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6月の読書 | 何を沁るか

6月はお金の使い方とか、消費の仕方とか、食べるものとか、そういうことについてよく考える1か月だった。本当に生活に必要なものはなにか、きっと、生きている間に見つけたい。

種をあやす/岩﨑政利

長崎・雲仙で長年にわたり、種採りに情熱を注いできた岩﨑さんの「農家であることの喜び」と「野菜と種がもたらす人生の醍醐味」について綴られた1冊。いわゆる「在来種」と呼ばれる野菜たちの姿について、わたしはどれくらい知っているだろうか。お店に並ぶぴかぴかの茄子やピーマン、太くて真っ白な大根は、野菜の本当の姿ではなかったとしたら。

種の扱い方を「あやす」と表現した岩﨑さん。本を読み終えたとき、このタイトルがすっと心に落ちて、本をきゅっと抱きしめた。それから、野菜に対して心でもって見るという意味で沁ると表現していたことに心を掴まれたような感覚がした。人と、作物との関係について、わたしは見失っていたように思う。本当は対等なのに、いやもしかしたら人間のほうが作物によって生かされているかもしれないのに。やっぱり一次産業に惹かれるのは、命のおおもとなのだからだろう。


山の上のパン屋に人が集まるわけ/平田はる香

もの かね ひと 間にあるのは何ですか

山の上のパン屋に人が集まるわけ/平田はる香

どんなところにも「自分のあり方」と「相手のあり方」があります。

山の上のパン屋に人が集まるわけ/平田はる香

いまの自分にとっても必要なことが書いてある1冊だった。モノを売る者として、消費をするモノとして、そしてパンのこと。

まず、仕事において、旅を売る立場で考えたこと。売る場所について、売り方について、売る相手について、本の中で語られたそれぞれが今の仕事の話と繋がって、納得がいくことがとても多かった。特に、誰に売りたいかを考えるって、すっごく大切だなあ、と。もちろん、出来るだけたくさんの人に届けたい、知ってほしいと思っているし、売り上げ目標に達成するとすごく嬉しい。でも、そのお金がどんなところから来たのか、どんな思いで払われたのか、わたしはそれがすごく重要なんじゃないかなと思う。会社の売上がただ上がれば、お給料がただ上がればいいわけではない、と心から思っている。綺麗ごとに聞こえるかもしれないが。

お金の価値はいつも世界共通で決められていて、1円玉はいつだって1円玉だし、1億円はいつだって大金なのだろう。でも、きっともっと心を研ぎ澄ますと、そうではないことは明らかだとも感じて、それもまた世界共通のような気がする。

大学に合格したとき、沖縄で民泊をしてお世話になったお父さんが手紙に同封して送ってくれた5000円札が本当に嬉しかったし、初めてのアルバイトで初めて自分で稼いだ少額のお給料、振り込まれたその日に記帳に行って通帳を何度も見た。結婚式の2次会に来てくれた海外の友達が、ドル札を包んでくれたのだって嬉しかった。嬉しさはそのお金の額に比例していない。どんな想いがそこにあるか、それがお金の最大の価値なのだと考える。

そういうなんとなくわたしがぼんやりと考えていたことがひとつひとつ言葉になっていて、わたしが仕事をして生み出したいお金のあり方が腑に落ちた。

それから、消費者として。わざわざのスローガンは「よき生活者になる」で、わたしもこの”よき”について考えた。わたしたち消費者はいつも何を買うか、なにを食べるか、なにを着るか、ひっきりなしに選んでいる。さっきもスーパーで、国産の豚肉か、オーストラリア産の豚肉か、数十円の価格の違いにショーケース前で立ち止まったりした。もちろん上手にお金をやりくりすることだって”よき”生活者の一要因。

大切なことは、何にお金をかけるかを見極める事なのだと思う。『種をあやす』と通ずるところがあった。何を沁るか。いつでも心がけたい。

そして、大好きなパンのこと。平田さんはパンを「食事として食べてほしい。」と綴っていた。健康のために、である。その過程についてはぜひ本を読んでみてほしいのだけれど、平田さんはいわゆる菓子パンに分類されるパンの販売をやめ、カンパーニュと角パンの2種類のみを売っている。すごくシンプルで、すごくこだわりを感じる、印象的なわざわざの想いを感じる部分だった。


おまじない/西加奈子

「私たちは、この世界で役割を与えられた係なんだ。」

おまじないより「孫係」

3年半ぶりの海外旅行のお供にした1冊。全8編の物語。「孫係」をフィジーの小さな村の、薄暗い宿のラウンジスペースで呼んだ。じじ(祖父)のこと、ばば(祖母)のこと、ママのこと、パパのこと。家族に与えられた呼び名の役割を考えて、それはわたしから見て、でしかないのだなと思って、急にどうでもよく思えたりした。

わたしのじじは「らしく」することはすごく大切だ、とよく話した。お姉ちゃんらしく、妹らしく。娘らしく。あの頃は、まったく理解できなくて、わたしはわたしだと言い返した。今ならば、少しだけじじの教えが分かるような、気もする。

そっと背中を押してくれるような、あの日の教えに納得するような、小さな出来事をふと思い出すような、おまじないような1冊でした。


おつかれ、今日の私。/ジェーン・スー

だから、自分で自分をなぐさめる方法をいくつか持っていよう。どうやったら自分が癒されるのか、いろいろ実験してみよう。ベストなやり方が編み出せたら、次はもっとうまく凌げるはずだから。

おつかれ、今日の私。/ジェーン・スー

眠る前に、1章節ずつ。頑張った自分を労わるように言葉を心身にしみこませた。毎日、毎日、どうしたって心も身体も使う。(わたしは忙しいのが好きだしね。)

自分がどうしたら疲れが取れるか、活力が湧くか、知っておけば大丈夫。湯船に浸かること、本を読むこと、深い深い眠りにつくこと。それで、炊き立ての玄米をよく噛んで食べる。これでわたしは大丈夫。


おつかれ6月のわたし。頑張れ7月のわたし。心地よい疲労感が、今日も生きた証に思える夕方である。

読みたかった本は読みきれず積読が加速したけれど、また来月の楽しみが増えた。明日届くばななさんの新刊もとってもとても楽しみである。

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