優しさを繋いでいく | トラン日記
2024.11.29 @ Trang, Thailand
ただの雨季だと思っていたがどうやらそうではないらしい。タイの南の地域に台風が来ているとのこと。明日ペナン島へバスで移動する予定だったけれど、バスがキャンセルになってしまった。移動日は延期するしかなさそうだ。予定通りに行かないことをすぐにはポジティブに捉えられない。自然の力にはどうしても勝てないことを思い知る。ひとまず、ペナン島の宿のキャンセル依頼や台風の情報収集など、淡々とこなした。
ペナン島で予約していた宿は問い合わせたがキャンセルには応じてくれなかった。わたしもキャンセルポリシーなどを考える側なので、彼らの言い分は理解はできた。納得がいかない気持ちもありつつ、彼らのメッセージは丁寧で寄り添いを感じ、仕方ない、そう割り切ってここからの過ごし方を考えることになんとか気持ちを切り替える。
このトランの街へは、真鶴にある泊まれる出版社「真鶴出版」のオーナーさん(Tさん)との繋がりでやってきた。知らない街だったけれど、素敵だなと思う人が住んでいた大切な街なら訪れるべきだと思った。Tさんが現地の色々な人と繋いでくれたおかげで、貴重な時間を過ごせている。
気を取り直して、Tさんが繋げてくれたトランで一番美味しいお茶が飲めるというジェーンさんのお店へ。彼は日本に住んでいた経験もあるので日本語も喋れる。ジェーンさんのお店へ行く途中、壁一面が本棚になっている素敵な空間があった。お店かしら?と覗いていると、中にいた女性が声をかけてくれて、「どうぞ」と中へ入れてくれた。どうやらお家らしい。
彼女と彼女の友人が3人。これからお茶を飲むから、一緒にどう?と誘ってくれた。この後ジェーンさんのお店でもお茶を飲むなぁとも思ったけれど、折角なのでお茶会に参加してみることに。家主の彼女のパートナーは作家さんらしく、それでこんなに本が多いようだった。彼の作品を見せてもらった。大きな鯨の絵が美しい色合いで描かれていて、その本の表紙が頭の中に鮮明に残った。
知らない人を家に招き入れる、という行為は日本の都市部ではなかなかない。ましてや外国人なら、尚更警戒してしまうはず。彼らは決して英語が得意なわけではなかったが、それでもオープンなマインドで迎え入れ、そしてわたしの置かれた状況に心を寄せてくれた。自分のことばかり、いつも考えている自身を恥じた。
彼らとの時間の中で相手の気持ちを考えることの素晴らしさを教えてもらった。こういうことは、それがどれだけ大切なことか分かっていても、何度でも学ばないと忘れてしまう。何度も何度も学び直し、わたしも日々成長したいと思った。
途中でそこにいたうちのひとりがジェーンさんに声をかけにいってくれた。ジェーンさんがやってきて、流暢な日本語で「じゃあこっちにお茶を持ってきますよ。」と言って店に戻った。ジェーンさんのお店も見たかったのでわたしも着いて行った。
お店では多くの人がお茶を飲みながら楽しそうに話していて、なんだかホッとする空間だった。ジェーンさんは中国茶とフルーツティーを振る舞ってくれた。小さなお猪口のようなカップでみんなでお茶を分け合って飲んだ。苦味の効いた中国茶を飲んだ後に、フルーツティーを飲むとより甘さを感じて、どちらも本当に美味しかった。さっきまでの沈んだ気持ちをいつの間にか忘れて、おかげでこの瞬間の尊さに浸ることができた。
夜にはTさんの友人ファティマのレストランで夕食を。パッタイをご馳走してもらった。これまで食べたパッタイの中で一番美味しかった。心に沁みる味だった。ファティマの旦那さんのバンウェーが「それならば、明日の朝も一緒に朝ごはんを食べに行こう。」と誘ってくれて、明日も一緒にご飯を食べることになった。
多くの人の優しさに触れた1日だった。これまでは出会わなかった人たち。遠い街で違う文化の中で暮らしてきたわたしたちが出会い、気持ちを分け合う。旅をしていてよかったなと思う瞬間のひとつ。もらった優しさは、もちろん返したいし、わたしも誰かに渡せるように生きていきたい。