〘お題de神話〙Rejected
キプロス島の王ピュグマリオンは
現実の女性に失望し
自ら彫刻した像ガラテアに恋をした
叶わぬ恋に衰弱する姿を見かね
アフロディーテは彫像に命を宿した
ガラテアを娶り
ピュグマリオンの恋は成就した
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一人部屋に籠り、男は黙々と粘土を捏ねていた。
「もう少しだ……」
傍らの壺から中身を足しては同じ作業を繰り返す。
「よし」
すっかり練り込むと長方形に整えた。男の背丈よりやや低い。
「ここからだ」
男はそれを手で整形し始めた。彫る、と言うよりは捏ねる工程に近い。
「彫れば欠片が出る。少しも無駄には出来ない。全て大切に使わねば……」
何やら呟く集中力は尋常でなく、作業は何日にも及んだ。
「出来た!」
目を輝かせる男の前に、微笑む女の像が立っていた。
「まさに理想……! 愛しい人、目を覚ましておくれ! その為にヘカテからアフロディーテより優れた方法を授かったのだ!」
狂喜したものの、像は一向に変化しなかった。声を発するどころかピクリともしない。
「何故だ! 美徳を持つ魂、その輝く部位のみを望む姿に造り上げれば、生きた理想が誕生するのではなかったのか!?」
具現化した理想像を前に、男は愕然とした。同時に騙されたのではないかと疑念が湧く。
「ヘカテよ! これは一体どうした事か! 代償として、死して後の我が魂をも捧げたと言うのに!」
その時、微笑む像の口元が微かに動いた。まるで男を嘲笑うかのように。
「何だ? どうしたと言うのだ?」
驚く男の目に、像の表面を走る亀裂が映った。少しずつ広がって行き、ついには崩れだす。
「やめろ! 何故崩れる! やっと完成したと言うのに!」
押さえても、もはや止められるものではなかった。
「何故だ……一体、何がどうして……」
膝から崩れた男は、粉々になった残骸を見つめて呻いた。すると、背後の闇からヘカテが姿を現した。
「ヘカテ! これはどういう事だ!」
怒り狂う男を、ヘカテは冷たい眼で見据えた。
「それがお前の理想像だったのか?」
「そうだ。ヘカテ……そなたから授かったこの粉に魂を練り込み、思うままに造れば理想の女になるのではなかったのか!」
「その通りだ」
「ならば……」
「だが」
ヘカテが男の言葉を遮った。
「お前の理想が、お前を拒んだと言う事よ」
目を見開く男に言い放つ。
「残念だったな。理想の像は手に入れられても、女の理想像が手に入らぬとは」
成す術もなく、男は頽れた。
ヘカテは無言のまま背を向け、今度は闇に溶けて行った。
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