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〘異聞・阿修羅王/終序〙邂逅

結7の続きです。
 
 
 
 新たな季節のおとずれ。

 花咲き乱れ、鳥がさえずる須彌山の春。須彌山の季節は、そのまま人界に反映される。

「おい、お前」

 塀の隙間から邸内を覗いていた大柄な少年は、背後から突然かけられた声にびくりと反応した。

「そこで何をしている」

 恐る恐る振り返り、少年の驚きはさらに強まることになった。

 立っていたのは、少女と見紛う華奢な姿の少年。歳の頃は同じに見えるが、その冷たいまでの美しさに圧倒される。

「この邸に何か用か」

「いや、おれは……」

 キツい眦に見据えられた大柄な少年は、まるで蛇に睨まれた蛙のようであった。

「すまん。あそこに咲いている花が珍しくて……あれは蓮花か? あんな不思議な色は初めて見たし、あっちのあの藍色の花は見たこともない」

 少年が指差す先を覗き込む。

「ああ、あれは蓮花だ。確かに、他ではあまり咲かぬ色かも知れぬ。それと、あの藍色の花は、恐らくここにしか咲かぬ菊だ」

「あれは菊なのか!」

「そうだ」

「お前の目の色と同じ色だな!」

 興味津々と、食いつくように眺める様子に、華奢な少年が溜め息をついた。

「……そんなに見たくば、傍で見せてやる」

「えっ! いいのか!?」

 ぱっと目を輝かせた少年が顔を上げる。

「……って……え……ここはお前の邸なのか?」

「そうだ」

「そうか! おれの名は摩伽(まか)だ!」

 屈託ない少年の自己紹介を聞き、一瞬、二人の間を沈黙が掠めた。

「……摩伽……」

 その名を聞いた少年の微妙な反応を、摩伽と名乗った少年は気にする様子もなく、むしろ笑顔すら浮かべている。

「お前の名は?」

「名……名か……私のことは“須羅”(しゅり)とでも呼べ」

「須羅か…………須羅…………」

 口の中で唱えながら、摩伽の表情が何かを思い出そうする色を帯びた。

「……どこかで逢ったか……?」

「……この須彌山のどこかですれ違ったとして、憶えておると思うか?」

「……ふむ。確かに、それもそうだな」

 間髪入れずに返され、思わず納得させられる。

「おい。花を見たいんだろう。さっさと来い。置いて行くぞ」

「あ、待ってくれ、須羅!」

 考えている間に歩いて行ってしまった須羅を、摩伽は慌てて追いかけた。振り返り、追いつくのを待っていてくれる須羅に、嬉しそうに駆け寄る。

 肩を並べて門をくぐる二人を、春風の一陣に吹かれた花の枝だけが見ていた。
 
 
 
 
 
〜終〜
 
 
 
 
 

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