嫌な予感
このままではこの子がだめになる
きっと何かが起こる
って心の奥でずっと思っていた
それは
毎日毎日
海底に沈めても沈めても
何かの拍子に浮かんでくる
ヘドロのような感情だった
自分の感情を抑えることができず
小さいリョウコにつらい態度を続ける毎日だった
なぜかわからない
リョウコに対するイライラがいつもあった
何歳ころからかよく覚えていないが
はっきりしたのは3歳ころからかもしれない
ひどい暴力は振るわなかったが
精神的な暴力をふるっていた
言葉による暴力
心理的な虐待だったと思う
今から思えば
リョウコは必死で私の期待に応えようと
死ぬ気で耐えていたのだろう
頑張ることを強制的に敷いていた
リョウコは本来はとてもとてもナイーブで
自由なこだった
思ったことをすぐ言ったし
やりたいことをとてもやりたがった
そして面白くなければすぐにやめる
面白そうな人とはすぐに一緒に遊びに行く
面白いことが終わるとすぐに退屈になって
楽しいことをいつもいつもやりたがった
その自由さと奔放さが
私には受け入れられなかった
私のいう事を聞かない
私の手に負えない
っていつも感じていた
私はあなたの母なのに
なんで私のいう事を聞かない
なんで私の言葉の意味がわからないのか
私にはわからなくて
イライラした
リョウコは
必死で勉強していても
物覚えが悪く
テストの点数は良くない
そして、気が利かないから
手伝いも全然できない
というか、私自身が
面倒くさくて教える気にならない
自分勝手だ
お母さんに手間ばっかりかけて
尻ぬぐいばっかりさせて
頭が悪いんだから、せめてもっとしっかりしなさい
自分のことは自分でしなさい
人に頼るな
甘えるな
人に好かれなさい
頼られる人になりなさい
もう、エンドレスでリョウコに
ダメ出しし続けていた
保育園の時のことを思い出す
毎晩一緒に寝ていても
リョウコだけは保育所のことを思い出し
文句を言いだす
毎晩必ずと言っていいほど
文句を言うリョウコだった
小学校の時は
なぜか自分のことを「僕」といったりした
私には理解できなかったから
無性にイライラしたものだ
お兄ちゃんは頑張ってやる「チャレンジ」をまったくやらない
本も読まない
勉強を教えても全くやる気がなくて私が教えているのに途中で居眠りする
お兄ちゃんは二人ともそんなことなかった
なんで女の子なのに
こんなに違う????
わからないことだらけだった
私はリョウコにかわいい服を買う気にならず
いつもお兄ちゃんのおさがりばかり着せたりしていた
でも、お兄ちゃん大好きだったリョウコはそんなことは
気にならなかったようだ
5年生頃からりょうこは
お友達と遊びたいけれど
あまりお友達ができなくて
退屈そうで、あまり楽しくなさそうな
毎日を過ごしていた
私はリョウコ自身が
文句ばかり言っているからだ
もっと仲良くできないのは自分の責任だ
なんて思っていた
そんなリョウコは
周りの目をとても気にする
自分に自信のない子に成長したように私には見えた
でも、リョウコなりにもう必死だったんだろうと思う
高校は「演劇科」というところに入学
芸能界デビューを夢見ていた
その前に劇団にも入学した
小学校の卒業の卒業文集で
「女優になる」って書いていたリョウコ
キラキラした、世界にとてもあこがれていたんだろう
急に入った劇団と演劇科
毎日毎日時間に追われる日々が始まった
演劇の世界は想像以上に厳しかった
初めてのことばかりの激しい練習の日々に追われていた
ダンスのためのトレーニング
歌のためのトレーニング
演劇のための練習
そして、勉強
朝練から残りの練習
毎日5時30分おき帰りは9時になることもあった
帰ってきても
ダンスの練習や演劇の舞台の衣装つくりをずっとやっていた
くたくたになって帰ってきても
リョウコはほなとうに必死でダンスの練習をした
家の中で練習、それも畳の上で
ダンスをするから畳が破れた
本当にけなげに頑張っていた
ダンスの練習は仕方ないとしても
衣装も生徒同士で手作りしていた
リョウコはそんなに手が器用ではなかったから
裁縫はとても苦手だった
布の用意・ミシンの用意・お裁縫
何を隠そう、私はお裁縫が苦手で手伝えない
リョウコは一人でやるしかなかった
もう必死で寝る時間を惜しんでお裁縫をしていた
そんな彼女を「がんばれ」っていうのではなく
私は冷ややかに見つめていた
私のなかにある
彼女へのあまりにも冷ややかなこの気持ち
何かわからない
私の中にあるこのどうしようもない
暗い冷たい氷のような感情を
どうしようもなかった
でも、同時に
このままではいけないと思う
リョウコにこんな冷たい気持ちで接していたら
リョウコの心が壊れそうなそんな気がしてならなかった
何か起こりそうな気がする
それも
とても悪いことが起こりそうな気がする
って
心の奥底で感じていた
そして、それはある日
現実になった