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2024.10.4 菊池亮太×ござ 2台ピアノコンサート感想

‪  このnote記事は、2024年10月4日(金)に大阪市いずみホールで開催された「菊池亮太×ござ 2台ピアノコンサート」に行ってきた個人的な感想を、記録として残しておくものです。
 とは言え本当は、spice様の素晴らしい公式記事(以下参照)があれば、このように記録を残す必要はないと思いますが、一期一会のコンサートを大切に貴重に思うゆえの、自分の備忘録としてのコンサート鑑賞記録として書き残すこととします。

 このnoteに辿り着いた方はわたしの立場はご存知の方が多いと思いますが、わたしはござさんの重篤なファン(Twitterでは「強火担」と書きました)であるため、どうしてもござさん中心の記録となっていますことをご了承ください。また、これもいつも書くとおり、わたしは音楽理論はまるでなく、ピアノ実演奏者でも文筆家でもありません。間違いがあった際には優しくご教授いただけますと幸いです。

0  はじめに〜ほぼ即興コンサートという挑戦

 大阪市住友生命いずみホール。寡聞にして知らなかったが、音響のいいパイプオルガンのあるホールだということは事前に調べてはいたものの、一方的に信頼しているある人のポストで「いずみホール本当に良いホール」と読んで、まずは期待が高まった。いいホールでいい音楽を届けたいという演奏者様・スタッフ様の意図を感じ取ることができたからだ。
 もう一つは、即興演奏だけでセトリを固めたコンサートという「挑戦」であった点だ。こういう大胆な挑戦は、ござさんや菊池さんでないと叶わないセトリであるし、即興演奏でこそ表現できる魅力があるとわかっている方々ならではの挑戦だと思った。
 大阪公演の前、本コンサートのリハーサル(2024年8月22日)のコラボライブ、また2024年9月13日にTSCテレビせとうち「ななスパBIZ」に番宣でご出演された時も、当該コンサートは即興であり、「(「I Got Rhythm変奏曲」以外)弾く曲はほぼ決まっていない」と軽やかに語っていらした。

 実はそれら「曲は決めていない」ということについて、わたしは多少のリップサービスが入っているだろうと思い込んでいたので、実際ほとんど即興演奏であったと岡山公演にいらした方々のTwitter(現X)等を通じて知り、後日談をござ生で聞いて「そうだったんだ!すごいな!」と率直に思った。菊池さん、ござさん2人の胆力に。そしてスタッフ様方の慧眼と挑戦に。
 ということで、わたしのこのnoteもやや即興寄りに、軽く書いてみようと思う次第だ。

1 会場の様子

 会場周辺は、寝屋川、淀川など川が張り巡らされた歴史的な土地だ。大阪は水の都なのだなあと空の上から見下ろして思ってはいたが、実際に歩いてみると本当に川が多く、交通の要衝であったのも頷ける。

会場そばの寝屋川の船着場。夕さりがきれいだった。
そして時間の経過とともに寝屋川に映る街灯り
(ぼーっとしていて蚊に刺された)。

 ほとんど街歩きの時間もなく、ともかくも会場に向かいつつ、周辺の心地いい都会っぷりを肌に感じながらぶらぶら歩いた。2022年5月3日にもこの周辺を歩いたことを思い出す。あの時は現代的なクールジャパンパーク大阪WWホールだったっけ。
 今会場は、某有名ホテルの隣で規模も大きく、エントランスも豪華な雰囲気。バーもあって、ゆっくりできたら楽しいだろうと思う会場。

そして今回も素敵なフラワースタンドにゆかっちぃさんの素敵なイラストが!
お世話役の方の気持ちがこもってる…(うっかりしていてごめんなさい!)
堂々たるパイプオルガンの煌めきと漆黒のスタインウェイ&サン社の2台ピアノ。期待が高まる。

 写真があれば雑なイラストなどなくてもいいのだが、心を落ち着けるためにホールの雰囲気をメモ帳に描きながら静かにそのときを待つ至福のとき。そうしているちに1ベル、2ベルが鳴る…客ベルにパイプオルガンの音色を選択されたのはどなたなのか、とても雰囲気があって素敵だった。

2  ジムノペディ 〜 ファランドール

 ほぼオンタイムで、舞台袖からかすかにござさんらしき人の楽しそうな声が聞こえたかと思うと重厚な扉が開き、菊池さん、ござさんが揃って登場し、深々と礼をしたのを、観客席から思い切り拍手で迎える。ござさんは菊池さんに「どっちのピアノにしますか?」とでもいうような仕草をして、菊池さんは上手のセカンド、ござさんは下手のプリモピアノに。
 弾きはじめ、高音を、ポロン、ポロンと弾く菊池さん。その音が反響するのを確かめるように上をチラリと見上げる。…そうか、今日の大阪は多分朝の、お二人が着いたときにはうち雨もよいだったろうな… そんなことを思わせるような、雫が落ちるような高音。
 それに合わせるござさんは、寝屋川の漣(さざなみ)に映る灯りのようなキラキラが静かに押し寄せるフレーズを。スロウで純度の高いピアノの音がしばらく響き、満ち足りた音だった。
 純度と書いたけれど、住友生命いずみホールの反響があまりに素直にピアノ音を響かせてまるで自分の内耳の延長のようでとても素直に音を受け取れるホールだったから、純度の高い音に感じたのだと思う。
 ついでに書くとこの2台ピアノは、これまでにこの2人で演奏したのをわたしが直接聴いた中で一番ピアノのコンディション?音色?の個体差の少ない2台だったような気がする。おかげで、上白石姉妹のハーモニーのように時々どちらの音か分からなかったほどだった…耳が悪いだけかも知れないが。

 そんなピアノ2台でゆったりと始まった「ジムノペディ」。菊池さんがベース音を担当し、ござさんはメロディを。軽やかで爽やかな1周目… と、にわかに菊池さんが足を踏み鳴らしてリズムをとり、始まったのは「ファランドール」!
 ねぴふぁび、そして去年の夏の勝浦を思い出すファランドール。菊池さんにしっかり顔を向けながらノールックで弾いてるござさん。ピアノ2台並行に並んでいる配置だけど、時々お尻を浮かせて菊池さんの手元を見る仕草だったので、ああ即興だと確信させられた。
 もちろん演奏はすっかりこなれていて上下入替のタイミングも完璧な、キメキメのファランドール。高速上下入替の巧みさもあってともかく優れた合唱曲のように、2台のピアノの音の波がぴたりと合っていた気がする。菊池さんが時に戦闘音楽っぽく暴れるのを、ござさんも受けて展開し超高速トリル合戦。ござさんはメリハリの効いた華やかな音でやっぱり好き。

 菊池さんがござさんについて、2022.5.8のYoutube配信において「青い炎」に喩えていらっしゃった(そしてその鑑識眼に敬服している)ことをわたしは何度か書いているが、このときの2台ピアノでもやはりそれを思い出していた。菊池さんは卓越した技術だけではなく愛される広報力もお持ちの情熱的なピアニストだけど、その菊池さんをして「青い炎」と言わしめるござさん…この2人の2台ピアノの贅沢な響き!
 初曲から感動。

コンサート後にはこんなことも。Xの今後が予測不能のためスクショで失礼。

2−2  MC①

 ところでお2人のお衣装はというと、公式様から写真が上がっていたのでもう書く必要もないくらいだが念のため。
 ござさんは、岡山でも着ていらしたデニムパッチワーク風の素朴なノーカラージャケットに、白の綿シャツ、いつものチノパン。靴は瀬戸さんとおそろの紐靴で、靴下はワイン。カジュアルで動きやすく、でもジャケットを羽織るのが最近の定番みたい。
 菊池亮太さんは、アルファベットのプリントされたハットに黒の無敵Tシャツ(京都限定だそう)、くたっとした背中が長めの黒のカーデ、黒のパンツに黒いハードな靴で、こちらもいつものいでたち。

 弾き終わって2人が礼した後、ござさんが「マイクがない!」とマイクの形を手でなぞってピアノの後ろに回るのが落語の演者のようで思わず笑ってしまいながら、こういう立ち居振る舞いの愛嬌に、日頃の激務に冷えきった心があたためられる気がしてならない。
ご「呼吸が大変…なんかすごい汗が」と言いながらも、板を指して「センターここですよね?」と立ち位置に気を配る気遣い屋の一面も。
 もちろんこのトークも完全即興らしく、「大阪と言えば?」と菊池さんに問われ、「そっかー考えてなかった!」とござさん。菊池さんは流石に各地でのリサイタルを経た落ち着きがありその地のリサーチもしていらっしゃるのだろうし、つい数日前のご自分のツイートを伏線に「(大阪と言えば)USJですよね?」と語って拍手を浴びたのだけれど、「僕、USJ行ったことないんですよね」で会場をざわつかせるござさんw w 確かに、自然の中にいる推し様しか想像できないw
 ところが「無敵」Tシャツが伊達でなく本当に無敵の菊池さん「ハリーポッターの動く城が出版された頃」
ご「…動く城は、ハウル」w
で、会場は爆笑の渦に。
 さらに自由な菊池さんのトークに、ござさんが途中で聞き取れず「ん?!」と野々村式に耳に手を当てて一生懸命聞き返したり、聞き返したのに菊池さんがボケで返したのに、ガクッと膝を折ってorz… 的なリアクションで返したりと笑うのに忙しいMCの数々。
 ござさんは、一見菊池さんに翻弄されていると見せかけて、返すリアクションがいちいち愛嬌だらけでござファンのほうを翻弄していた気がする。しまいには「トークで頭使いたくない」wと仰ったのに爆笑。
 締めの菊池さんの「(USJは)遊園地でした!」のトークに、お腹が捩れるほど笑ってしまうほのぼのMCだった。

3 ござさんソロ「知っている曲をワルツにするメドレー」

 そんなふんわりトークの後、ござさんのソロ。いわく「岡山でも残暑にちなんだメドレーを演った。あれからだいぶ秋を感じられるようになったので、ワルツのイメージで、(皆さんの)知ってる曲をワルツにするメドレー」。
 いつも通り、右足踵を軸にストンと座りしな、軽やかに指ならしをしておしゃれに始まったのは「枯葉」。ソロの間、照明はござさんを照らすヌキだけで、演奏に集中する仕様。ワルツと言いながら普通のジャズでスタートし1周してからワルツへ。「Automatic」もはじめは原曲通りで途中からワルツ。
 なるほど、ワルツメドレーじゃなく「ワルツに『する』メドレー」というのはこういうことかと得心。そうすることで、1曲を2つの即興的味付けで楽しめるというHPを消耗しそうな贅沢なメドレー。その切り替えも自然な曲の繋ぎも込みで、すごい情報処理の量。
 しかも昭和、平成、令和にまたがるJPOPセレクト多めで、夜空のムコウ、ルビーの指輪、アイドル、BBBB…どんなときも。は長調で明るく。海の見える街のワルツは素敵アレンジ。枯葉に戻ってテンポを上げて大団円!通常配信よりも少し長めの、見事な原曲&ワルツメドレーだった。
 「では、息が切れてるので、一回休みます」と菊池さんとソロ交代。

4 菊池さんソロ ガーシュイン「プレリュードNo.2」「ピアノ協奏曲第3楽章」

 菊池さんは最初にタイトル通りの曲紹介をして演奏に入ったのだが、曲だけ決めて、アレンジ等はその場の即興だったのだろうと想像したけれど、どうだろう。
 「オーケストラがないので独りで弾きます」と一旦下手側のプリモのピアノについたものの、何か気になったふうで再度立ち上がり、椅子の高さを直してから、シンプルな単音でリフを弾く。この単音で、このホールの音のよさがとてもよく感じられる指ならし…からの、まさかの「枯葉」だったのは、ござさんからの繋がりを意識したスタート。思えば勝浦でもござさんのソロ曲を1曲混ぜ込んでスタートしていて、あのときは「あの夏へ」を都合3回聞くことになって贅沢な気がしたものだ。
 左足を右足に組んでラフな感じで弾き出した美しいリフから徐々にブルージーなプレリュードになっていくのだが、こういう少しスロウな曲によってピアノの音色の美しさに酔える気がして心地よかった。
 しかしそこは菊池さん。あっという間に速弾きのターンとなり、ペダルから足を離して鍵盤に頭を沈めんばかりに速弾きにのめり込んでいく。そして混ぜる混ぜる…!と言ってもクラシックに疎いわたしなのでハッキリこれとわかったのは、仔犬のワルツくらいだけど、これもござさんのワルツ繋がりなのだろうと推察。
 2曲続けてたっぷり聴かせてもらった。ここまで我が道を行くのは観客への信頼感がないと難しいはずだが、観客席に目を配りながらピアノとの会話に没頭していくこの熱さこそ、無敵・菊池亮太だと思った。

4−2 MC②

 菊池さんが弾き終わって満場の拍手をもらっている傍ら、ござさんがそっと登場。ところがトークとなると、またまたほのぼのお兄さんたちとなる2人。このギャップもまた楽しい。
ご「いやーガーシュインですか!(←きっと菊池さんの次のコンサート告知に振りたかったと思われる、考え抜かれた問いかけ)」
菊「我修院じゃないです」(←変化球)
ご「…?」(←球種読めず)
菊「我修院て大阪所縁かと思ってwikiで調べたけど違いました」(←暴投w)
ご「…(ちょっと考えて)何て言ったらいいかわかんない」w
で、また会場は爆笑の渦に。大阪という地だからこんなにおもしろトークになっているわけではなさそうで、2日後のYouTube生配信でござさんは「レシーブに徹した」と語っていらしたけど、菊池さんの意表をつくトスに翻弄されているのもめんこい楽しかった。
菊「前半最後の曲、2人で息切らしていきましょうか」
ご「ボレロです!」
菊「はい!」

5 2台ピアノ「ボレロ」

 ネピアコでも、珍しい5台ピアノで弾いたボレロだが、ピアノで管楽器や打楽器の音色や雰囲気を出すのが素晴らしかったと記憶している。さて2台は…と期待が高まる。
 まずは菊池さんのリズムから。ピアノの鍵盤下の口棒を、あの魅惑的なリズムで叩きスタート。メロディーはまずござさんから。5台のときはござさんがリズムを刻んでいたが、この2人は上下どちらを弾くときにもリズムを内包しながら弾ける安心感。菊池さんはござさんのメロディに合わせ、高音を短音でポロン、ポロンと鳴らす。やがて菊池さんが主メロを弾きつつ少しずつ和声を増やしベース音も。ござさんがリズムと中間音を弾くのだが、この和音がござさんらしく本当に美しかった。
 確かラヴェルの映画をご覧になったはずだが、何かインスピレーションに影響はあるのだろうか。
 菊池さんはメロディを少しずつずらしていき、不穏になり謎展開にもなるのだが、ござさんは首傾げながら徐々にクレッシェンドしつつ「調和」という言葉がピッタリする合わせ方で、曲を仕上げていってる。そう、まるで菊池さんのピアノにエフェクトが掛かって曲が仕上がっていく…そんな感じだった。
 実はこの曲のとき客電が点いていたので、菊池さんがワクワクしながら時々足を鳴らしたり金平糖の踊りを混ぜたり自由に転調したりするのに観客が釘付けになっているのが、後方のわたしの席からはよく見えた。そこにござさんの包容力のあるピアノが馴染むその現場にいられる幸せたるや…。ただちょっと音を控えてる気がしなくもなかったのは、主メロが菊池さんだからだろうか。2台とは思えない、華やかで贅沢なボレロはこうして終了し、2人はニコニコしながら袖に去っていった。

6 ほんわかぱっぱ(Somebody Stole My Gal) 〜There will never be another you

  後半がスタートし、拍手に迎えられて深々とお辞儀をした2人。この休憩中に、ピアノの調律が行われていたことは記録しておきたい。たくさんの方が関わって成立しているコンサート、本当に尊い。
 さて、座ってすぐに始まったのは、🎶ほんわかぱっぱ、ほんわかぱっぱ… という文字面だけで何の曲かわかってしまう、大阪のお膝元・吉本新喜劇のテーマ(今回初めてSomebody Stole My Galという曲名を知った)。始まりにふさわしい、軽やかで楽しい、お茶目な2人にピッタリな選曲。
 …からのThere will never be another youへ。ここで待ちに待ったござさんのウォーキングベース。バリエーションが広くて滑らかで動きがある、懐も広いベース。
 菊池さんはカーデを脱いで無敵Tシャツ1枚となっていらして、いきいき楽しそうで本当にタフネス!やがて曲はリラックスしたラグタイムへと変化して観客の気持ちを掴んでいく。楽しい1曲だった。

6−2 MC③

 大阪なので有名曲をとの曲紹介に、菊池さんが 🎶ほんわかぱっぱ、ほんわかぱっぱ… と歌う大サービスのMC。ござさんは感心したように
ご「なんでもできますねえ」
と言いながら観客に向かって
「リハはこんな感じじゃなかったんですよ」「(どうなるかわからなかったが)始まれば終わるものですね」
と即興のスリリングさを語っていらした。あんなにかっこいいベースを弾いていたのに、しかも即興演奏はいつもされているのに、やっぱりドキドキするものなのだろう。そしてその緊張のテンションを前向きなエネルギーに替えていける人なんだな。

菊「で京都の話と言えば!京都で、月音夜にも出演する私たち2人のCDが発売されております!お買い上げの方には2人のサイン入りポストカードが!」
ご「さっき書いたんですよ!」
で、会場からは「買ったよ〜」との声。
ご菊「あざーーーす!」w
こんな観客席とのやりとりがあるのも、コミュニケーション上手の菊池さんがいらっしゃればこそだろう。こちらこそ感謝です。

念のため買いました… 書きたてのサイン最高

6−3 MC④リクエスト決め

 ここで、去年の勝浦でも、前月の岡山でも行われた(らしい)観客からの生リクエストコーナーへ。岡山で、2人して目をつぶって指した人を誰も確認してないというお茶目ハプニングのことを引き合いに、お互いに順番を確認しながらの生リクエスト募集だった。
 まずは菊池さんが観客をご指名し、「Sir.Duke」。次にござさん…と順に募集するのだけれど、ござさんは、客席の中央あたりの距離の方を当てるのに眼鏡のブリッジを人差し指でずり上げ、顔を寄せてジーッと見つめていた。客電少し暗かったのかもしれないが、ござさんのあの眼鏡は手元から楽譜ぐらいまでの距離感に合わせてあるらしい。いつも、照れ屋さんだから客席見ないんだなと思っていたけれど、そもそも 見 え て な い の ね ww(ピアノ全振り好きです)
 もっともござさんが凝視する先にいなくてよかったとは思っている。あんなに見られたら心臓が爆発する。リクエストは「チャルダッシュ」。それに「スペイン」「ルパン」とリクエストが続いた。
 ござさんはプリモピアノの椅子の上で「メモっております」と言いながらメモを取るのも律儀でめんこい
ご「菊池さんメモ要りますか?」菊「要ります!」のやりとりののち、2枚メモを作成していたござさん。岡山では観客に背中を見せていた(と聞いた)が、椅子の上で書くように変更しているところも経験のなせる技。
 菊池さんは、ござさんに「どうぞ」というようにプリモピアノを譲る仕草をしてご自分は上手のピアノへ。

7 Sir.Duke、チャルダッシュ、Spain、Lupin the Third‘80メドレー

 Sir.Dukeは菊池さんが上でござさんが下。1曲目としてリズミカルで楽しくナイスリクだと思った。菊池さんの楽しそうな弾きっぷりもいいし、ござさんのウォーキングベースが心浮き立つリズムを牽引し、本当にかっこいい!
 もちろん全編即興演奏としても、生リクエストに応えるわけだからこの2人の異次元ぶりがこのコーナーでくっきりとした輪郭を見せたと思う。途中で菊池さんがござさんに手のひらを返して「どうぞ」とでもいうようなサインを出し、ござさんが上へ。
 そこにチャルダッシュを交えてから、滑らかにスペインへ移行。Sir.Dukeも交える菊池混ぜ。そして最後はお馴染みルパンで、ともかく楽しく明るく、高難度リズムを崩すことなくメドレーにし切って、満場の拍手で終わりを迎えた。
 2人ぺこりとお辞儀をしてMC。「選曲が良心的でしたね」とござさんが話す脇で、菊池さんが歌うほどの楽しく明るいメドレーだったということだと思った。
 そんな菊池さんに「ノってますね!」というござさんも、普段のござ生のように生き生きとしているようにわたしには見えた素敵なコーナーだった。
 リクエストをされた方もお疲れ様でした。

8 I Got Rhythm変奏曲

ござさんのリフからスタート。ジャジーな入りがかっこいい!ななスパBIZさんの時よりRhythmをくっきりと打ち出す曲名通りの主メロで1周後、ちょっと間をおくと次はメロウでチルに展開して周回。ここに水の戯れが混じったりSomebody Stole My Galになったりさせる菊池混ぜ。さらに自由度が増していき、菊池さんが立ち上がったりござさんがメロディを反転させたりする遊び心満載のまま、ラグタイムになり、フォーク風になり展開していく変奏曲。ピアノ2台なのに、まるでオーケストラのように音色や音圧や揺らぎのある別楽器の音が聴こえてくるようだった。
 そしてそれは主にござさんのピアノにエフェクトがかかっているような、不思議な気分だった。2 で、この2台ピアノはコンディションや音色の個体差の少ない2台だったような気がすると書いたばかりだし、5 では「ちょっと音を控えてる気がしなくもなかった」と書いたが、もしかしたらペダルワークやタッチを微妙に変化させて、ござさんは音を作り出しているのかもしれない。ほぼ手元ノールックで、菊池さんを凝視しながらのござさんの演奏は、内声やリハモを入れることに徹している人の有り様だったから。
 そしてそれはござさんが「即興演奏においてのベスト」を追究する態度として、曲の美や善を極限までひき出そうと努めているからだろうと思っている。
 時に空いている手で指揮をしながら、菊池さんの激しく自由を求める熱い演奏を、受けとめて抱きかかえて展開するござさんの青い炎を、ここで確かに見た気がする。

9 アンコール〜Moon River

 ここで演奏は終わり、2人は盛大な拍手とスタンディングに送られて、菊池さんはおどけながらござさんは深いお辞儀を繰り返しながら、あくまで2人らしく袖に引っ込んだが、やがて鳴り止まない拍手に出迎えられ再登場する。
 そして弾いたのがマンシーニの「Moon River」。しっとりと始まったが、2人の鼓動を映すかのように軽やかに上向きなアレンジで展開。
 菊池さんは菊池混ぜも楽しく自由で「弾くのが楽しい!」を体現しているような演奏。ござさんはこちらも最後まで菊池さんに寄り添うピアノ。ただ全体に元気で明るい曲が続いた感があり、しっとりしたMoon Riverが聴きたかったな…などと生意気にも思っていると、ふと間があいて、そして最後の16小節が、なんとござさんのソロ!しかも!ござさん渾身の(そして今回おそらく最初で最後の)fff!

 …壮大で切なくて崇高な、ござさんの最後の16小節は「これが聴きたかった…」という渾身の歌い上げ。あそこにござさんの、ピアノが好きな気持ちと、プロとしての曲の完成度へのこだわりがあふれていて、来てよかったと思った。
 ここで一気に涙腺が崩壊したことは言うまでもない。

10 おわりに

 茨城のり子さんの詩に自分の感受性くらい」というのがあって、心が折れそうなときの自分の戒めとして常に心に置いている。

      自分の感受性ぐらい


ぱさぱさに乾いてゆく心を
ひとのせいにはするな
みずから水やりを怠っておいて

気難しくなってきたのを
友人のせいにはするな
しなやかさを失ったのはどちらなのか

苛立つのを
近親のせいにするな
なにもかも下手だったのはわたくし

初心消えかかるのを
暮らしのせいにはするな
そもそもが ひよわな志にすぎなかった

駄目なことの一切を
時代のせいにはするな
わずかに光る尊厳の放棄

自分の感受性ぐらい
自分で守れ
ばかものよ

茨木のり子「自分の感受性くらい」(詩集『自分の感受性ぐらい』所収)

 何度か書いているように、この2年ほど専門外の長時間業務が当たり前の職場に移動になり、ファンアートどころかつぶやきも減らし、ファンレターも書けぬ生活が続いている。そんな中でわたしがかろうじて精神の均衡を保っているのは、ござさんの音楽がそばにあること以外には、この詩のこの強い言葉がわたしの背骨になっているからだという自覚がある。
 これからももうしばらくはプライベートをすり減らして過ごさなければならないが、そんな中でもささやかに文章を綴っていくことだけはするつもりである。それがわたしの「わずかに光る尊厳」なのだと思っている。この小文が、少しでもござさんの応援になればいいなという気持ちである。

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