〖感想文、的な〗もはや全話神話でもいいと思うの──矢口れんとさん作『葬舞師と星の声を聴く楽師』
この記事は、創作大賞に応募された矢口れんとさん作『葬舞師と星の声を聴く楽師』の感想文的なものとして、
下記の企画に向けて投稿しております。
元来、感想を述べるのが苦手であること、読解力の欠如で曲解している箇所もあるかと思います。また公式のタグ企画に参加することがほぼないため、何かしらの不手際がありました時はご容赦ください。
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まず、こちらの物語にはBL要素が含まれており、多少なりそこに触れないワケにはいきませんので、得手でない方はご了承ください。また、読まれる前の方には多分なネタバレも含むかと思いますのでそこもご容赦ください。
さて、ご本人はこの作品を『BLファンタジー』と説明されていて、確かにその通り、主人公の青年2人──舞師アシュディンと楽師ハーヴィド──の関係を柱としたファンタジーです。
けれど、敢えて私が言わせていただくとするならば、どんなジャンルにも当てはまるのではないかと思えるくらいの要素が盛り込まれています。とはいえ、伏線が張り巡らされながらも主軸がブレることはありません。
帝国が抱える舞踏集団の正統な血筋を初代から受け継ぐ後継者アシュディン。
血筋こそ受け継いでいないものの、かつて初代舞師の頃にはともに帝国に在った楽師から楽の知識・技術・歴史──伝えられたすべてを何代にも渡って守って来たハーヴィド。
彼らはそれこそ『運命』としか考えられないような出会いを果たします。
互いの存在を求める初代たちの導き、とも言い換えられるかも知れません。
互いを理解し合う過程は、舞師と楽師の歴史、謎をも紐解いてゆく過程でもあり、自分たちの進むべき道を探りながら、やがて国の命運を揺るがす過酷な時流に飲み込まれてゆきます。
もう、ここだけで既に歴史大河ロマンとも言い換えられると思うのです。(もちろん帝国名など架空ではありますが)
そして、文化、謎、冒険、裏切り、情愛の物語でもあります。
二人が互いを想う気持ち以外の様々な愛。アシュディンと姉の姉弟愛、脇役(というには出番が多い)たちの家族の情、幼い少年に対する優しい眼差しなど、登場人物がそれぞれの人生を躍動しています。ええ、悪役たちでさえも。
何より壮大な神話であるとも言えると思うのです。
矢口れんとさんは『神話創作文芸部ストーリア(旧・note神話部)』の部長でもあるのですが、実はこの物語、神話に関連しているとご本人が判断した数話だけに神話部のタグがついています。けれど、私はこの物語全体を創作神話に見立てても良いと思っています。
その理由を語ると明後日の方向に行ってしまうのでここでは語りませんが(笑)。
前々から矢口さんの小説(エッセイも)は大好きなのですが、綿密に練られたストーリーはとにかく展開に無理がなく(意表は突かれるけど意味不明だったり突拍子のない展開ではないという意味です)、伏線の張り巡らせ方、回収に至るまで組み立てられていて、今回も唸り続けてしまいました。
実はBLがそれほど得手ではないにも関わらず、つまりそこにばかり意識が行ってしまう、展開ではないと言うことなんですよね。気になることが他にたくさんたくさんあるワケです。
そのひとつとして、音楽や舞踏といった、目で耳での体感を主体とするものの描写を、見事なまでに文で表現されているということを挙げておきます。
現在軸の『アシュディンとハーヴィド』、初代軸の『ディ・シュアンとエル・ハーヴィド』をそれぞれ主人公とした群像劇として、ロマンスとして、歴史大河として、ファンタジーとして、もちろん神話としても、BLやファンタジー、歴史、神話好きな方はもちろん純粋なエンタメとして様々な角度からも楽しめる物語なのではないかと思います。
乱文、失礼致しました。