第0話 観光都市 クラリティア(正式発表版)
海岸線の街『クラリティア』
レンガ造りで統一されたその街は、一大観光地としても有名で、中央都市『グランティア』から多くの観光客が多く訪れるリゾート地となっている。
そんな街並み高台には、一軒の洋菓子店がある。
『洋菓子店 ラティア』
大きな煙突と、レンガ造りの壁。オープンテラスを備えたその店は、高台にあることで街を一望できる。
そのため、観光客はラティアを目指しこの街を訪れる。
「いらっしゃ~い」
その店には、かわいらしい声の看板娘と、一匹のウサギが観光客を出迎えてくれる。
店内のカフェスペースでくつろぐのも良し、オープンテラスで街並みを望みながら紅茶をすするのも良しの絶好の店である。
「お客さんは、グランティアから?」
「ま、まぁ……」
「そうなの。いい街でしょ。ここ」
「え、えぇ。」
店内のカフェスペースでくつろいでいると、店主のアリスが紅茶のおかわりを持ってくる。
「えっと……」
「いいのよ、お代は。ケーキ買ってくれたからね」
「いいんですか?」
「いいの、いいの」
気前のいい看板娘で店主でもあるアリスは、観光客だけでなく近所からも好かれている。今日も……
「アリスちゃんいるかい?」
「あぁ。近所の……。どうしたんですか?」
「それがね、うちの娘がさぁ……」
「あぁ。あれですね……」
「また、お願いできるかい?」
「わかりました。すこし、待ってくださいね……」
彼女は、後ろの工房に向かうと、小気味よい音を立てて何やら作業をしている。
「おや? あんた。見ない顔だね、観光客かい?」
「ま、まぁ。そんな感じです」
「そうかい、そうかい。この街。いいだろ?」
「はい。ゆっくりと時間が流れる感じが……」
「だろう、そうだろうとも!」
おおらかな性格のその女性は、自慢げこの街を紹介する姿はどこかの女将さんの風格を醸し出す……
「あんたも、この街に来て、真っ先にここに来たのかい?」
「そんな感じです」
「あんたは、いい目をしてるよ。ここは、街を一望できるからね。それに……」
その女性は、顔を寄せて声を細めてひとこと……
「……ここのアリスって子。美人でかわいいだろ?……」
確かに、ラティアの店主、アリスはすらっとした手足と小顔。出るところは出て、引っ込むところは引っ込むという、モデルのようなスタイルの持ち主だった。
「で、ですね。」
「あたしも、若い頃は、ちやほやされたんだけどね。今じゃ、こうさ。」
「は、はぁ。」
腕組みをする姿は、もう、立派な女将さんの風格だった。
「もう、お客さんが困ってるでしょ? ごめんなさいね。お客さん……」
「い、いえ……」
後ろの工房での作業が終わったのか、その手には小さなパンが握られていた。
「これですね」
「そうそう、これさ。うちの娘が気に入っちゃって……。ありがとね、アリスちゃん」
「いえ、またお越しください……」
その女性は、帰り際にひとこと言い残していった……
「お客さん。アリスちゃんがかわいいからって、ナンパしちゃだめだよ」
「ちょっ! 何を言ってるんですか! もう!」
「ぶっ!」
「あらら。驚かせちゃったかねぇ……」
ちょうど、用意された紅茶を飲んだタイミングでの発言に、思わず吹き出してしまう……
「い、いえ。大丈夫です……」
「それじゃぁ、またね。アリスちゃん」
「はい。また。」
ここ『洋菓子店ラティア』では、ゆっくりとそして、時々賑やかなお客との会話にあふれた日常があった。
ラティアのある高台には、ひとつの石碑がある。そこにはこう記されている……
『観光都市 クラリティアと商業都市 ラビティアの友好の石碑』
ラティアのある観光都市 クラリティアの隣国に、ラビティアという国はない。
ラビティアとは、かつてこの世界とつながった異世界にある国で、ウサギ耳の獣人の暮らす国である。
しかし、そのラビティアへと向かう方法は、知られていない。
研究者も幾度となく試行錯誤を繰り返したが、その方法は全く解明できなかった。
クラリティアに暮らす人々の記憶からも、ラビティアの事は忘れ去られはじめていた……
人々の記憶から消え始めていたクラリティアとラビティアのつながりは、ひとりの少女の奇跡から新たなつながりを持ち始めるのだった……