【ごはんの話】盛岡市「ポンコツ酒場」さんの丁寧な仕事
1 【ごはんの話】という 新ジャンル
もともとこのnoteは、推しピアニスト様のコンサート記録を書く場所だったはずだが、仕事漬けで全然推し様の記事が進まない…けど文章は書きたい…というジレンマから、新ジャンルを設けることにした。いわく【ごはんの話】…
2 盛岡へ
岩手県に出張に行くことがよくある年だった。わたしは普段長時間労働に嫌々従事していて、出張となると不在中のあれこれを、同じく長時間労働をしている同僚に託していかねばならず、行くまでのエネルギー量がものすごい。
ただ、わたしの生まれ故郷でもあるし、行くととても元気になる1番身近なところが岩手県だ。今秋は2度出張したが、どちらも美味しいものに出会ってホクホクしながら帰ってきた。今回もそう。
さて、#盛岡 出張の今回は、仕事外で夕飯を食べられるチャンスがあったので、盛岡在住の妹とごはんの約束をしていたが、彼女がとってくれていたのが盛岡市大沢川原にある「 #ポンコツ酒場 」さんのイタリアン。盛岡駅で待ち合わせをして、ワクワクしながら、不来方橋を渡って20分ほど歩いて「ポンコツ酒場」さんへ。
3 ポンコツ酒場さんへ
小雨の降る夕さり時、お店に到着。古い木材を使った看板がこぢんまりしたお店を示している。
中に入ると、大きな栗の下処理中だったのを置いて、出迎えられる。カウンターと2階から席を選ばせてもらえたので、久しぶりに会う妹とは積もる話もあることだし、と2階席へ。
急な階段には、アイアンの手すり。2人だったけれど、広い窓際席に座らせてもらえた。白壁に黒い柱を配していて、ペンダントライトが印象的にぷらんとぶら下がっているレトロシックなオシャレな内装でわたしの好み。2階のテーブルも、おそらく大黒柱だったであろう太い木を繋いでいて、歴史の味わいがある。
持ち運びできるサイズの黒板に、きれいな丁寧な字で今日のオススメメニューが書かれていて、客はその写真を撮ってその中から選ぶ。こちらはSNSご遠慮くださいとのことだったので載せないが、仕入れや時価でいろいろ変わることがあるからだろう。
飲み物は、おすすめグラスワイン、ワインボトル、クラフトビール、どぶろく、クラフトコーラ等こだわりがあってワクワクする。わたしたちはおすすめグラスワインのスパークリングを選んだけど、これが素晴らしかった。
Twitter(X)にはオレンジワインと書いたけど、調べたら白ワインだった。すみません。でもそのくらい、濃いサフランイエローで僅かに濁っている。グラスに注ぐと、ピチピチふつふつする泡が芳香とともに開いていくのが、シードルやどぶろくのようでもあって、口の中でもリズミカルで心地よい。ピッツィカンテは弦を指で弾いて音を出すことで、ラベルにも音符が描いてあるが、リズミカルな印象のこのワインの味にピッタリ。オークの香が来て口に含むと和梨の爽やかさ、ハチミツのようなとろりとした感触の中にミネラル感もあって、シュワっとする心地よさは、この日のような10月下旬の盛岡の雨もよいの日らしからぬ蒸し暑い日には最高。思わず「わー!!!」と声が出た。
やがて出たのが、タコ、アボカド、ルッコラのもろみサラダ。タコは小さなイイダコ、ぷりぷりとした食感。アボカドはフリットにしてあってほんわか温かくねっとりとした旨みが凝縮している。ルッコラの苦味と、もろみを入れたドレッシングとパプリカの旨みが調和して前菜として優秀…一皿目から好き。ワインとの相性抜群。
基本的に岩手県産品たっぷり。いいものをちょっとだけ食べるお店かと思いきや、盛りがよくて、長い会話の相棒にはちょうどいい。
そのうちに甲殻類の殻を焼く香ばしい香りが漂ってきて、「(注文した)あれかなぁ」なんて言いながらちょっと待っていると出てきたのが2皿目。津志田里芋と海老の温菜。
津志田というのは、盛岡市内の地名で、そこで採れる里芋は、北上市の二子里芋に並んで岩手県では有名な里芋。結構大きい。海老はワタを取るための背開きを少しだけしてあるけど中はとろりとした半生で、海老の旨さを教わった気がする一品。甲殻類の殻を焼く香りは海老オイルを作るための揚げの香りだったらしく、このオイルが絶品!そして里芋との相性がいい。
すぐに食べ切るのがもったいなくて、ゆっくりゆっくりゆーっくり食べていたら、給仕のお姉さんが「フォカッチャをお持ちしますか?」と聞いてくれ、「お願いしまーす」といただいたのがこれ。
オーツ麦の香ばしさから硬いかと思ったら中はふわっふわの、平たくない自家製フォカッチャ。外側はカリカリでここも香ばしいから海老オイルとの相性がいい。たっぷりのオイル余ってもったいなかった… お皿を持ち帰りたいほどの旨み。
注文時に「ローストは時間をいただきます」と言われていたこともあって、次に出てきたのがアマトリチャーナ(トマトとベーコンのパスタ)。ここからは赤かなあと思い、グラスワインの赤を注文。
この赤も、オークの香りが濃くて、山葡萄の重たい酸味とコクが立ち上る上等なもの。少し開いたらさぞ…と思わせる底力のある赤。さてアマトリチャーナはベーコンの燻香と旨みがトマトソースに絡んで弾けるめちゃくちゃうまいパスタ。チーズ、全然わからないけれど濃くて美味しい… 山羊かな?
そこへこの日何度目かのびっくりだったものが登場。それはチーズ!
ノルウェー🇳🇴のブラウンチーズ「イェトスト」。キャラメルみたいですよ、と言われて食べたら本当にキャラメルのようなキャラメリゼのコクと甘みをもつ山羊のチーズで、赤ワインにも合うから歓喜した。酒粕漬けの白いチーズ(ゴーダっぽい)も全然クセがなくてしょっぱさもなく、ただただ発酵の旨味だけが凝縮した美味しさ!
美味しくてびっくりするというのは、すごく脳を使う刺激のように思う。びっくりして美味しくて刺激があって楽しい空間。
最近お気に入りの、 #レ・ド・シェーブル さんのヤギミルクを使った焼き菓子やクリームパンもだけど、ヤギミルク製品が岩手ではけっこう食べられるんだなあという発見もあった。
そしていよいよお待ちかねの、北海道完全放牧 羊肉ローストが!仕入れによっては金ヶ崎(岩手県)の羊肉も使うことがあるようだけどこの日は北海道産。「お待たせしてすみません」とのことで、手作り粗挽きソーセージも一緒に。すでに相当食べ過ぎているのだが、このヒツジの甘い乳の香りと肉汁のツヤを見たら食べちゃうよね…
ローストされた羊肉と茹でて炙った手作りソーセージ、どちらも品のいい野生味があって強烈で力強い旨味がある贅沢な一皿!そこに添えられているさまざまなキノコを食べるや…「添え物じゃないw」 肉以上に野生的な芳香をもつ多分天然キノコで、舌に幸せしかない!笑っちゃうほど丁寧な仕事を感じた。
これで注文は全てで揃っていたけれど、お姉さんが「デザートはいかがですか」と親切にも聞いてくれ、すでにお腹いっぱいのくせに「せっかくだから食べておくか」ということで注文したのがコーヒーと「オリジナル米ぬかチョコレート」。米ぬか?チョコレート?…んんん?
通常なら避けるかもしれない組み合わせだけど、すでにポンコツ酒場マジックにかかっているわたしたちは迷わず注文。そしてきたのがこちら。
この小さなチョコレートが、イタリア式の濃いとろみと濁り感あるコーヒーに負けないとは…
岩手県遠野市はどぶろく特区でさまざまなドブロクがあるのだけれど、その米ぬかを使ったということで、シャリ感のあるチョコレート。ホワイトチョコは普通のホワイトチョコにかなり近い感じ。ダークは少し糠っぽい香りもあるけれど、カカオとの相性は悪くなく、いやけっこういい。多分重めの赤ワインにも負けないポテンシャル。面白くて美味しかった。
ポンコツ酒場、全然ポンコツじゃないお店だった。若いシェフお一人で回していらっしゃるので多少時間は掛かるけど、それは丁寧な仕事の総量で、一口食べると「そりゃあ時間かかるよ」と納得しかない丁寧酒場だった。ぜひまた行きたい。
注意点があるとすると、普通のビールとかお通しなどは出るお店ではないということ。それから、おそらく季節の地元の食材を手にしてからメニューが決まるので、行く季節や仕入れ状況によりメニューが異なると思われること。このnoteを読んで、食によるびっくり体験をしたいという方は、岩手県盛岡市に行かれる際にはぜひ予約を。
ここまで読んでくださってありがとうございました。