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〘周年企画2023〙 テーマ『風 ✕ 年末年始』
神話創作文芸部ストーリア(旧・note神話部)創立4周年記念企画参加作品です。
企画のご案内はコチラ↓
昨日のスタートは我らが 部長・矢口れんと氏 が切ってくださり、不肖・唐揚げゆーりんちーことこの悠凜が次鋒を取らせていただきます!
今回は、4周年に掛けて4つのテーマを二組(花・鳥・風・月✕龍・家事・巡礼・年末年始)捻出して組み合わせると言うもので、何と何の組み合わせに当たるかは厳正たる阿弥陀籤で決定致しました!
ワタクシが当たりましたのは……
風 ✕ 年末年始
……乞うご期待!……はしないでぬるい感じで見ていただけると助かります!www😂
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『風がはこぶだろう』
「……来たな」
一番上手に座す男が、ひとり言のように洩らした。
「おお、いよいよですな」
集っていた者たちがその声に応じる。
──……ォーーーン……──
遥か遠くから微かに響いて来る、重厚な、それでいて良く通る音に耳を傾ける。
「壮麗さや賑々しく祝う様も良いが、やはりこの音の荘厳さは別格……いや、厳粛と言った方がしっくり来るか……厳かに迎えるに相応しい風情だ」
「まさに……」
目を閉じ、皆、はこばれて来る音に聞き入った。
✡
宇宙の一角に、神々の庭として惑星が創られ、植物以外の生命は未だ生まれていない頃。
そして、後に〈地球〉と呼ばれることになるこの惑星に、まだ名前がなかった頃のこと。
「創造主がこの庭に移りゆく時の流れを組み込みたいと仰せなのだ。どのようにするが良いと思う?」
後にギリシャと呼ばれることになる地のゼウスが、神々の集いの席で訊ねた。
「移りゆく時の流れ、でございますか……」
「うむ。目、耳、鼻、肌だけでなく、心情としても感じたいのだそうだ」
創造主も不思議なことを言うものだと、皆が首を傾げる。
「難しいですな」
「しかしながら、憩いの場である『庭』に変化がなければ確かに飽きますな」
「だが、地域単位でどうにかなる問題ではないな。事が庭全域の問題であらば連携せねばなるまいぞ。他の地域もさぞかし悩んでいるに違いない」
「ふむ……」
皆が腕組みをして考え込んでいると、やがて一柱の神が静かに口を開いた。
「ひとつひとつ解決してゆきましょう」
そう言ったのは知恵の女神メティスである。
「ひとつひとつ……確かにそうかも知れぬが、そもそもどこから、何から紐解いてゆくべきか……」
「メティス。そなたはどこから手を付ければ良いと考えておる?」
ゼウスが問うと、一堂、興味深げにメティスに注目した。
「私なら、まずは“緑”から考えます」
「ほう」
「時の移ろいを最もわかりやすく感じるもの……私はそれを目で見た風景と考えています。ですから、花や葉、植物全般の色や形態を変化させることから始めます」
「そうすれば如何にも時が流れたように見えると言うことか」
「また、その時々に咲く花が変化すれば匂いでも感じることが出来ます。朽ちてゆく音も……」
「なるほど。鼻と耳で感じることが出来るようになるのだな」
感心してうなずく。
「それだけでなく、節目節目に特有の雨や雪、雲を用い、温度や湿度に変化を与えれば肌で感じることも可能です」
メティスの言葉に皆が「おお……」と声を挙げた。特に、今挙げられた事象を司る神々は誇らしげでさえある。
「さすがは知恵の女神」
しかし、これで全ての問題が解決したわけではなかった。
「確か主は、この惑星を創った折、少し軸を傾けたと仰っていたとか……」
「うむ。均等にヘリオスの加護が届くよう、ぐるりと回すようだ」
「……均等じゃなくないか?(上とか下とか)」
「いやいや、その上、太陽の周りを周回させるとも聞いたぞ」
「何故だ……」
却って謎が増えたことに嘆息する。
「皆の疑問は良くわかる。私も不思議に思い、主に訊ねた」
「して、その心は?」
皆が身を乗り出した。
「宇宙と同じくこの庭にも風を廻らせれば、様々な動きが生じるのだそうだ。そのために必要不可欠なのだ、と……」
「……風が時の流れを感じさせ、季節の変化をもはこぶ……と言う感じなのでしょうか?」
「…………恐らくな。ま、まあ、そこはアイオロスの腕の見せ所と言うやつだな」
そう言って、ゼウスは自信なさげな物言いを隠すように咳払いした。
「あー……それとな。我ら以外の生物も住まわせるおつもりらしい」
「我ら以外?」
「それはまた一体……」
さらに深まる謎に、再び顔を見合わせる。
「植物以外の生命体を創りたいそうだ」
「観賞用に、と言うことですか?」
「どうやら、それだけではないらしい。神獣に似た生物だけでなく、我らの姿形を模した生物も創るおつもりなのだとか……」
「「「我らに似た……」」」
皆のつぶやきにゼウスがうなずいた。
「各地の適性に合った生物を生み出し、独立した状態でそれぞれどのようになってゆくのか興味があると……」
「……いや、それ、観賞用ですよね?」
「…………そうとも言う。もっと正確に言うと観察、かも知れぬが」
「何故だ……」
その時である。
「ん……」
それまで黙していた一柱が唐突に口を開いた。
「……これはなかなか面白いものが見られそうだ」
「アポロンよ。何か視えたのか?」
ゼウスが息子・アポロンに問うた。彼には予言の力があった。
「ええ、父上」
「ほう……して、何が視えたのだ?」
「まあまあ、そう急かさずに」
皆のせっつきをふわりと躱す。
「主が“時のうつろい”を組み込もうとしている理由は、生きとし生けるものに“区切り”を与えるためのようですね」
「区切り……」
「そうです。区切りを設けなければ永遠に生き続けることになり、やがてこの庭は生命であふれてしまうでしょう」
「確かに。先ほどメティスが植物を変化させると言っていたが、全ての生物に施すと言うことだな」
アポロンは自身が視た遥かな未来を語った。
彼の目に映った未来に於いて、生み出された生命たちが激的に変化してゆくこと。
予測、目測、観測、あらゆる手段を駆使し、それぞれの地域で、それぞれの環境に基づいた文化を構築してゆくこと。
そして、その中で〈暦〉が確立され、区切る瞬間が定められること。
「特に東の果てに於いて、その前後に独自の慣わしが構築されるようです」
「東の果て?」
「どのような?」
「我らの庭はこれからとてつもない変化を見せてくれる、と言うことです」
皆のその疑問には答えず、代わりにアポロンはやんわりとした笑みを浮かべた。
「だが、それならやはり他の神々とも連携を取る必要があるな……ううむ……」
「もう、やってみるしかないのではないか?」
「そのようだな」
こうして各々役目を果たすべく、各地の神々と折り合いをつけに話し合いの場へと向かった。
それがいつのことだったやら──。
✡
「今の鐘の音は何回目だ?」
「忘れたが、そろそろだろう」
「そなた、ホントは端から数えてないだろう」
〈地球〉と呼ばれるようになった惑星──神々にとっての庭──が豊かな光景をたたえるようになって早∞万年の歳月が流れている。
様々な生物が生み出される過程で、神々は自分たちと同じ〈形〉の生命体をも創り出していた。
即ち、〈人〉である。
「生物を配して後、この庭はますます活気に満ち、美しさも増しておるな」
「時折、〈人〉と言う生き物は困りごとを引き起こすが、それもまあ、見ていて飽きないしな。そなたもそうは思わぬか?」
「確かに……(時折吹っ飛ばしたくはなるけど)」
答えたのは、風を司るアイオロスだった。
「〈人〉を含めた生物が、その文化が、ここまで変化するとは思いませんでした」
「うむ、確かに。ここまで様々な発展を遂げるとはな」
「あの時、アポロン様が言ったように、“区切りを迎える日“新たに始まる日”……そこに重きを置き、厳かに過ごす〈地〉が生まれ出たことにも驚いております」
時を司るクロノスの言葉に、懐かしむように皆が一様にうなずく。
いつからか、彼らは東の地の某国からはこばれて来る鐘の音に聞き入るようになっていた。他の地域とはやや異なる〈年末年始〉の概念と、そこに重きを置く独自の文化、それに見合う厳粛な音色に。
「それにしても、時の移ろいを伝達すべく、アネモイに他地域の風神と連携して惑星を廻らせておりますが……音を遠くへとはこぶのは難しいようです」
時の移ろいを大気に乗せてはこんでいるのは、アイオロス率いるアネモイたちだった。もちろん指揮はアイオロスが取っている。
「何を言う。そなたたちは立派に各地の“区切りの瞬間”をはこんで来てくれておる」
ゼウスの言葉に、他の神々もうなずいた。
「そうとも。そなたたちのお陰で今年も大晦日の良き音色を聞けた。素晴らしい年始を迎えられたぞ」
「その通りだ」
そうして皆が〈除夜の鐘〉の余韻に浸ろうとした時である。
「あのー……」
雰囲気に割り込んだのはクロノスだった。
「……皆さん、お忘れのようなので言っておきますが、この国はまだ全然年を越していませんからね(時差)」
「「「あ」」」
おしまい
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12月16日(確か……)、我が神話創作文芸部ストーリアは創立記念日でした!
4周年と言うことは、そのほとんどが567禍だったワケですが、神話大好き部員さんたちのお陰で無事に今年も周年企画を開催することが出来ました✨
明日は 吉田翠さん です!
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