美術の物語
美術の正史で、20世紀後半の視覚文化の基礎になったとも言える、
E.Hゴンブリッチの『美術の物語』
この本を今日はご紹介したいと思います。
その前に思い出話を少しだけ。
私が最初に好きになった画家はモネでした。モネの絵が好きになり、モネに関する書物を読むうちにモネの思考や人生が好きになりました。
モネは物体と水流との間に水というフィルターをいかに張るかを研究し続けていた画家なのではないでしょう。
そしてそのレイヤーを更に研究し続けてきたのが、ドイツの画家であるリヒターなのではないでしょうか。
彼は蝋燭の絵が1番分かりやすいように、2本のうち1本をぼかすことで、観る側は鏡というフィルターをそこに見出す。そのフィルターとは何なのか。
バラの花瓶を描いて、絵具が乾く前に筆でささっとボヤかすことで、カメラのピントを合わせる一瞬前のファインダーを、そこに存在させてみたり。
その突如現れるフィルターは何なのか。彼なりのその答えが、「ストライプ」という絵だけれど、何故それが答えなのかは私にはもちろん全然分かりません。
リヒターがモネの影響を受けたように、モネは少なからず日本の浮世絵にも影響を受けているといいますね。
そしてその日本も中国ありきの進化を遂げてきたはず。書道にしても山水画にしても。
そんな美術の、国も年代も越えて混ざり刺激し合い、常に繋がりあうところに魅力を感じるようになりました。
そして決めた、大学の卒業旅行は
"それを自分の目で見に行こう"でした。
英語もてんでダメなのに思いつきと勢いで、一人ヨーロッパに行ってしまったおかげで、乗り継ぎ間違いを恐れてメトロは使えず。毎日歩くことを決意。
毎夜、地図を広げて徒歩ルートの一人作戦会議。
行きたい美術館や建物を30個以上リストアップしていたので、1日10キロ以上歩きながら、目的地を4つ5つはしごする毎日。
そんなとき、蘇る言葉は父の言った
"得たい知識があれば、自分の足を使いなさい。楽して得ようとすればそれはとても薄っぺらいものになる"
その言葉を噛み締めながら毎日自分の足だけで繰り出す、パリやフィレンツェ、ベネツィアは何だか格別なものでした。
そして帰国後、
E.Hゴンブリッチの『美術の物語』に出会うのです。
この本はただの時系列に起きた出来事を順番に並べ立てるような無機質な美術史ではなく。
名前の『物語』が意味するように、
常に人が介入しているものなのです。
しかも面白いことに作者が実際に見た作品しか載せていないということ。
そしてそれぞれの時代を生きた人たちの足跡が、年代や派閥で整理されることなく、脈々と現代にまで続いている様が思い浮かぶような本なのです。
本の分厚さに対して、構成は5分の3が、作品がカラーで載っているので、作品の説明と照らし合わせながら読み進められるのです。まるで良質な美術館巡りをしている心地です。
美術を勉強するのに入門書といえる本なのだと思います。
絵をただ見たり、絵を読むように見るのが、何故だかとても好きという方には是非おすすめな一冊です。