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歳を重ねることの豊かさ | ブルネイ日記

2025.1.14 @ Brunei

旅をいつか振り返る時、間違いなく思い出すだろう人と出会った。日本人の女性、エツコさんだ。宿に着くと女性が部屋から出てきて「Are you JAPANESE?」と話しかけてくれた。わたしが日本人だということが分かると安心した顔で日本語で話しかけてくれて、「でっかい荷物やねぇ。ここに座ったら?」とまるでエツコさんのお家かのように振る舞い、緑茶まで淹れてくれた。久しぶりの抹茶は本当に身体に沁み渡った。

どうやらひとり旅で、2週間ブルネイに滞在予定らしく、今は4日目とのこと。会話をしながら、その後、わたしは鳩が豆鉄砲を喰らったような顔をすることになる。彼女の年齢がわたしが思っているよりも20歳も違かったからだ。

最初の印象では、60歳を迎えたのかな?という気がしていた。1年間に2回くらい息子が手配してくれるから海外旅行に行っているの、と話していた。旦那さんは11年前に亡くなって、それからひとり旅をするようになったのだと。でも、だんだんと話しているうちに「孫は23歳で〜・・・」という言葉を聞いて、あれ?おや?エツコさん一体おいくつなんだ?となり、「ところでエツコさんはおいくつなんですか?」と聞いてみた。

すると、「あたし、もう80よ。」と。いやいやちょっと待って、とわたしは理解に追いつかず、言葉が出なかった。80歳でブルネイにひとり旅?。綺麗にお化粧もして、ラウンジに人が来るたびに英語で話しかけているエツコさん。そのコミュニケーション能力の高さといい、なんといい。この旅1番の驚きと言ってもいいくらいの衝撃だった。それからなんとわたしのおばあちゃんと同じ名前。漢字も一緒。なんだかとても嬉しいのと、驚きと。わたしはさっきまでの疲れもふっとび、エツコさんのいろいろな旅の話を聞いた。


夜にエツコさんと一緒にナイトマーケットへ。エツコさんは「魚を食べたいの。」と言った。丸ごと焼かれた大きな魚はひとりでは食べきれないからとなかなか買えなかったのだと言う。魚を食べながら「嬉しい、嬉しい。希望が叶ったわ〜。」と喜ぶエツコさんはとても可愛らしくて、見ていてとても嬉しくなった。それから、ちょっとずつ色々なものを買って食べた。

🐟
ココナッツともち米の甘〜いもの
ドリアンの写真を撮るエツコさん

旅をはじめてから、変わった気持ちのひとつに「旅は、いつでもできる」ということがある。いつでも、というのは年齢の話。旅をはじめる前は「今しかできない」という思いが強かった。体力も時間もある今しか、若いうちにしか、できないのだと思っていた。でもそうではない、と短い時間の中で、旅の中で出会った人たちがそう思わせてくれた。何歳になっても、そう思えば、願えば、動けば、叶えられないことはないのだと。旅はいつでもできる。そう思うと色々な思いがわきあがってくる。自分に問いかける。会いたい人が心に浮かぶ。わたしはどこに向かっていくのだろう。えつこさんと話しながら、考えながら、歳を重ねていくことの豊かさについて考えていた。

エツコさんは笑いながら「どうせ死ぬなら何かしているときがいい。」と話していた。じっと寿命を待つよりも、例えば旅先で事故に遭って死んじゃうとか、そういう方がいいのだと。もう死ぬことなんて怖くないと言っていた。

エツコさんがとても素敵に見えたのは、エツコさんが80歳にもなって旅をしているから、楽しそうだから、家族がいるから、孫が立派に育ったから、友達がいるから、病気がないから、ではない。自分の幸せについてちゃんと知っていたからだと思う。これが私の幸せなんだ、と胸を張って言える人の強さを、美しさを間近で見てグッときてしまった。

そして同時にドキリとした。わたしはというと、まだ分からないでいる。旅に出て、なおさらに分からなくなっている。幸せだ、と思う瞬間と、これは嫌だなと思う瞬間をひとつひとつ味わって見つけていくしかないのだと。ただそれしかないのだということだけは分かっている。幸せとは、本当に一瞬のきらめきで、そう長くは続かない。ちょっと角度を変えると見えなくなったりもする。でもずっと、心の中にあって、ぽわ〜といつも光っている。

必死に毎日生きながら、いつか死ぬ日のことを考える。小さなわたしの儚い人生の日々よ、色濃くあれ。

折り紙教室
エツコさんに教えてもらった

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Yuuri
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