連載長編小説『十字架の天使』4-1
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一度もクリーニングに出したことのないスーツだが、スーツの上に物が山積みになっていたおかげで皺一つない。大学の入学式の時に購入したものだが、それ以来一度も身に着けることはなかった。
まさかこんな形で袖を通すことになるとは。
聖子の葬儀は教会で執り行われる。キリスト教では葬儀のことを葬儀式というらしい。キリスト教は土葬が基本だが、日本では土葬が禁じられている。また、大事件の被害者ということもあり報道陣や野次馬が多く駆けつけることを考慮し、葬儀は今日一日、簡略化して行われるとのことだった。
その予測は当たっていた。葬儀場である教会に着くと道路を挟んだ向かい側の歩道にずらりと報道陣が並んでいて、マイクを手にリポートしているアナウンサーが見えた。カメラのレンズは常に教会の入り口を捉えていて、ただでさえ葬儀で気が張っているのに余計に気の休まる時間がなかった。
吉高は受付を済ませた。
この度は御愁傷さまです、と言うか迷って、結局言わなかった。キリスト教では死を暗いイメージで捉えない。そのため葬儀式でお悔やみの言葉は口にしないのがルールだ。
しかし聖子は卑劣な連続殺人事件の被害者であり、あまりに無惨な最期を遂げた。婚約者もいて、これから幸せな人生が待っているという時期で、死んでも死に切れないのではないか。
それを思うと、ついお悔やみの言葉を口にしそうになる。
吉高が講堂近くに向かうと聖歌が聴こえて来た。参列者の最後尾に向かう途中、聖子の遺影がちらりと見えた。十五歳の可憐な少女時代の面影を僅かに残し、垢抜けた美しい大人の女性に成長した彼女の微笑みが十字架を背に掲げられていた。
どうしてこんなことに……。
堪らず視線を下げた吉高は込み上げる涙を抑えるのに必死だった。一つ深呼吸をして顔を上げると、斜め前の男性と目が合った。蛇腹に折れ曲がった参列のため、ちょうど向かい合う形だったのだ。
男性はこちらを見て僅かに頬を弛緩させた。彼のことは吉高も知っていた。
「まさかこんなことになるとは。和也は聖子とはよく会ってたのか」
「いいや」どこかやるせなさを感じながら吉高は答えた。「成人式が最後だよ。松崎は?」
「俺は成人式では聖子に会わなかったから、中学の卒業式が最後だな」
松崎は中学時代の同級生で、吉高は二度同じクラスになった。親友とは言わないが、それなりに親交があった。彼は聖子とも親しかった。吉高も松崎とは成人式で顔を合わせていないから、こうして会うのは中学の卒業式以来だ。
「画家になったのか?」松崎は訊いた。
吉高は苦笑した。いや、失笑と言うべきか。
「芸大に入ったんだろう? それは噂で聞いた」
「画家にはなってない」吉高はぽつりと答えた。「芸大も中退した。今はフリーター」
「中退?」
どうしてやめたんだ、と訊かれているような気がした。
「俺には才能がなかった。絵は特に、才能が物を言う。芸大に入って痛感したんだ。周りとの差を。俺には無理だと思った。ただ絵がうまいだけだった」
話してしまえば楽になると思ったが、むしろ心苦しくなった。落ち着かず、吉高は間髪入れずに続けた。
「でも今日はどうして葬儀に? ずっと会ってなかったんだろう?」
まさか聖子の売春相手ではないだろうな、と吉高は疑った。
だが松崎はあっさりと言った。
「仕事の関係だよ。聖子と直接関係はないんだけど、小松さんと仕事上関係があるから、今日は参列した。二人は婚約していたからな。俺、東亜商事の関連会社で働いてるんだ。小松さんには世話になってる」
「立派に勤めてるんだなあ」
「立派って、のんびり働かせてもらってるよ、ねえシダさん」松崎は隣にいる中年男性に話し掛けた。
シダと呼ばれた男性はすでに目に涙を浮かべていた。それを見て、吉高は危うくもらい泣きしてしまうところだった。
「本当に、小松君にはよくしてもらってまして。彼は本当に優秀で、いつも素晴らしいアドバイスをくれるんです。そんな彼が素晴らしい奥さんをもらうと聞いて、本当に心の底から祝福してたんですよ。それがこんなことになって……。これからますます活躍するだろうに、本当に、心苦しいです」
「小松さんは年明けには海外に転勤する予定なんだ。でもこんなことになって、もしかしたら転勤は取りやめになるかもしれない」
「それは、仕方ないんじゃないか」
婚約者の死の悲しみに打ちのめされているのに海外転勤を強いられれば、それはパワハラと言えるのではないか。まず会社は小松諒太の心のケアをしなくてはならない。
「こんな卑劣な事件で小松君が出世街道から逸れると思うと、それもまたいたたまれない思いです。仕事もプライベートも順調だった人ですから」
列が動き出し、松崎とはぐれた。少ししてまた顔を合わせたが、二人は言葉を交わさなかった。
三十分ほどが経ち、吉高は聖子の前に立った。遺族席に一礼したが、そこに小松諒太の姿はなかった。まだ入籍していなかったためだろう。喪主は聖子の父親が務めている。聖子の母親は現在席を外しており、一つ席が空いて、聖子の姉が悲しみに濡れた目でこちらを見ていた。
どうやら真理亜は吉高に気が付いたらしく、はっと目を見開いた。だがすぐに眉間に皺を寄せ、涙を流した。
献花台に花を手向け、吉高は遺族に再び礼をして講堂を出た。
廊下に出ると、すぐに真理亜が後を追って来た。
「和也?」
うん、と小さく頷いた。真理亜は聖子と違って肉付きがいい。切れ長の目元はよく似ているが、骨格が違うのか姉は昔から丸顔だ。容姿は聖子のほうが美しいが、愛嬌は真理亜のほうが備えている。
「今日はありがとうね」
「こんなことになって、残念だ」吉高はお悔やみを申し上げた。真理亜になら本音を口にしていいだろうと思った。
「事件は本当に残念だった。一日でも早く犯人が逮捕されることを望むわ」
「俺も」
だがその願いが叶う日は来るのだろうか、と吉高は考えた。第一の事件で殺害された磯山夏妃の遺族は真理亜と同じ願いを抱いてからすでに二ヶ月もの時を消費しているのだ。
探偵左向も調査を行うらしいが、正直言って解決に導けるとは思えない。彼自身も警察が解決できないのに自分が解決できるわけがないと弱音を吐いていた。
しかしそんな現実を被害者遺族に突き付けるわけにもいかない。
「俺も調べるから、犯人を逮捕できるように、事件のこと調べてみるから」
口走ってから、とんでもないことを言ってしまったと思った。だが自分の発言を脳内で繰り返し、解決するとは言っていないことに安堵した。
真理亜は微笑を浮かべた。笑った時の目尻も聖子と同じだ。
「無理はしないで。こんなに危険な事件、和也に何かあったら聖子も悲しむ。ずっと会ってなかったみたいだけど、こうして今日参列してくれたこと、聖子は喜んでると思う」
「俺は正直、まだ心の整理がついてない。本当は聖子の死が嘘で、今日この場に足を運びたくもなかった。俺が葬儀に参列したことを喜んでほしいとは思わないけど、でも聖子がこれで少しでも安らかな眠りにつけるのなら、来てよかったと思ってる」
真理亜は小さく頷くと、廊下の壁際の椅子に吉高を連れた。
「実は聖子を殺したんじゃないかっていう人に心当たりがあるの」
それが事件と関係があれば、早期解決が見込めるかもしれない。吉高はその場に座り直した。
「それは誰?」
「実はあたし、結婚詐欺で騙されそうになったんだよね」
「結婚詐欺?」
「そう、あたしももう二十八だし、そろそろ結婚のこととか考えるわけ。そこに三つも下の聖子が婚約したって聞いて、余計に焦っちゃって」
「でも騙されてないんでしょ?」
「うん、何とかね。当時付き合ってた二つ上の彼にも結婚願望があって、元々結婚を前提に交際してたの。彼は凄く誠実で、優しいジェントルマンだった。経済的にも安定してて、結婚相手としては理想的だったの。その彼が突然お金を準備しなきゃいけないって言い出して、わけを訊くと友人の借金の連帯保証人になっていたんだけど、その友人が夜逃げして肩代わりしないといけないって」
「いくらだったの?」
真理亜は手でピースサインを作った。
「二百万?」
「元々は百五十万円だったの。返済期限はとっくに過ぎて、利子が膨れ上がってその時には二百三十万になってた」
吉高ではとても払えない額だ。一千万円などの現実味のない額ではないから余計に信憑性がある。本当に騙されなくてよかった。
「二百三十万、払うつもりだったの?」
「うん。すぐに用意した。でも切り崩せるのは二百万円くらいしかなくて、三十万円を聖子に借りようとしたの。そしたら聖子が詐欺じゃないかって」
つまり聖子が見抜かなければ詐欺は成功していたわけだ。確かに詐欺師にしてみれば二百三十万円の利益をゼロにされたのだから、恨みを持ってもおかしくはない。
「あたしはそんなわけないって言ったんだけど、聖子が今すぐ行くから待ってろって。それを彼に伝えると彼は二百万だけでもいいって帰ろうとするの。そこでとうとう怪しいと思って、妹がお金を用意してくれるからって必死に引き留めた。結局聖子が来て彼が詐欺師だって暴いたんだけど、未遂だったこともあってあたしの前に二度と現れないという条件で聖子は通報しなかったの」
「その詐欺師は今も捕まってないんだね」
「あの後詐欺に失敗してなければね」
「それっていつの話? 聖子が婚約した後ってことだけど、聖子はいつプロポーズされたの?」
真理亜は考えることもなく答えた。
「九月十日。プロポーズは聖子の誕生日だった。それから一ヶ月後くらいかな。十月に入った辺りだった」
ちょうど一件目の事件があった頃だ。その詐欺師が聖子を殺したと考えるならば、他の三つの事件についても検討しなくてはならない。当初から聖子を殺害するつもりで連続殺人を開始したのか、連続殺人を行う上で聖子を殺害することにしたのか。
結婚詐欺師なら過去に同様のトラブルを抱えている可能性も考えられる。
「その人の名前は?」
「本名かはわからないわよ」
「それでも構わない」
おそらく本名だろうと吉高は思った。結婚をちらつかせて金を騙し取るのだ。計画を成功させるためにはかなりの時間と労力が必要になる。ターゲットの懐に入り恋人となることはそう簡単なことではない。
詐欺師としてはなるべく素性を隠したいだろうが、ボロを出さないためにも活動は本名で行うのではないか。
「ヤマムラソウイチ――ヤマは山ムラは村、創造するの創に漢数字の一」
山村創一、結婚詐欺師――と吉高はスマートフォンのメモに書き残した。念のため、当時使用していた電話番号も聞いた。真理亜はすでに連絡先から山村創一の電話番号を削除していたが、諳んじていた。
「調べてみるよ」
「無理はしないでね」
わかった、と吉高が答えると真理亜は講堂へと戻っていった。それと入れ替わるように松崎がやって来たが、隣にいるのはシダではなく同年代の女性だった。黒のアンサンブル姿の女性だが、髪色は明るく爪もネイルが施されている、派手な女性だ。
松崎はこちらを指差しながら女性と親しげに話している。女性は目を細めて吉高のほうを見て、何か符合でもしたように首を大きく縦に振った。
「和也、モエカだよ。覚えてるかな」松崎は女性を紹介した。
これまでモエカという女性は知り合いに数人いた。吉高は松崎のように女性を名前で呼ぶ習慣がない。名前で呼んでいるのは聖子くらいだ。
「覚えてないの?」不本意だと言わんばかりにモエカは言った。気の強そうな、吉高の苦手なタイプだ。「キドモエカ、中一の時同じクラスだったでしょ?」
苗字を聞いてようやく思い出した。城戸萌華だ。当時から負けん気の強い性格をしていたことは薄っすら記憶にあるが、交流は持った記憶がなかった。当時から苦手意識があり、避けていたのかもしれない。
「思い出した。城戸さんね」
「絶対覚えてないじゃん」
「覚えてるよ。城戸さんだろ、城戸萌華さん」
「今あたし名乗ったじゃん。他の情報ないの?」
「ごめん、あんまり覚えてない」
「最っ低。あたしは吉高君のことよく覚えてるよ。絵描きの吉高だもん」
そんなふうに呼ばれていたのか、と吉高は苦笑いした。もしかしたらそう呼ばれていることを知ってはいたかもしれないが、挫折と同時に記憶を抹消していたのかもしれない。
「萌華はよく聖子と喧嘩してたもんな」
「喧嘩?」
萌華が困った顔をするのを見て、吉高は朧な記憶を手繰り寄せることができた。二人の喧嘩とは痴話喧嘩である。元々男子生徒に気のない聖子だったが、聖子に好意を持つ男子生徒に萌華が恋をして、それから度々揉め事を起こしていた。そういう時はいつも聖子が冷静に萌華をあしらっている印象で、萌華は感情的に聖子に掴み掛かろうとしていた。
そうした過去も今や笑い話にできる年齢になってきたが、このような事件が起きてしまっては当人としては笑えないのだろう。もう十年以上前のことだが、過去の諍いが殺害動機となることもなくはないのだ。
思い出した萌華の印象を語ると彼女は渋面を浮かべた。
「そんなことは覚えてなくていいの」
「聖子とは仲悪かったのに、城戸さんはどうして今日ここに?」
萌華は視線を落とすとしばらく唸っていた。
「鳴海聖子のことは確かに嫌いだった。中学時代は幼稚なレベルだけど本当に憎たらしかったし、最近になって商社マンの恋人とこの歳で結婚が決まって、おまけに寿退社するって聞いて死んじまえって思った。でもこんなことになると、人の幸せに嫉妬して毒づいてたことに罪悪感を感じて、少しでも供養できればって思ってね。鳴海聖子が美人なのも、あたしが勝てないこともわかってたんだけどね。女のプライドだろうね」
吉高は何とも言えず、黙っていた。
松崎は仕事があるらしく小松諒太と話していたシダと合流して教会を後にした。萌華もまもなく帰路に就いた。
葬儀が終了するまで吉高は椅子に座って待っていた。せっかくなので出棺前の儀式にも参加し、棺に眠る聖子の耳元に花を供えた。
吉高は一足早く廊下に出て、出棺が済むのを待った。出棺が行われるとぞろぞろと講堂から人が出てきた。その中に小松諒太の姿を認めた。彼は同年代の男性と何やら話をしていた。
吉高は立ち上がり、小松諒太を待った。彼はおそらく、この後の火葬にも立ち会う。その前に話をしておきたかった。
廊下に出てきた小松諒太はまもなく吉高に気づいた。
「あなたは……」
どうやら顔を覚えてくれているらしい。さすが腕利きの営業マンといったところか。吉高は恭しく頭を下げた。
「エグサ、悪いが先に行っててくれ」
話していた男性にそう言うと、小松諒太は吉高のほうへとやって来た。挨拶を交わすと、吉高は名乗った。
小松諒太も「いつもお世話になっています」と応じた。「どうしてここに?」
「実は、鳴海聖子さんとは小中学校の同級生でして」
小松諒太は驚いて口を開けた。それまで警戒心の籠った視線をこちらに向けていたが、奇遇だとでも言うように口元には微笑が浮かんでいた。
「まさか職場の常連様が彼女の婚約者とは思いもよりませんでした」
「私もです」と小松諒太は言った。
「せめてご挨拶だけでもと思いまして」
「わざわざありがとうございます」
吉高は小松諒太に悟られないよう、腹に力を込めた。ここからが左向に与えられた任務だ。
「できれば後日、彼女の供養に伺いたいと考えているのですが、不躾ながら連絡先を交換していただいてもよろしいでしょうか」
煙たがられるかと思ったが、小松諒太は意外にも吉高を歓迎した。
「それはぜひ、いらしてください。聖子も喜ぶと思います」
「籍はまだ入れてなかったんですよね? それってどうしてなんですか?」
小松諒太は爽やかに笑ったが、視線を天井にやるとしばらく口ごもった。
「深い理由はありません。言うなれば、聖子の拘りです。彼女が敬虔なクリスチャンだったことはご存知だと思いますが、まさにそれです。プロポーズは聖子の誕生日にして、無事に受けてもらいましたけど、彼女の強い願いで入籍日は十二月二十五日にしたいと。僕に拘りはありませんから、聖子の気が済むならそれでいいと」
「海外に転勤すると伺いました。彼女も一緒に海外に行く予定だったんでしょうか」
「誰から聞いたんです?」
「シダさんという男性です。松崎というのが同級生なので、会話の中で知りました」
小松諒太は納得顔で首を三度縦に振った。
「そうですよね。松崎君と聖子は同級生だった。しかしシダさんはおしゃべりだなあ。まだ内々の話で辞令も出てないのに」小松諒太は微笑すると続けた。「もちろん、聖子も一緒に行くつもりでしたよ」
「でもこんなことになってしまって、小松さんは海外転勤をどうするつもりですか? 予定通り行かれるんですか」
そうですねえ、と小松諒太は思案顔になった。「正直そのことは考えていませんでした。まだ心の整理ができてなくて。でもそうだな、聖子は行きたがってたし、渡米は予定通りですかね。見るはずだった景色を聖子に見せてやりたい」
「その……もし彼女を殺した犯人が誰かわかったら、小松さんはどうしますか」
小松諒太は迷いなく、淀みのない目で言った。
「殺してやりたい。当然そう思ってますよ」
それだけ聖子を想う気持ちが強かったということだろう。だが聖子はそんな彼を裏切っていた。彼女が売春を行っていたことを小松諒太は知っていたのだろうか。
訊きたくて仕方なかったが、訊けなかった。
「殺してやりたい……」
吉高が繰り返すと、小松諒太は首肯した。
「大袈裟ではなく、本気でそう思っています。おそらく聖子はそんなことを望まない。でもやっぱり、赦せないじゃないですか」
「そうですね……」
事件の後、刑事から聖子の結婚が決まっていたことを知らされた時は少なからずショックを受けた。だが今は違った。小松諒太となら、聖子は幸せな人生を送れただろうと確信した。その幸せが奪われたのだ。犯人を殺したいと思う彼の気持ちはよくわかった。
「事件のあった夜、聖子は彼女と会う予定だったんです」小松諒太は廊下の脇に一人立ち尽くしている女性を指した。女性がこちらを見ると、小松諒太は手招きした。「でも待ち合わせ場所に聖子は来なかった。ちょうど事件が起きていたんです。――梨華、こちら吉高さん、聖子の同級生の方だ」
「初めまして」
ショートカットの髪形のせいで遠くにいるとやや幼く見えたのだが、近くで見ると意外にも美人で面食らった。聖子にはやや劣るが、聖子と一緒にいても遜色はないだろう。
「梨華はよくウチにも遊びに来てたんですよ。聖子の親友でした」
「事件のあった日のこと、聞いてもいいですか?」
だがその時、霊柩車が火葬場に向けて出発するとの声があった。深川梨華も火葬に立ち会うらしい。
「今日はごめんなさい。また、いずれ」
そう言うと深川梨華はくるりと向きを変え、出口のほうに大股で歩いて行った。
「もう少し時間が経ってからでもいいですか? すみません。梨華は大変ショックを受けています。聖子が遅刻して、連絡も取れない時に、待ち合わせ場所で待たずにマンションに来ていれば、もしかしたら聖子を救えたかもしれない。そう思ってるんでしょう」
彼女を責めることはできない。友人が待ち合わせに遅れたからといって殺害されているなどとは普通考えない。そう思ったが、口にはしなかった。
まもなく小松諒太も教会を後にした。
吉高は人脈を作るためにしばらく教会に留まったが、左向が納得するような成果は上げられなかった。
4-2へと続く……