夫が無職になる話
わたしはずっと、男の人は社会と必死に戦って、出世を喜びとし、年収で自分の価値を指し示すのだと思っていた。( 不快に感じる人がいるかも、ごめんなさい ) でも、それだけではないのかもしれないということを、夫に出会って知ったという話。わたしたち夫婦にとってのお金、仕事の価値観について。今日はそんなことを書いてみようかなと思います。頭が冴えてしまった午前2時、夫の寝息を聞きながら書きました。
わたしの父は、前にも書いたかもしれないけれど、バリバリのサラリーマンだった。ほとんど家にいなくて、スーツを着ると人が変わったみたいにきりっとした顔つきになって、幼いわたしにとってはちょっと怖かった。いつもなにかと戦う父は眉間に皺が寄っていて、近寄りがたい雰囲気さえあった。今でこそ、髭を生やしてみたり、髪の毛がボサホザのまま一日を過ごしていたりするけれど、当時は本当に朝から晩まで働きまくってた。
そんな父を見てきたから、わたしにとっての男らしさとは働き者であることだった。外の世界で必死に戦って家族を養うこと、男の人の役目はそういうものなのだなと思っていた。そして女の人は家を守る。わたしが育った家庭はそんな感じの古風な価値観の家だったわけで。でも今、わたしが築こうとしている家庭像は育った場所とはちょっと違うのかもしれない。
もちろん一つの会社で約40年勤めあげることは本当にすごいことなのだと、今なら分かるから、父のことは変わらずに尊敬しているけどね。
わたしが結婚した夫は、わたしが考えていた男性像から遠くかけ離れている人だった。それはわたしのみならず、父にとっても、母にとっても。
出会った頃は定職がなく、ゲストハウスで住み込みでアルバイトをしたり、地方で短期で農業をしたり、少しお金が貯まったらフラッと旅をする。という感じにゆらりゆらりと暮らしているひとだった。
そんな夫は結婚を機に、タイミング良く前職の上司が声をかけてくれたおかげで会社員となったのだけれど、それから約3年半くらい経ったかな、もう十分やったようで、間も無くして無職に戻るとのこと。
夫の選択はわたしたちにとってごく自然のことだった。サラリーマンには向いていない夫が会社勤めを辞める、ということ。ふたりにとってなんの違和感も不安もなかった。いや、全くないと言えば嘘になるけれど (収入面でね )まあ大丈夫だろう、なんとかなるだろう、と思う気持ちのほうが圧倒的に強い。圧倒的に。
夫は、できないことをできない、分からないことを分からないと言い、自分がやるべきじゃないな、ということは引き受けず、本当に自分の心地のいいことを選んで、全うしている。そう考えたときに会社勤めのサラリーマンは彼の役割じゃないと思ったようだった。
仕事なんだからやりたくないことだってたまにはやらなきゃ、と世間は言うだろうけれど、それは必要がないことだと夫を見ていると思う。世の中にはやらなくていいことがたくさんあるな、と。経験しなくていい苦労もあるのだと。
そんなことしなくたって、仕事はいくらでもあるし、適した役割がたくさんある。無理して身を、心を削るより、出世などしなくても笑って、健康に、毎日過ごせることのほうが何百倍もいい。
健康でいて、そこにあるお金で何ができるか考えるほうがずっとずっと楽しい。夫といると、つくづくそう思う。必要なときに必要な分のお金が手に入るように、相応の仕事がやってきて、十分だと感じられるようになっている。世の中はちゃんとそういう風になっている。夫がお金の心配をしているところをただの一度も見たことはないのだ。
わたしが時々夜中に目が覚めてしまい寝付けずにいると、隣で目を覚ました夫は「今からドライブ行っちゃう?」なんて笑顔で言ってくる。何時だとしても。わたしにはきっとできない。彼の中にはいつでも緊急事態のために体力が残っているのだ。心の余裕も。そしてその緊急事態とは、自分のことではなく、家族や友人など大切な人のためのものであること。緊急事態とは大きなものも、小さな小さなことも。
その一方で、わたしは社会の中で必死に働くことが今のところ結構好きだ。今のところ、ね。(笑)へとへとになるまで頑張ってみたり、自分には無理だと思うことをやってみることも好き。夫のことをわたしがいいな、羨ましいなと思うと同時に、夫もわたしの考え方にリスペクトをくれる。「僕には/わたしには、できないな〜」と思う双方の姿がわたしたち夫婦のバランスをとってくれているのだと思う。
ただのないものねだり、の話かもしれないけれど、夫といるから、わたしはヘトヘトになっても心のバランスを崩さずにいられる。夫ももしかしたら心のどこかでちょっとわたしを当てにしてるから、心置きなく会社員をやめられるのかもしれない。
一応夫の名誉のために補足すると、彼は会社員をやめて、遊び呆けているわけではなく、彼らしい仕事でちゃんと生活のためのお金を稼いでいます。(笑)
あり余るほどはなくてもいいけれど、お金が理由で何かを諦めることはしたくない。これはわたしが夫にお願いしていること、賛同してくれていること。
仕事を通して、わたしたちは世界をどんな風に変えていきたいのか、自分たちがどう生きていきたいのか、一生懸命考えている最中。せっかくやるなら、せっかく時間を費やすなら、どうせならいい未来のために力を尽くしたい。と思うのでした。
無職になる夫はきっと、ますます彼らしい日々を歩むことだろう。側で見るのが楽しみ。彼らしく、わたしらしく、ふたりらしく。とことん生きてみたい。