前兆
そうだ、リョウコが病気を発症したのは
私には明らかなる前兆があった
リョウコの小さな時からの
本当に小さな時からの
たとえようもない
いら立ちや
憎しみのようなもの
私の言うことを聞かないということと
言っていても全く伝わらないイライラ
それを差し引いても
何故かわからない
激しい怒りに似たものが
リョウコに対して沸いてくる
その鋭いナイフのような気持でずっとリョウコに接していた私は
いつかリョウコが
私に歯向かってくる
途方もなく
大きな大きな
災難、がやってくるという
予感がずっとあった
それは完全に私が仕組んでいたんだけれど
リョウコが発症して
思考は現実化するということが
私に腑に落ちた
私が恐れていた一番のこと
それは目に見えない
得体のしれない大きな大きな
黒い魔物のような塊が私に襲い掛かるという
恐怖心だった
いつか必ずそれは私に襲うものだった
私はその時、どうすればいいのか
わからなかった
ただただ
おびえていた
それがリョウコの病気の発症であり
リョウコの言葉だった
「お母さんは
なんで
私をキャンプに行かせたん?
嫌やったのに
何で行かせたん?」
という質問が一番怖かった
あんたのことが嫌いやったからやん!
でも
一番こわかったんは
なんでそんなに
あんたのことが嫌いなんかが
全くわからんかったってこと
その怒りや不安は
リョウコに対してと同時に
自分に対しても常に
刃物で身体を傷つけるように
「なんでそんなに娘が嫌いなんや
それはおかしい、
ダメな母親だ
ダメな人間だ
あんたは、だめだ」って
ずっとずっと
切り付け続けてきたんだ
そのことが
不安やったってこと
どうしたらいいんか
私にはわからんかった
そしてリョウコに対して
大嫌いやったなんて
そんなことを言って
リョウコが傷ついたら
私をもっともっと大嫌いになって
そして
自分を傷つけたらどうしようって
それも怖かったんや
ぜんぶぜんぶ
恐怖と不安が混じってたってこと
それが
今目の前にあった
現実となって現れているんだって