〘お題de神話〙 毒を以て
「何処へなりとゆくがいい」
男が言った。
はらりと落ちたひと粒の涙が、女の手にある酒杯へ吸い込まれる。
「せめて最後の杯を……」
差し出された酒杯に手を伸ばした時、年配の男が声を上げた。
「王! 飲んではなりません!」
だが、男は静かに酒杯を受け取った。
「アリストテレスよ。案ずることはない。私には英雄ヘラクレスとアキレスの加護がある。何より『決して負けぬ』と神託を賜ったのだから」
男の名はアレクサンドロス3世。後に大王と呼ばれる男である。
*
友好の証として贈られた女は、誰もが息を飲む美しさだった。
立ち居振る舞いも申し分なく、さしものアレクサンドロスも妻に迎える選択肢が過った。
それでも彼は、結論を下す前に師であるアリストテレスへの相談を怠らなかった。
婦女子への処遇には定評のあるアレクサンドロスだったが、それは必ずしも高潔だからと言うだけではない。警戒すべき『立場』にあったからだ。
案の定、師からの返信は否。すぐにもアレクサンドロスの元に向かうと認められていた。
「やはり──」
ため息と共に落胆の声が洩れる。
殺すには躊躇いがあった。しかし、師への信頼も絶対である。
「思案の時よ」
触れず殺さず、師の到着を待つことにした。
アリストテレスは、ひと目で暗殺者として作られた女だと気づいた。生まれた時から毒を摂取し続け、肉体を武器とされた存在──触れればもちろんのこと、長く傍にいるだけで毒気に当てられると。
「即刻、始末するべきです」
師の判断は正しいと知りつつ、アレクサンドロスは良しとしなかった。
「放逐とする。今後、私の前に姿を見せた時には容赦せぬ」
アリストテレスもそれ以上は言及しなかった。
*
受け取った酒杯を、アレクサンドロスは一気に呷った。
「これで満足か?」
すると、頭を垂れた女が小瓶を差し出した。
「これは?」
「わたくしの毒から作った解毒薬です。どのような毒であろうと効きましょう」
「何故、私に?」
「貴方様こそ真の王、だからにございます」
首を傾げるアレクサンドロスに、
「……お役に立つこともありましょう」
そう言って女は顔を上げた。
「役目を果たせなかった者の末路はひとつ。なれば、残るは鏖殺……貴方様がわたくしの杯を拒んでいたならば……」
周囲がどよめく中、女が少しづつ後退り、窓の際に立った。
「そなた、名は何と申す」
女は艶やかに微笑み、答えた。
「全ての蛇の王……」
******
マケドニア王アレクサンドロス3世は、ギリシャ神話に於けるヘラクレスとアキレスの子孫であるとされており、本人もそれを誇りにしていた、らしいですw(出た『らしい』『言われている』の応酬www)
そして、確かに敵国の貴人への礼節を弁えていた、とも記述されています。私は個人的には暗殺とかを警戒していたのもあるんじゃないかな~と思ってはいますが、人柄はいいに越したことはありません。ええ、例えパフォーマンスを含んでいたとしても。
そして、毒殺されかかったらしい、と言う記録もあるようです。
ちなみに『バシリスク』とはギリシャ語で『小さき王』『全ての蛇の王』と言う意味で、王冠を彷彿とさせる頭部を持ち、直立して進むのだとか。
また、傍に寄るだけで毒に当てられ、まあ、まず死ぬらしいので姿も想像でしかないようですw
日本にも『走り蛇』の伝承が残るところがあるようで、特徴がバシリスクに似ているそうですが、何と言うか名前の音も似ていると言うかwww
逆に『ハシリドコロ』と言う植物の姿が似ていて間違えられたとか、この毒を服用すると苦しさで狂ったように走り回るからとか、何か色々説はあるみたいですwww(やはり『~みたい』で終わるw)
アレクサンドロス3世は若くして突然死しているので跡目争いが壮絶だったらしく、家臣たちによって領地は大まかに3つだか4つに分割され、そのうちの一つがエジプトのプトレマイオス朝。
そう、その子孫にはプトレマイオス朝最後の王クレオパトラ七世がいるワケです。彼女は本来エジプト人じゃなくてギリシャ人がルーツってことですかね。
そうそう、『クレオパトラ』と言う有名な古い映画に、シーザーに会うために絨毯で簀巻きにされて運ばれたクレオパトラがゴロンゴロンされるシーンがあります。あれ、絶対圧死するよなと思いながら観てた記憶がありますw(どーでもいいwww)
なんか毎度思い浮かばなくてすんまそん!w
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