この街で暮らした日々のこと
どんなに心や体がへとへとでも、そこに行くと元気になる。この街の中で、そういう場所や人と出会えたこと、それがいつも自転車で行ける距離の中にあったこと、それがこの2年間、何度となくわたしを救い出してくれた。
もうすぐわたしはこの街を出る。少しずつ、みんなとお別れをする日々。終わりではない。そう分かっていても、やっぱり寂しくて、ちょっとだけ涙が出てしまった。「またね。」をどれだけ確信を持って伝えることができるか、それはわたしにとっての対人関係において大事なことのひとつだ。心から思えた「またね。」に、ちゃんとこの街で生きてきた、暮らしてきた、ちゃんとここにいた、のだと思えた。
高いビルがなくて、遮るものがなにもないこの街の空はいつも穏やかだった。雨の日も、晴れの日も、曇りの日も、朝も夜も、いつも静かにわたしのことを包み込んだ。どこまでも続く田んぼ道は、まだまだ道は続くぞ、がんばれよ、と背中を押してくれた。どこまでもどこまでも歩きながら、真っ暗な道を歩きながら、何度も顔を上げた。
朝早くに東京のど真ん中に出勤して、ヘロヘロで帰ってくる電車道。辺りが一気に暗くなる境目で、わたしはまるで時空を超えたかのようにこの街へ放り込まれる。それはとても安心感のある空間で、わたしはこの境目の移動が大好きで、何度も何度も味わった。おかげで東京という街のことも好きでいられる。どの場所も、心から愛している。
家から駅までの道のこと。冬の朝はそのたった15分の間に夜から朝に変わっていく空があまりにも美しかった。春の朝は風に乗ってたくさんにおいが季節が変わっていくことを教えてくれた。夏の朝は、太陽が朝から全力で行ってらっしゃい、と告げてくれた。秋には黄金色の稲が揺れて、朝日に照らされて一層眩い景色だった。そんな景色たちは週に一度、わたしに季節を知らせてくれた。今を存分に愛するには十分すぎる景色を何度も見た。
この家のこと。わたしはこの家が本当に大好き。今まで住んできたお家の中で、一番大好き。縁側、広いキッチン、和室、ちょっと変な作りのトイレ、不便な場所にあるお風呂。広い庭、ラシーンを守ってくれた車庫。ひとつひとつが大好きだ。守ってくれて、本当にありがとう。たくさんの人が遊びにきてくれたこの家、わたしの記憶はこの家の中にずっと暮らし続ける。
それからこの街の人のこと。夫が仕事でおらず、たったひとりきりで過ごした週末。くよくよと泣いたりした日もあった。東京の友だちたちが週末に集まって、遅くまで飲んで、ちょっと羨ましかったり。夫に八つ当たりしたりなんかして。行動しない自分のことも恨んだり。そんなわたしのことをいつも気にかけてくれた人たち。一歩踏み出して出会えた人たち。歳の離れたお友だちたち。本当に本当にありがとう。
小さなこの街では、一歩踏み出せばそこにはたくさんの人がいた。あともう少し。もう少し時間があれば、もっと出会えた人もきっとたくさんいる。もっとぎゅっと関係性を縮められたであろう人たちがいる。少しだけ心残りなのも本音。だけれど、わたしはこの街を出るのだと自分で決めた。それは今なのだと、夫と何度も話して決めたこと。名残惜しいくらいがきっといい。少しの後悔を持ちながら、それでも進む。
そしてきっと、またこの場所に会いにくる。この場所の人たちに会いにくる。どこかで静かに繋がっていく。だから、大丈夫なのだと思える。
ふたつの場所を行ったり来たり。刺激的で楽しくて、面白くて、そしてやっぱりちょっと大変だった。ひとりではできなかった2年間。家をあけている間、洗濯物に掃除、家事全般をちゃんとやってくれた夫。いつもやっていないことにばかり目がいって、伝えられなかった”ありがとう”を今日はちゃんと伝えようと思います。週に一度、わたしの寝食をサポートしてくれた実家の両親。やっぱり、いつまでも頼ってしまいます。ごめんね、ありがとう。
それから、会社の人たち。イレギュラーに合わせてくれて、それでも一緒に働いてくれて、サポートしてくれて、尊重してくれて。感謝しかありません。これからも、まだ(さらに?)ご迷惑をおかけしますが、どうぞよろしくです。
2拠点?多拠点?生活はまだまだ続きますが、これからも一生懸命やってゆきます。一旦、一区切り!
千葉の端っこの小さなあったかな街、旭。わたしはこの街が大好きです。これからもずっと。この街で過ごしたまるっと2年間。心からのありがとうの気持ちを込めて、きっと最後の高速バスの中で書いています。次に住む街もとっても楽しみだー!週末、引っ越し頑張るぞ~~~!!