。そんなわけで、でもないのですが、花火の話。鼠花火はともかくとして、あの蛇花火というのは不思議ですね。誰があんなもの考えたんでしょうね。だから他にもいろんな花火があってもいい、ということで。まあ狸花火ひとつあればそれでいいのかもしれませんが。
ということで、今回はここまで。
まとめて朗読しました。
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【ほぼ百字小説】(5350) 燕っぽくない奇妙な飛びかたの燕がいるな、と見ていると地面に降りてきたそいつの嘴は黄色くて、そうか練習中の雛だったのか。飛ぶのに練習がいるんだな。そういえば、ふらふら頼りなく飛んでいる天使のケツは青い。
【ほぼ百字小説】(5351) 灼熱の路地を歩きながら、ここは猫の多い路地だったな、と思う。いつも日向ぼっこしていたたくさんの猫たちは、今はどこでこの暑さをやり過ごしているのか。きっと彼らはうまくやっているだろう。猫の地図が欲しい。
【ほぼ百字小説】(5352) 蕩け始めたのは、観測史上初の日が続いたその何日目か。まあ今までなかったことだから、今までなかったことが起きてもおかしくないが、しかし、人類が次の形態に移行する条件が、少し余計に加熱するだけだったとは。
【ほぼ百字小説】(5353) 声をかけそうになったが、いや、あの人はもう死んだのだった、それにしてもそっくりだ、こんな昼間の雑踏の中で幽霊でもないよな、と向こうも同じことを思っているような、そんな顔つきでこっちを見つめてくるのだ。
【ほぼ百字小説】(5354) あの殺人事件のあった家、改装して塗り替えられた壁には、「入居者募集」の貼り紙が。家の前に立っていた人間ほどの大きさの信楽焼の狸はいなくなり、そのあたりによく群れていた猫たちも今ではまったく見かけない。
【ほぼ百字小説】(5355) 道の彼方を横切るたびに、長過ぎる、と思っていた。そもそもイタチはやたらと胴の長い動物だが、それにしても。動画を撮って、スローで再生すると、脚が六本だ。なるほど普通よりも長いわけだ、とその点だけは納得。
【ほぼ百字小説】(5356) 公園の砂場を掘っていて栓を見つけた。お風呂の栓みたいな鎖がついていて、引っ張ると抜けた。砂がゆっくり落ちていった。今日行くと、公園は立ち入り禁止になってて、擂鉢みたいな大きな穴が見えた。関係ないよね。
【ほぼ百字小説】(5357) いずれそうなるとは聞いていたが、いよいよそうなったらしい。それはいいとしても、なぜ自分だけがその方向転換から取り残されたのか。膨張から収縮に転じた宇宙の中で、なぜかひとり膨張を続けながら困惑している。
【ほぼ百字小説】(5358) 路地から見える台地が、なんだか少し違って見える。前より高くなった気がする。この暑さで成長しているのだろうか。あるいは、この暑さでこちらが干からびて縮んだのか。いずれにせよ、この暑さのせいには違いない。
【ほぼ百字小説】(5359) 大阪環状線は、人間を満載した電車を円環運動させることにより、その内側にある種の渦を発生させるための装置であり、円環の中心には、向こう側へと抜ける穴が存在する。かつてそれは、真田の抜け穴と呼ばれていた。
【ほぼ百字小説】(5360) 誘発される落雷によって、何かが立ち上がる。それを見せないための立ち入り禁止で、あれは何かを召喚するための儀式なのだ。いつからかそんな噂が。そういえばあのあたり一帯には、硫黄の匂いが立ち込めているとか。
【ほぼ百字小説】(5361) あの地面に並んでいるのは出る杭で、出る杭だから出るたび打たれるのだが、それでもやっぱりまた出てきて、そしてまた打たれる。繰り返されるうちにそれはもう儀式のようになっていて、今では打ちつ打たれつの関係。
【ほぼ百字小説】(5362) 日陰の地面にぺたりと貼り付くように伏せている。そこが冷たくて気持ちいいのだろう。いつもはすぐ逃げるのに、今日は逃げない。快適な場所を死守する覚悟か。湯気の立つ地面に伏せていた冬の温泉街の猫を思い出す。
【ほぼ百字小説】(5363) 人造巨人が動かなくなってしまったので、原因の調査と修理のため内部に侵入すると、ああ来た来た、と老人たちに迎えられ、ではあとは若い人たちで、と老人たちはぞろぞろと出ていった。これって、人力だったんだな。
【ほぼ百字小説】(5364) さっきまでは子供の頃に好きだった毛が三本のオバケに似た白くて丸い入道雲だったが、今はなんだか物凄く、その奥にどす黒いものも沸き上がってきていて、まあオバケなんだから、あいつにもそんなときはあったろう。
【ほぼ百字小説】(5365) 近頃は皆、やたら腹を切りたがる。切れ、なんて言ってないのに、自分から待ってましたとばかりに切る。自分の中に何か立派なものがあって、切れば出てくるとでも思っているのかなあ。相応のものしか入ってないのに。
【ほぼ百字小説】(5366) ほどよい首を貰ったので、首提灯にした。光るのは目だけだからさほど明るくないが、今どきそこまで暗い道もないから大丈夫。それより、話し相手になってくれるのがありがたい。おかげで夜道のひとり歩きも怖くない。
【ほぼ百字小説】(5367) 首提灯を手に峠道。このあたりには出るらしい。そう聞いていた通り、次から次へと首無しライダーが来ては急停車し、首を検分しては走り去る。この首ではないらしい。しかし首が無いと首を振ることはできないんだな。
【ほぼ百字小説】(5368) 舞台裏をさまよう夢を見ている。舞台の上にいるつもりが、いつのまにか裏側に来てしまったらしい。一刻も早く舞台に戻らねば、とは思うが、どう行けば舞台に出るのかわからない。もしかしてこの夢、覚めないのかな。
【ほぼ百字小説】(5369) 朝起きると部屋の床に蝉の抜け殻が。妻と娘に尋ねても知らないと言う。いろんな偶然が重なれば起きてもおかしくないことだが、やっぱり不思議。まあ蝉の抜け殻それ自体の不思議に比べれば、なんでもない不思議だが。
【ほぼ百字小説】(5370) 亀亀、亀亀亀亀亀。亀亀亀亀、亀亀亀亀亀亀亀。亀亀亀亀亀? 亀亀亀亀亀、亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀亀。亀! 亀亀亀亀亀。亀。亀亀亀亀亀亀亀。まあだいたいそんな感じの本です。二百匹百字亀大行進。
【ほぼ百字小説】(5371) 今すぐあなたの脳に天使をインストールしてください。たった十五秒でインストールできる百字の天使を集めました。世界の見えかたが変わります。それがあなたにとって良いことなのかどうかは、神のみぞ知る、ですが。
【ほぼ百字小説】(5372) 扇子を持ち歩いていて、店に着くとしばらくぱたぱたあおぐ。広げたそれが向日葵畑の柄であることに今さら気がつくが、前は違っていたような気もして、そしてあのときもやっぱり前は違っていたような気がしたような。
【ほぼ百字小説】(5373) 鼠花火に蛇花火、くらいは知っているが、猫花火や亀花火は初めてで、へえ、そんなものが、とやってみるとなるほど猫だし亀だ。それにしてもなぜ今まで知らなかったのだろう、と首を傾げて手に持っているのは狸花火。
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以上、24篇でした。
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