南条(Nanjyo)

テーマを決めて小説を書くチャレンジをしています。 ミステリとエッセイが好き。

南条(Nanjyo)

テーマを決めて小説を書くチャレンジをしています。 ミステリとエッセイが好き。

最近の記事

短編小説「ホワイトチョコレート」

「どうして?」 谷中謙一は目の前で倒れている女性を見つめて、そう呟いた。 どこかで見たことがあるような気もするが、誰なのか思い出せない。 謙一は周囲の人に介抱されている女性をただただ見つめることしか出来なかった。しばらくすると誰かが呼んでくれたらしい救急車が到着して、その女性は運ばれていった。 謙一はその後すぐ到着した警察に事情を聞かれることになった。 今、謙一は刺される所だったのだ。そう理解するのに、かなり時間を費やした。まさか自分が。そう思うばかりで、現実を到底受け入れ

    • 短編小説「駅のホーム」

      柚子はまた、この町に帰ってきた。 電車を降りてホームに立つ。 古びたベンチには誰も座っていない。 少し休憩するつもりで、柚子はとりあえずそのベンチに腰をおろした。 駅のホームからは見慣れた光景が見える。 この町は何も変わっていないことが、目の前の景色からも読み取れた。 柚子は中学校を卒業して以来、この町に帰っていなかった。 柚子は高校入学と共にこの町を出たが、柚子の家族もまた、父親の仕事の転勤で引っ越していたから、この町に柚子が帰る場所はどこにもなかった。 どうして帰ってく

      • 短編小説「宇宙人」

        サトルには探し人がいる。 中学校の同級生だったレイだ。 レイとは中学校を卒業した後、一週間だけ付き合った。 レイから告白された時、サトルは舞い上がってしまいとても恥ずかしかったのを今でも覚えている。 中学校を卒業した後、レイは遠くに引っ越すことになっていた。 引っ越した後もサトルは関係を続けるつもりだったが、引っ越し先の住所や連絡先を聞いても上手くはぐらかされてしまい、サトルはそれっきりレイとは連絡が取れなくなった。 それどころか、おかしなことが起こった。 中学校の同級生や先

        • 短編小説「秘密基地」

          月子には秘密基地がある。 自宅近くの高台にある神社だ。 何かムシャクシャしたことがあると、夜中に家族の目を盗んでこっそりその神社に行くことが、月子のストレス発散法の一つになっていた。 月子の部屋は二階にある。 とある映画で、主人公が二階の自室からこっそり抜け出して夜の街に繰り出すシーンを見てから、月子はまるで自分が映画の主人公にでもなったかのような気分で部屋を抜け出し、夜な夜なその神社へ向かっていた。 昼間に行くと訪問者が割といるが、夜中は全く人がおらず、人目を気にせず空を

        短編小説「ホワイトチョコレート」

          短編小説「ピアノの音色」

          楓の住む町の駅にはピアノが置いてある。 立派なグランドピアノだ。 寂れた駅には似合わないなと楓は思っていた。 そのピアノは山奥の閉校された小学校から譲り受けたものらしい。 楓が学生の頃は、毎日のように誰かがピアノを弾いていたが、ここ最近はそういった光景もほとんど見られなかった。 楓がいつものように通勤しようと駅へ向かうと、優しいピアノの音色が流れたきた。 昔どこかで聞いたような懐かしさのあるメロディだった。 楓は曲名が思い出せず悶々としながら駅までの道を急いだ。 駅へと続く

          短編小説「ピアノの音色」

          短編小説「ファンの鏡」

          悠斗は自分の鼓動が早くなるのを感じた。 「まじかよ・・・。」 目の前に倒れているに声を緑掛ける。 「緑!おい、起きろ!」 何度呼びかけても、返事が返ってくることはない。 喧嘩をしてちょっと突き飛ばしただけなのに、なんでこんなことになってしまったのか、悠斗はパニックになっていた。 次の日の朝、悠斗は警察署で取り調べを受けていた。 「あなた、月島緑さんとお付き合いされていたんですよね?」 警察官にそう聞かれ、「はい。」と力なく答えた。 「ニュースを見て驚きました。なんで緑が・・

          短編小説「ファンの鏡」

          本の謎 

          家のマンションの近くで女性の遺体が見つかったらしい。 その女性は頭部に外傷があり、何者かに殺されたのかもしれない、ということを隣人の佐々木さんが吹聴して回っていた。 佐々木さんは地域で有名な、噂好きのオバサンだ。野次馬根性が強く、地域のゴシップで知らないことはないらしい。 いつも聞いていないのに、地域のゴシップを嬉々として話してくる。 ウンザリすることもあるが、暇を持て余している私には都合の良い人間だ。 佐々木さん曰く、その女性は文庫本を右手に持って亡くなっていたらしい。 そ

          夜景

          宝くじが当たった。一億円だ。 三波は心臓の動悸が止まらなかった。 数日前、なんとなく足を運んだスーパーの横に宝くじ売り場があった。 三波は宝くじの当選確率がかなり低いことを知っていたので、当たるわけなんてないとは思いつつ、なんとなく購入してみたのだった。 「嘘でしょ・・・。一億円?」 こんなに0が並んでいるものを見たことが無い。 三波はこのお金をどうしようかと考えた。 三波は全てが上手くいっていなかった。 高校卒業後、自分を変えたくて、家族から逃げたくて上京したが、お金の無

          散歩道(60作目)

          高橋陽一郎は散歩が趣味だ。 毎朝早く目が覚めるので、その時間を有意義に使いたいと考えた結果だった。 仕事を定年退職してからの唯一と趣味と言える。 陽一郎は結婚しておらず、もちろん子供も孫もいない為ずっと1人で暮らしてきた。 定年した後にこの街に越してきたから、友人と呼べる人間もいない。 この街を知る為に、陽一郎は歩いている。 毎朝歩いていると、何度も同じ人間を見かけるようになってくる。 健康の為に歩いていそうな女性や、陽一郎と同じように時間を持て余していそうな男性、ペットを

          散歩道(60作目)

          #4 テストで得たもの

          とあるテストを受けた。 初心者の分野だったのに、どこか、大体解けるだろうと甘い考えを持っていた。 事前にどういったものが出題されるかは聞いていて、指示書があるからその通りにすれば、割と高得点が取れると踏んでいた。 だけど実際は、スタートの時点から上手くいかなかった。 たぶん、同じテストを受けた他の人は躓かないような最初の一歩で躓いた。 その後もいちいち躓いて、その度に諦めそうになった。 元々、自分で考えるよりも人に聞いてしまう癖があったから、試験中なのに先生にどうしたらよい

          #4 テストで得たもの

          心残り(59作目)

          亜美はコンビニのイートインスペースでおにぎりを食べていた。SNSを観ながら暇を潰す。今日の仕事もつまらない。 なんとなく顔をあげると、目の前を様々な人が通り過ぎていく。 誰も亜美の方を見ない。 亜美は自分が、誰かの景色と同化しているのだと感じた。 二個目のおにぎりを食べようとしたとき、亜美は反対側の歩道に知り合いを見つけた。 カフェのテラス席に座ってパソコンを操作している。 彼は、亜美の中学生時代のクラスメイトだ。 どうして亜美が、彼のことを遠目でも分かったのかというと、亜

          心残り(59作目)

          祖母と孫(58作目)

          佑太はずっとほったらかされていた祖母の家を片付けることになった。 祖母の家は田舎にあり、近くに住む親せきは誰もいなかった。 祖母が亡くなってから親戚が月替わりで家の換気をしたり掃除をしたりしていた。 佑太の家からは、父親の雄一郎だけが定期的に掃除に行っていた。 今月、優一郎は長期出張に出ることになり、佑太に掃除を頼んできた。 家でどう過ごしても良いし、ホカンスにどうだと言われ、佑太の心は揺らいだ。 面倒くさい気持ちもあったが、田舎で暮らしてみたい気持ちが勝ち、佑太は1ヶ月間祖

          祖母と孫(58作目)

          家族の行方(57作目)

          弥生は前の席の家族の様子が気になっていた。 入口近くのテーブル席に弥生が座っており、通路を挟んだ目の前のソファ席に家族が座っていた。 父親、母親、小学生くらいの男の子二人の四人は、周囲の目も気にせず、ガツガツと食事を取っていた。 ドリンクを取りに行く時になんとなく彼らの様子を見てみると、四人で一枚の紙を見つめていることに気がついた。 怪しまれないよう、さっとしか紙を見ることは出来なかったが、その紙はどこかの家の見取り図のように見えた。 弥生が席に戻ってくると、丁度父親らしき

          家族の行方(57作目)

          卵の殻(56作目)

          単身者向けのマンションで刺殺体が発見された。 被害者は二十代の男性で、近くの証券会社に勤めているサラリーマンだった。 連休明けに出社してこないのを不審に思った会社の同僚が家を訪ねたところ、家の鍵が開いていて、中に倒れている住人を発見したそうだ。 家の中に荒らされた様子はなく、貴重品を盗られた様子も見受けられない為、捜査の早い段階で、顔見知りによる犯行ではないかと考えられていた。 林壮太は今年刑事になったばかりの後輩の野本を連れて、被害者の自宅を捜査することになった。 林はキ

          卵の殻(56作目)

          黒いコートの女(55作目)

          「またいる。」 健吾は電柱の影に佇む女を横目で見て、その不気味さに怯えていた。 恭一との待ち合わせ場所で待っていると、黒いコートの女が自分の方を向いている気がしたのだ。 数分後に恭一がやってきた。 「おはよう。」 爽やかに挨拶をする恭一に対して、健吾は沈んだ声で「おはよう。」と言った。 「なんだ?暗くないか?」 「いや、あそこの電柱の影に黒いコートを着た女の人がいるだろ?」 健吾は女の方を見ないで恭一にそう言った。 「電柱?誰もいないけど。」 「えっ?」 健吾が振り返ると、電

          黒いコートの女(55作目)

          仲直りはオムライスで(54作目)

          「どうして分かってくれないの?」 美樹は溜まっていたものを吐き出した。 そのままハンドバックだけを手に持ち、家を飛び出した。 行先は決まっている。 一駅先に住んでいる、親友の雅の家だ。 雅はいつも、怪訝な顔をしながらも受け入れてくれる。 雅の家のドアをノックすると、中から雅が出て来た。 「あんた、また来たの?しょうがないから、入りな。」 「ありがとう。」 雅の家は万年炬燵が出ている。 美樹は買ってきたものを炬燵の家に広げて、勝手に晩酌をし始めた。 「ちょっと、人様の家で勝手

          仲直りはオムライスで(54作目)