異邦人
白い街並みと青空。
この言葉を聞いただけで私の胸は高鳴り、
心はひとりでに世界へと飛び出す。
異国情緒漂う世界感に誘われ、赴くと、
確かに自身が異邦人ではないかと感じた。
ここは日本なのだろうか、と。
ところで、その新鮮な感情は瞬きをする
一瞬に閉じられ、次に見る世界ではもう、
ここは母国だと実感せざるを得なかった。
耳が母国へと心を連れ戻したのだ。
それならば、本当に身体ごと異国へ飛び
出させてやってはどうか。
そうすれば、本物の異邦人となり、目も
耳も鼻も身体のすべてが新しい世界に触
れて、心を比類なき何かへと孵すのでは
ないだろうか。
ここへ赴いてたどり着いた言葉がある。
「この地方を説明せよというのか。
先ず自分で屋根に上りなさい。」(1)
その言葉の実践を幼き日の私は是非とも
したかったのだ。
(1) 『ゲーテ格言集』のひとつ
ゲーテ(1952年)『ゲーテ格言集』
高橋健二編訳、新潮社
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